002.君と夜の街を歩く時。
人生とは、なんだろう。
誰もその答えに辿り着くことはない。
「私は、ただの自殺志願者だよ。」
そうだ。俺たちはあくまで自殺志願者に過ぎない。
それでも、君の瞳に誘われるように、俺は立ち上がった。
「お腹減ったしご飯食べよう!もちろん、奢ってね!」
どうして俺が、とはもはやもう思わない。
涙すらつもらない砂漠の中に見つけた、小さな小さなオアシス。
俺が自殺するまでの最期の癒しとなってくれるような、そんな気がした。
群れを離れた渡り鳥は、きっと自分の旅路に後悔する事しかできない。しかし、水平線に昇る朝日を独り占めにできるなら、こんな最期でも良いかと思う。
君を見つめながら擦る視界。
気づけば、ぼんやりと星が見え始めた。きっとこの夜はもう曇らない。
時間は深夜0時。特に会話もなく、俺は彼女に着いて行った。
「ねえ、君はどうして死にたいの?」
ぽつりと彼女が口を開いた。
「えっと、それは...」
「...やっぱいいや。言いたくないよね。そういうの。」
「...あ、ありがと」
こんなところで自分の死にたい理由を語りたくはないし、誰にも教えたくはない。
教えたところで俺の救済には何一つとしてなりはしない。
俺が如何にクズな人間かが露呈するだけでメリットは何一つとして無い。自分の弱みはもう墓場まで持っていくと決めたのだ。
―
24時間営業のハンバーガー店にやってきた。
「君は何が食べたい?」
彼女が俺に問いかける。
「え...俺食欲ない...」
「何でもいいからあんたも食べなさい!じゃあ私と同じのね!」
そう言って、彼女は俺の金で照り焼きバーガーのセットを二つ注文した。あんまりお腹減ってないんだけどな。
注文している彼女を眺めていると、奥にいた店員と目があってしまった。俺はすかさず目を逸らす。
こんな深夜に頑張って働いている人もいるのに、俺は何もかもから逃げ出した。自分勝手で迷惑しかかけない俺に生きている価値はないのだ。そんなこと何度も自覚した。だから、今日全ての物語を終わらせようとしたのに。
「ほら!食べるよ!」
食欲はないけど、食べないわけにもいかない。
「うーん!やっぱり照り焼きはおいしーー!!味が濃いジャンキーなフードが結局最高なのよね!」
俺も照り焼きチーズバーガーを一口頬張る。
「......美味しい。」
なんだこれは。美味しい。美味しいぞ。
そういえば、まともな食事をとるのは久しぶりかもしれない。
最近はただ生きる為だけにコンビニの安いおにぎりやらカップラーメンやらを食べているだけだった。このハンバーガーも世間一般から見ればまともな食事ではないのかも知れないけれど、今の俺にとってはミシュラン3つ星だ。
気づけば、俺はハンバーガーとセットのポテトを必死に頬張り続け、彼女よりも先に完食してしまっていた。
「早く食べすぎると喉に詰まりますよ〜」
「美味しくて、つい...。」
「まあさっきの泣き顔より今の満足した顔の方が君には似合ってるよ。」
「え...」
「少し笑顔になったね。」
人前で笑顔になったのなんていつ振りだろうか。
「泊まるところ探さないとねーーー流石にここにずっといるわけにもいかないし。」
「...そういえば、さっき通った道にネカフェあったよ...」
「おーいいじゃん!もちろん君のお金ねー!」
「あはは...まあいいよ...」
「あ!そうだ!忘れてたことあった!」
ハッとした表情で彼女は何かを思い出したようだ。
「ねえ、君の名前は、何?」
そういえば伝えていなかった。いや、伝える意味もないと思っていた。まあ名前くらい教えてもいいか。
「藤原魁皇...魅力の魅に...皇の皇でかいおうって読みます。」
「へぇー良い名前じゃーん!!!」
「じゃっ、私も自己紹介しないとね!」
「私の名前は、環月凛」
「死ぬまでよろしくね、藤原くん!」