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太陽が隠れるずっと前から 2話

 放課後というのは意外と早く来るもので。掃除が終わって、帰りの会が終わればもう放課後。健全な高校生なら部活に精を出すのだろうけど、俺は不健全だ。

 まあ不健全と言ってもここで書くとBANされるようなベクトルではなくて。


「おっし!行くぞおめぇらッ!」

「今日も性懲りもなく僕らは道草を食むのかい?」

「おう!その通りだ。な、駒橋?」

「まあ。二人共乗り気だし」


 女ッ気のない男三人、寂しく放課後に屯する。そんな不健全さ。

 先頭に立って拳を振り上げながら道草を宣言する恰幅の良いのが間宮。その後ろをニヤケ顔で付ける背が低く不健康そうなのが箕面。その後ろに俺。

 高校で初めて一緒になっていつの間にか意気投合していた不思議な一団だ。


「んで、どこで道草を食むか」

「決めて無いのかよ」

「行き当たりばったり、正に僕ららしい」

「あったりめぇよ。オレは民主主義者だからな」


 協調性はあっても行き当たりばったり。案外適当で薄い主体性。

 意外と似通った所が多かったりする。


「そうだね、僕は安い餡子が食いたい。出来れば温かいの」

「たい焼きが大判焼きか?だったらスーパーのフードコートにする?」

「オレはそれに一票。だが野埼、アレは今川焼だ」

「餡まんも捨てがたいけど僕もそれで。後、野埼君。アレは回転焼きと呼ばれる食べ物だよ」

「じゃ決定で。それと何度も言うが大判焼き一択、いいか?」


 ひび割れたアスファルトの道を三人、歩きながら道草の予定を決める。

 因みにどうでもいいところで、頑なに自分の主張を押し通そうとする悪い癖もこの三人は似ていたりする。自分で言うのも何だけど。




「もう夏休みまであとひと月を切ったのか。いやぁ時は早い!」

「ついこの前まで春休みだったのにね。ああ、期末テストの足音が聞こえる」


 場所は変わって近所の総合スーパー。二階に位置するフードコートは平日の宿命である客単価の低い客――学生の事――で賑わっていた。

 幸いな事に席を確保するには困らなかった。三人で大判焼き――ここでの呼び方だと御座候を買うと、ついでにフライドポテトなんかも買っちゃう。これは俺のおごり。

 さてさて。席について開口一番、間宮と箕面の二人は直前に迫る夏に思いを馳せ始めた。

 確かにもうすぐ夏休み。気温も高くなる一方で、エアコンをついつい付けたくなる。


「テストに夏休みかぁ……面倒な」

「おう?いや夏休みが面倒?」


 ポロっと俺が愚痴をこぼすと、目を真丸にして間宮が尋ねた。

 まあ普通はそうだろう。夏休みが面倒なんて学生、居ないのだから。


「朝食昼食に洗濯掃除をどうしようって。ほら、親が日中居ないから」

「何だそんな事かよ」

「君は料理出来るだろう?家事だって機械が大抵やってくれる。何も問題ないじゃないか」 

「そうは言っても。作れると作りたいは違うし、面倒なものは面倒」


 疑問を呈する二人に俺は力説する。長期休暇になると本当に親の有難さを感じるのだ。

 不思議なもので普段はまるで感じる機会が少ないのに。多分家にずっと居るからだろう。


「とは言ってもお前。野埼が居るからどうせしないだろ」

「そうだった。君にはいい幼馴染が居るからね、きっと彼女に頼めばいつもみたいに甲斐甲斐しく世話してくれるよ。小言を言われながらね」


 すると二人はいきなり脈絡のない言葉を紡ぎ始めた。

 一瞬、意味が分からなかったが、まあ何となく言いたい事は分かった。


「んな訳ないだろ。アイツ、意外と忙しいのに」

「おっ、プライベートに詳しい。流石だねぇ」

「なるほどね。でも何だかんだ言って来てくれそうだけどね、彼女は」


 俺がいくら現実を言っても、部外者は憶測だけで論じるのだ。どんな業界も。


「ああ、この話は終わり終わり。どうせ憶測で下らん話になる。アウトソーシングなんてしないからな!俺は」

「訳分らん横文字使うなよ。外注って言え、外注って」

「下請けが適切なのでは?どちらにせよ仕事は投げない、と?」

「その通り。で、話を戻すぞ、テストだ」

「大分戻ったね……」

「テストなぁ」


 下らない内容から話を戻して。

 二人に現実を突きつけると、いつになく二人は不機嫌そうな表情をする。まあ、学生にとってテスト以上に憂鬱な物は少ないから。


「オレ、いつまでも人様のスキャンダルで食っていける仕事に着きたい。テストなんかしたくねぇ」

「週刊誌にでも入る気?まあその手の出版社に入社する為にテストする時があるとか」

「うーむ、現実は不条理!」


 現実に打ちひしがられる間宮。

 まあ万人が万人、スキャンダルで飯は食えない。精々、気晴らしの話題に持ちあげる程度だ。それぐらいが丁度いいのかもしれない。

 四六時中、他人の醜聞を聞くだけの仕事なんか着いたら頭がおかしくなりそうだ。

 なんて他人事のように聞いていると、ニヤケ顔で二人が俺を見ている事に気が付いた。


「何だよ」

「ん、いやね。進展どうですか?」

「進展?いや、何の」

「そりゃ、野埼とのだよ。さっきは誤魔化されたけど気になるモンは気になる」


 尋ねると答えてくれた。馬鹿は話が早くて助かる。

 じゃぁない。


「ただの友人。それ以上でもそれ以下でもない」

「それ以上になる予定は?」

「無い!」

「嘘吐け惚れてんだろおめぇは」

「んなぁ!訳……。ない、けど」

「お、惚れの字か?」

「まあまあ。駒橋だって思春期男子さ。正直には認められないんだよ、ね?」 


 バカは話は早くても理解はできない。その事実を俺はすっかり忘れていた。

「ホの字なら当たって砕けろ!って昔の人が言ったな。なんて言うんだっけか」

「玉砕じゃないかな?ガラス玉みたいに綺麗に砕けろって。多用するバカのせいで犬死の意味になったけど」

「なるほど。駒橋は勝ち目のない戦いに臨むってコトだな?」

「さあ、どうだろう?まあ、男子は無謀な告白の成功率を100%で見積もる悪い癖があるからね。駒橋も同様だとすると……」

「お前らは俺が野埼にアタックして失敗する様子が見たいだけだろ!」

「うん。僕はそれが見たい」

「オレも見たい」

「無責任な。第一、俺と野埼はだな――」


 下らない話は弾み、時間は流れて。

 徐々に空は昏くなり、いつの間にか時刻は夜の六時。

 明日も学校だし、そろそろお開きと言う事で解散となった。

 俺は一人、歩道から空を見る。明星輝く六月の黄昏時、明日こそは。

 そう決意した俺はボチボチと帰路を急ぐのだった。


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