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太陽が隠れるずっと前から 1話

 

 ポンっ!と後頭部を丸めた冊子で叩かれた。

 人が気持ちよく懐かしい夢を見ていたというのに。

 午前の授業は寝ている内にすっかり終わって今はお昼休み。別にお昼休みなら好きに過ごしてもいいじゃないか、と俺は二度寝を決めようと机に伏す。

 が、そんな俺のささやかな贅沢も甲高く脳に響く声のせいでお釈迦だ。


「ちょッ!アンタ寝てないで起きなさいよ!今、お昼休み!」


 チラリ、と机の上で組んだ腕から顔を覗かせると、やはりと言うべきか。

 野埼だ。

 野埼彩。薄茶色の髪は今日も靡き、口を開けば八重歯がキラリと輝く。

 ……やっぱ美人だよな。うん、惚れそう。いや、惚れてた。


「……ったく寝てたっていいじゃないか。で、何の用?」


 素直になれない俺はちょっと投げやり気味に野埼に尋ねる。

 どうも野埼を前にすると調子が狂う。他の人ならそうではないのに。思春期男子か?

 ……ああ、思春期男子だった。


「もうお昼休みよ。さっさとご飯食べないとお腹ペコペコで午後の授業受ける羽目になるのよ?とっとと急ぎなさいな」


 そんな俺のボヤキを知る由もない野埼は甲高い声で教えてくれた。

 んな事、言われなくても分かってる。


「んぁ」

「覇気がない!」

「無くったって生きていける……分かった、分かったから。な、弁当出すから」


 むっすりと頬を膨らませて俺を睨みつける。ネズミフグみたいで可愛いな……じゃなくて。

 野埼が睨みつける時は大抵、機嫌が悪い時だ。十ウン年の付き合い、それぐらいは見抜けるようになる。きっと授業の内容が分からなくて不機嫌なのだ。愛い奴め。

 そんな時は小手先の機嫌取りで何とでもなるのだ。十ウン年の経験則から導き出した方程式である。

 因みに俺は家で教科書を読んで無理やり理解した。そのお陰で授業中に眠れるのだ。非効率だけど。


「……何?何か付いてる?ねえ、教えなさいって」


 不自然な俺の言葉の間に不安がって尋ねる野埼。やっぱり愛い。尊い。

 じゃなくて。


「何も。で、俺はどうすればいいんだ?」

「そこに座って弁当でも出して待ってなさい」


 尋ねると野埼はさも当然の事のように答えると、俺の前の席に座る男子に睨みを利かせる。

 俺達の会話が気になってか、チラリと伺っていた奴は野埼に睨まれるとイスから転げ落ち、慌てて教室のどこかへと消えていった。けっ、睨まれるなんでうらやm……。

 何だか悪い事をしてしまったように感じる。んまあ、悪いのは野埼だけど。


「何よ」

「いいや何でも」


 ちょっと羨ましい……なんて事、言えるはずない。


「ちょっと強引だとは思うけど。で、今日の要件は?」

「ふん。アタシの自由でしょ」


 弁当の包みを解きながら俺は続けて聞いてみる。

 それに野埼はさも当然のように腕を組む。ちょっと気分屋で強引、それだけ聞くと可愛げのない奴だが……。

 椅子の背を俺の机にぴったりと付け、それに寄りかかりながら野埼は無を俺の机に置いた。

 ほら、自分の弁当をカバンに置いてきた。真っ赤に顔を染めて野埼は弁当を取りにそそくさと一旦、退散するのだった。




 昼休みも半分程経過して。

 零れる欠伸を噛み殺しながら俺は改めて俺は野埼を見る。

 弁当箱からコロッケを一つ、箸でつまんで口に運ぶ。様になっていた。


「……何よ。アタシの顔に何か付いてるの?」

「いや、何も」

「……ふん」


 理由もなく見ていたからだろう。ちょっと馬鹿にされたと勘違いした野埼が少し不機嫌そうに尋ねる。

 首を振りながら答えると、野埼は一息つくとそう呟いた。

 中々、話が続かない。まあ、いつもの事。なぜか野埼はお昼休みになると俺の元に来ては一緒にお昼ご飯を食べる。特に話題が無くても、本当にいつも。

 まあ、理由はどうでもいい。毎日、一緒にお昼を食べているからこそ出来る事もある。

 例えばついさっき思い出した日食の話とか――


「なあ野z――」

「ねえ。さっきの授業のノート、見せて」

「え?ああ、確か鞄に」


 少し昔話でもしよう、そう思って口を開くと丁度野埼と被った。

 箸を置いて尋ねる彼女。鞄に仕舞ったノートを俺は咄嗟に探し始める。

 機会を逃してしまった。まあ、何とかなるだろ。多分。


「これだろ。はい」

「ありがと。うん、やっぱりアンタのノートが一番見やすいわ」

「そいつはどうも」

「妙に難しいのが悪いのよ。それにアタシ、全部出来ない!って訳でもないし。アンタだってテスト前によく泣きつくでしょ?特異不得意って奴。分かった?」

「それにしては回数が多いし借りる期間も長い。さぞ綺麗に書き写してるんだろうなって」

「……アンタ、バカって言いたいのね」


 ちょっとだけ売り言葉に買い言葉気味に俺が皮肉を言うと、野埼はストレートに返す。

 いやまあそう言いたい訳じゃ……まあ、そう聞こえても無理はないか。


「分かった。飯をマズくして悪かった」

「……ふん。テスト前に泣きついても知らないんだから」


 俺が謝ると少しだけ機嫌を直した野埼は、そう言い切る。

 泣きつくのは野埼だろ……なんて喉から出そうだったけど無理やり抑え込んで。

 俺はミートボールを箸で掴みながらため息を一つ吐く。

 どうしよう。結局、言えなかった。折角のチャンスだったのに。

 こういう予定は早い内に言った方がいいに決まってるのに。

 多分、忘れてると思うけど、幼い日の約束を破る訳には行かない。

 でも、いつ伝えよう?どうしても足を踏み出せずにお昼休みは終わり、午後の授業が始まった。


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