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#8 快速帆船!

 #8 快速帆船!


 昶Side


 あたしと亜耶が今乗っているこのシデン級二番艦「ウネビ」はオヴェリア群島連邦共和国海軍所属の軍艦である。

 その全長は89m、全幅13m、メインマストの高さは18.9m。武装はカロネード砲が両舷に30門ずつの合計60門に空を飛ぶモンスター対策という旋回砲が装備されている。


 地球世界の帆船で例えた場合、かの有名なティークリッパー船の「カティ・サーク」とほぼ同じ大きさである。

 違うのは商業帆船だった「カティ・サーク」と違って重武装であるのと船体の色が綺麗な白色である事だ。


「こういう形で「連邦の白い新型」に乗る事になるとは……」

「何を言ってるんですか昶……まあ言いたいことはわからなくもないですが」

「だって「連邦の白い奴」ってパワーワードじゃない?」

「何処の機動戦士ですかそれ」

「まあ冗談はともかくとして、よ。まさかこの船にまた出会うとはね」

「そうですね、本来ならこちらの世界の海には存在しない筈の船ですし」


 あたしと亜耶が話しているとヒロ君が果実水の瓶を持って此方へと揺れる甲板をバランスを取りながら歩いてきた。


「さっきは坂崎将軍と引き会わせてくれて助かったよ、はいこれ…………やはり現役の船乗りの目は確かだね」

「以前そちらの世界へ転移した時に見学させて頂いた船に出会うなんてとんでもない確率ですからね」

「いや全くだよ……先週やっと完成したんだ」

「そして処女航海で異世界転移しちゃうなんて、ね」

「それそれ!本当に驚いたよ、おまけに転移したら目の前がシーサーペントの群に囲まれてるし」

「でもヒロ君達はまだ運が良かったと思うよ?」

「え??シーサーペントに囲まれてあれだけの戦闘になったのに?!なんで?!」

「まあそう言いたくなるのもわかるんだけどさ」

「あの海域は元々大型モンスターが出現する所でつい最近も超大型の魔導種……魔法攻撃能力を持つ個体が出て正規軍艦隊と傭兵艦隊が出動、大規模戦闘を三回行ってやっと討伐できたんですよ」

「そんな事があったのか……傭兵艦隊も出動したって事は昶と亜耶も?」


 ヒロ君の問いにあたしと亜耶は頷くと話を続けた。


「そ。あたし達の船もその戦闘で超大型の奴に撃沈されちゃってね……まあ話すと長くなるんだけどその時の戦闘記録があるから入港したら観られるように話を通しておくよ」

「確かにこの世界の艦隊の戦術機動とか戦法は気になるなあ……滅多に無い機会だしお言葉に甘えさせて貰う事にするよ」

「あたしも帆船の砲撃を見られるとは思わなかったし驚いたわよ」

「そうですね……此方の世界では帆船は海軍の練習帆船くらいしか無いですからそもそも大型帆船そのものが珍しいですし」

「でも本当に帆船って静かに進むのねえ……さすがに風の影響はもろに受ける感じだけど……うわっと!」


 不意に「ウネビ」がぐらりと揺れると風に押し出されるような加速Gを感じた。


「お。良い風が吹き始めたみたいだね」

「今結構な加速をしたようでしたが……」

「よし、ちょうどいいや……このまま西へ進路を取ってればいいんだよね?」

「?……はい、その通りですが……「ちょうどいい」って一体何をするんです?」


 亜耶が首を傾げるとヒロ君はまるで悪戯っ子のような笑顔で言った。


「この「ウネビ」の最高速力試験だよ」


 ヒロ君の言葉に呼応するように更に強い追い風が吹き始めた。




 駆潜艇12号 艦橋


「……やれやれ、今回の魔導種の浮上があの程度で済んで運が良かったな」

「全くもって同感です……この前みたいな超大型だったらと思うとゾッとします」

「しかし有人状態の船が出てきたのは驚いたな、しかも年代物同然の帆船とはいえ重武装ときた」


 艇長の話を聞きながら航海長が右舷後方を見ると僅かな違和感があった。


「あれ……?」

「どうした?」

「さっきよりこの船との距離が詰まってませんか?」

「まさか」


 艇長は笑いながら否定した。


「そんな筈はなかろう、帆船なんぞせいぜい10ノット程度の速力だった筈だ」

「艇長、あれは明らかに増速しています!……このままでは追いつかれますっ!!」

「な、なんだと?!……最大戦速だ!帆船において行かれたら恥だぞ!」

「はっ、はい!機関最大戦速!!」


 主機が唸りをあげると駆潜艇12号が速力を上げる。




 亜耶Side


「あ、駆潜艇12号も速力を上げたみたいですね」

「ねえ亜耶、あの「クセンテイ」っていう船ってどれ位の速力でるの?」

「……確か16ノットだったと思いますが」

「そっか、じゃあこっちが先に着いちゃうかな」

「「えっ」」

「だってほら」

「「あ。」」


 ヒロさんが指さした方向、左舷前方を私と昶が見ると明らかに先程に比べて被我の距離が詰まっている。


「……そういえばクリッパー船って速力が自慢だったわよね……」

「これは追い抜いてしまいますね……」


 昶と見ている間にも「ウネビ」は風にのって速力を上げていく。

 とは言っても風任せなので空中艦のように主機のパワーに頼って一気に速度が上がる訳ではなくぐんぐんと、しかし確実に距離を詰める。


「ちょっと……これって16ノットどころじゃない速力出てない?」

「かなり良い風に乗れたみたいだからねえ。おーい、リュウセイ!速力はどうなってるー?」

「おう!今ハンドログを巻き上げてる所だ!!この感じじゃ19ノット位出てるんじゃねえかな?!こいつぁ大した船だぜ!」


 船舶の速度はノットという単位で表されるがこれは1時間で1海里を移動するのが1ノットである。

 1海里が1852メートルだから19ノットは大体時速35kmという事になる。

 昔は速力の計測にはハンドログといって板が付いた等間隔に結び目のあるロープを海中に投げ入れて砂時計の落ちる迄そのロープを流し、それを引き上げる時にその結びノットの数を数える事で速力を割り出していたという。


 駆潜艇の最高速力は16ノットだからほぼ時速30kmなので19ノットが出ているのならば余裕で「ウネビ」が追い抜ける事になる。

 そして実際、「ウネビ」は駆潜艇12号と完全に併走する状態にまで追いついていた。




 駆潜艇12号 艦橋


「お、おい!もっと速力は上げられんのか機関長!」

「無理です!これ以上回したら主機が焼き付いて使い物にならなくなります!」

「ああっ!!だめだ追い抜かれるぞ!!」


 一段と風に乗った「ウネビ」が追い抜きにかかった。まるで速力自慢の駆逐艦のように船首に盛大に波を立てて、船体をゆったりと大きくピッチングさせながらあっさりと駆潜艇12号をまくり、追い抜いていく。


「なんてこった……!!……ん?「ウネビ」から発光信号です!」

「なんだと?なんと言っている?」


 そのモールス信号はこうなっていた。


『 ー・・ ・ー・ー・ ・ーーー・ ・ー・ー・ ー・・・ ーーー・ ・・・ー ーー・ ーー ・・・ー ・ー・ーー ーーー・ー ・・ー・・ ・・ー・ ー・・ーー ・・ー


 ー・ー・ー ー・ー・・ ー・ー・ ・・ー・ー ・ー・ ・・ー・・

ー・ー・ ・ー ・・・ー ーー・ー


 ー・ー ・ー・・ ー・ー・ー ーー・ーー ー・ー・・ ・・・』


「えー…………」

「なんだ?なんて言ってきた?」

「えー……「本船は最高速力のテスト中 先に港に行くね 若桜昶」です……」

「はああああ?……あのおてんば娘共は……」


 思わず艇長は頭を抱えた。


「仕方ない、キャンドルタウンの港湾局に受け入れの連絡をしておいてくれ」

「了解しました」


 


 昶Side


「あっさり追い抜いてしまいましたね…………」


 亜耶が風で乱れた髪を後ろにまとめながら左舷後方へと目をやった。

 煙突から盛大に黒煙を上げながら全速力で航行する駆潜艇12号がどんどん小さくなって行く。

 甲板では設計以上の速力が出たらしくお祭り騒ぎのようになっていた。

 リュウセイ氏の話によれば19ノット近い速力が出ていたらしい。

 これはかの有名なティークリッパー船の「カティ・サーク」や「サーモピレー」といった船舶の歴史に残るクリッパー船と同等の速度性能をこの「ウネビ」は持っているという事だ。


 そして「ウネビ」は駆潜艇12号に大差をつけてキャンドルタウン港へと無事入港したのである。


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