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#6 船の名は。

 #6 船の名は。

 

 昶Side


 眼下を見ると白いクリッパー船が駆潜艇12号の右斜め後方を同じ速力で帆走しているのが見える。

 海はついさっきまで15匹ものシーサーペントとの戦闘があったとは思えないくらい静けさを取り戻していた。


「昶、空中重巡洋艦「黒姫」がまもなくこちらに到着、合流します……艦影が既にあそこに」

『ブラッククラウンよりトパーズ1、本艦の着水後、直ちに着艦せよ』

「トパーズ1、了解」

『あー、トパーズ1、私だ』

「え?坂崎准将?……直接通信に出るとは珍しいですね?」

『うん、君達の眼下にはもっと珍しい船がいるからね、着艦したらすぐに私の所へ来てくれ』

「了解しました」


 まあそうなるか。魔導種の出現はこれまで何度もあったけど有人状態の船舶が出現したのは今回が初めてのケースみたいだからね。



 クリッパー船 甲板


 ヒロ達の船の右舷側の真横に今度は飛行してきた灰色の巨大な鉄の船が降下し、着水するのが見えた。

 お互いの距離はカロネード砲の射程距離の倍といった所だろうか。


「なんてでけえ船だ……」

「僕らの船の倍以上の全長はありそうだな……それに搭載している大砲がもう一隻の灰色の鉄の船より格段に大きい」

「ねえヒロ、あれって以前昶さんが言ってた「母艦」っていう船かしら?……ほら、昶さんの声が聞こえた紫の偶像が降りたわよ」

「みたいだね……いずれにしても彼女達と話がしたいな、リュウセイ、あの大きい方の船に手旗信号を送りたい」

「そいつは賛成だが俺達の手旗信号があの連中に読みとれるのか?」

「あ……そうか、困ったな」

「いや、方法はありますよ」

「え?先生、どんな方法が?」

「以前、希人から伝わった信号があるのをご存じでしょう?」

「ああ!「モールス信号」ってやつか!リュウセイ!発光信号を送ろう、ヘリオグラフ(太陽光を平面鏡で反射させて使う初歩的な通信機器)の用意をしてくれ」

「そいつはいいが「モールス信号」なんて使える奴いたか?」

「私がやりましょう、会話ができるのなら通じる筈です」

「わかった、じゃあ先生に任せる」

「どう呼びかけます?」

「じゃあ……」


 少し考えるとヒロは昶達に呼びかけるための文言をトウバル船医に伝えた。



 昶Side


 ミスティックシャドウⅡを「黒姫」に着艦させ、機体からあたしと亜耶が降りるとすぐに坂崎准将の待つ会議室(と言っても士官食堂と兼用だが)へと通された。


「「若桜、涼月、両名哨戒及び戦闘任務を終えただ今戻りました」」

「うん、二人ともご苦労だった……早速だがたった今あの帆船からモールスを使った発光信号で呼びかけがあった……君達二人を指名してだ」

「返事はもうなさったのですか?」

「少し時間をくれと伝えたら「了解した」と返信があったよ……まずこの件の概要が知りたい、さっきの通信であの帆船の所属が「オヴェリア群島連邦共和国」と言ったようだが間違い無いかね?」

「はい、私も若桜少佐も船尾の国旗を確認しました、そしてあの帆船の甲板上に知り合い……いえ異世界の友人三名が乗り組んでいるのを機体のホログラフによる目視で二人同時に確認しています」

「うむ、その「オヴェリア群島連邦共和国」は以前君達の報告書で読んだ新装備の試験飛行時に起こった空間転移事故で訪れた異世界の国と言う事だがそれも間違いないかね?」

「はい、間違いありません」

「私も涼月少佐と同様です、そして彼の国の人々は現在確認できたヒロ氏、ビアンカ氏以外にも、その国家元首たるケイゴ大統領も含めて私達に非常に友好的且つ親切にこの世界に戻れるよう尽力して頂きました、ですから彼らから呼びかけがあったのなら積極的に友好的な対応をすべきと考えます」

「よし、君達を信じよう……今から発光信号で了解の旨と内火艇で向こうの船に行く返信をしておくから二人とも用意しておいてくれ」

「「了解しました」」



 あたしと亜耶が白い礼装に着替えて海上に降ろされた内火艇に乗るべく移動していると通路で坂崎准将と合流した。

 ヒロ君のオヴェリア軍での元軍主という立場を考えた場合この部隊の最高責任者たる坂崎准将も一緒に訪問するべきだとの結論に至った為である。




 クリッパー船 甲板上


「返信来ましたよ」

「先生、彼らは何て言ってきた?」

「ええとですね……「ワカサアキラ、スズツキアヤ、リョウショウサオヨビ、ブタイセキニンシャノ、サカザキジュンショウヲ、ソチラニコガタテイデオクル、リョウショウサレタシ」……ですね彼らの方から部隊司令と一緒に来てくれるようです」

「そうか、きちんと伝わってるみたいだね、じゃあ僕の名前で了解したって伝えて」

「わかりました」

「久しぶりに昶さんと亜耶さんに会えるわね」

「うん、さっきの戦闘の様子じゃ元気そうだね……しかし困ったなあ、あいつの事も一応伝えた方がいいよなあ」

「あいつ?」

「ビアンカ嬢ちゃん……アレですわ……イリエの野郎も船ごとこっちへって可能性も……」

「ええ……それは面倒そうだわね……」

「はあああああ……伝えるとしよう、隠しても意味がないし彼らに空から捜索して貰った方がいいだろうし」

「そうだな……今の俺達には情報も手段も無さすぎる」


 そしてヒロとリュウセイは深いため息をついたのである。


「お頭……じゃなかった艦長!まもなく向こうの小型船がこっちに接舷しますぜ!」

「おう、わかった!今からそっちに行く!」

「来たみたいね」

「私も同席したいのですがよろしいですか」

「そうだね、トウバル先生にもいて貰った方がいいな、頼むよ」


 大型の灰色の船から来た小型船はヒロ達の船に接舷すると降ろされた縄梯子を伝って見覚えのある異世界の友人の少女二人と、准将の階級章を付けた中年男性の将校が乗り込んできた。


 お互いに海軍式の敬礼をする。


「ラティス帝国軍傭兵部隊「アトロポス」司令の坂崎准将です」

「同じく若桜昶少佐です」

「涼月亜耶少佐です」

「オヴェリア群島連邦共和国のヒロ・オヴェリアです、先ほどは危ない所を援護して頂きありがとうございました」

「いえ、こちらこそ部下が危ない時に砲の一斉射撃で助けて頂いたようで……お互い様ですよ」

「とにかく甲板上で立ち話という訳にもいかないでしょうから船長室に案内します、どうぞこちらへ」


 ヒロが促すと昶達三人とヒロ、ビアンカ、リュウセイ、トウバル船医の七人は船の後部にある船長室へと移動する事となった。




 昶Side


 あたし達はヒロ君の後について甲板から船内へと階段を下りるとずらりと並んだカロネード砲の横を通って後部にある船長室へと向かう。


「ねえヒロく……ええと何て呼べばいいのかな……ヒロ提督?」

「ん。この前のままでいいよ、その方が話しやすいから」

「ありがと、じゃあヒロ君、この船ってこの前あたし達が群島に行った時に見学させて貰ったシデン級二番艦?」

「うん、そうそう。あの時はまだ建造中だったけどやっと完成したんだ、そしてその処女航海の最中に「こっちの世界」に来ちゃったんだ……で、この船の名前なんだけど……おっと、ここが船長室だから詳しい話はこの中で……どうぞ坂崎准将」

「ではお邪魔させていただきます」

「「おじゃまします」」


 船長室は豪華というよりも軍艦らしく機能優先の質実剛健な作りだった。

 ベッドと机、本棚とテーブルにソファー、小さな洗面台がある。

 わかりやすく言えば「カリブ海の海賊が主人公の超有名ハリウッド映画」を思い出すといいかもしれない。


「……ん?!その絵は?!?!」

「この船は!!」


 坂崎准将と亜耶の声に思わずその方向を見るとそこには二隻の帆船が併走する絵が飾られていた。

 そしてその絵にはあたしも知っている日本の船が描かれていた。


「ヒロ君、この絵の船って……!!」

「ああ、それはこの船の名前の由来になった希人の船で……」

「防護巡洋艦 「畝傍ウネビ」……に見受けられるが……いやまさか……」

「えっ?みんなどうしてこの船の、「ウネビ」の名前を知ってるの?」

「どういう事?」


 ただ一人、船舶の知識に疎いビアンカちゃんが疑問の声をあげる。


「ええとね、ビアンカちゃん……この絵で併走している船ね、あたしや坂崎准将がこの世界に転生する前に住んでいた「日本」の海軍の船で、完成して日本海軍に引き渡す為に回航している途中で謎の消失……行方不明になった軍艦なのよ」

「ええっ?!昶さん達の国の船だったの?」

「うん、とは言っても畝傍が行方不明になったのはあたしが住んでた日本だと130年以上昔の話になるけどね」

「確かにオヴェリアの大統領府にある図書館の文献にもこの船に関する記述で「ニホン」と「フランス」という国の人々が群島に流れ着いた記録があります」

「そうなのか……我々日本人転生者が知っている防護巡洋艦「畝傍」の行方不明についての顛末なのだが……」


 「ウネビと畝傍」が描かれた絵画を見ながら坂崎准将は「畝傍」消失事件について話し始めた。


 「畝傍」は1886年、つまり明治19年10月に完成している。

 当時の旧日本海軍がフランスの造船所に発注、建造させた防護巡洋艦である。

 10月18日に就役した「畝傍」は建造されたフランスのルアーブルから日本へ向けて出航していた。

 そしてその途中でシンガポールに寄港し、12月3日に出航した後に南シナ海で行方不明となった。

 この時は海軍の甲鉄艦「扶桑」や「海門」が四国沖から八丈島にかけての大がかりな捜索を行い、当該海域を航行していた外国の船も協力したのだが手がかりさえも発見できず、乗客乗員合計90名全員の消息が130年以上経過した現在でも不明のままである。


 消失の原因については例えば「無人島に漂着して修理している」とか「清国の海軍に撃沈された」とか「ロシア海軍に拿捕されてバルチック艦隊に編入された」等の根拠の無い噂も含めて諸説色々あったという。

 

 実際には畝傍が甲板面積の狭いタンブル・ホーム構造であるが故にその狭さを補うべく上部構造物を高くし、更に旧日本海軍の注文で過大とも言える重武装を施した為に重心が高く、船が傾いた時の復元力が不足していた可能性が高かったのである。

 その為に南シナ海で台風に遭遇し転覆、沈没に至ったと考えられている。


 ちなみに海上自衛隊を含む日本の艦は名前を代々引き継ぐ艦が多い。

 例えば海自のイージス艦は全て旧日本海軍の戦艦や重巡洋艦の名前であるし航空母艦「蒼龍」「加賀」の名前は海自潜水艦「そうりゅう」やヘリコプター搭載護衛艦であり現在空母化の改修工事が進められている「かが」に使われている。

 だが「畝傍」は不吉な名前として一代限りの艦名として未だ使用されていないのである。


 坂崎准将の話をあたし達は静かに聞いていた。

 あたしはそれを聞いていてある事を思い出した。


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