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#13 イリエ、襲来

久しぶりの更新です!

 #13 イリエ、襲来


 キャンドルタウン港


 キャンドルタウンの港湾施設は大まかに三つに分かれている。

 客船埠頭、貨物船埠頭、軍用埠頭の三種類である。


 その軍用埠頭に純白の美しい船体の大型豪華客船、所謂クルーズ船が入港する光景は埠頭でそれを歓迎し出迎える観光業の人達や船舶マニアの目を十分に惹きつける。

 しかし、今回のクルーズ船「ロイヤル・コーラルシー」号が人々の目をこれでもかと惹きつけているのには他に理由があった。

 何故客船埠頭ではなく軍用埠頭なのかというと「ロイヤル・コーラルシー」号と一緒に旧式な帆船とはいえ大砲を持った重武装の海賊船を伴って入港して来たからである。

恋人()

 海賊船「イナグ・シレナ」号の船長、イリエは副長を伴って甲板最前部に立ち望遠鏡でキャンドルタウン港をざっと見渡した。


「うーむ…………これがあの白い船の港か、船自体も大きいが港湾施設もかなりの規模だな」

「こりゃあ下手したらユズリハ港並にでかいかもしれませんぜ親分」

「そうだな、これだけ大きな港ならこの船、我が恋人の「イナグ・シレナ」号を修理するドックも確保出来そうだが……しかしこの見物人の数には閉口するな、まるで見せ物になった気分だ」

「…………まああの白い船に曳航されてますからね」

「……………………」

「しかも親分、舵はキラーホエールにぶつけられて脱落、帆はアイスシーサーペントの氷球の直撃喰らって穴だらけときてますし」

「うーむ…………取り敢えずは食料に消耗した装備の補給と船の修理が必要だが費用を考えると頭が痛いな」

「あの状況じゃあマストが折れてないだけでもマシですぜ親分」

「……そうだな、とにかくあの白い船の船主に護衛料の名目で修理代その他諸々を請求しよう、その旨をまとめた書類を作らせておけ」

「わかりました親分、経理の連中にやらせておきます」

「うむ、頼んだぞ……我々イリエ衆は慈善活動も無償の施しもしない主義なのだからな、あれだけ巨大な船を運航させる連中だ、多めに代金ふっかけてやれ」

「へい親分!重々承知しておりやす!」


 イリエが率いる海賊衆の信条は『酒と喧嘩、奪って襲って犯すが海賊の華』という典型的な悪事を行うタイプである。

 彼らの世界、オヴェリア群島連邦共和国では元軍主であるヒロに従う海賊衆はリュウセイを筆頭にその数は多いのだがそれもしていない。

 成り行きではあるものの結果的に「ロイヤル・コーラルシー」号を助けてしまった以上その対価を多めにふっかけて要求するのは彼らにとって当然の事であった。


 そうこうしている間にも二隻の船は速力を下げて港内に入り停止した。

 タグボートが舷側に付くとそれぞれの船を埠頭に接岸させるべくゆっくりと押し始めた。


「それにしても昨日の戦闘で鉄の鳥から英雄殿ヒロの声が聞こえたのが気になるが……それにアキラ師匠やアヤ殿の声も聞こえたような……いや、考えても仕方が無いな、全てはまず上陸して一息ついてからだな」


 


 昶Side


 「ロイヤル・コーラルシー」号と「イナグ・シレナ」号が入港するとの報告を受けたあたしと亜耶、ヒロ君とビアンカちゃんの四人は亜耶の運転する軍用4WDでキャンドルタウン港の軍用埠頭へと来ていた。


「あ、いたいた。あの白くて大きいのが昨日あたし達が救援した「ロイヤル・コーラルシー」号よヒロ君」

「こうして見ると大きいなあ……軽く全長200mを越えてる」

「確か全長241m、全幅30mだったと思いますよ」

「ウネビの2倍半を越える大きさなのね、坂崎将軍が乗って行った空飛ぶ軍艦と同じくらいありそうよ」

「ところでイリエ船長の船は……って何アレ。ボロボロなんだけど」

「……ボロボロですね」

「……ボロボロねえ」

「……ボロボロだねえ」


 四人の視線が揃ったその先には満身創痍になったイリエ衆の海賊船「イナグ・シレナ」号があった。

 船尾に付いている筈の舵は無くなってるわ無駄に派手な赤い帆は穴だらけだわと酷い有様である。船体もシーサーペントの体当たりでも喰らったのか所々凹んだりしている。

 これで埃が積もったら幽霊船のアトラクションが作れるんじゃないだろうか。


「おい!全部聞こえているぞ!あんまりボロだボロだと言ってくれるな!これでも気にしているのだ!……ん?その声はアキラ師匠にアヤ殿!……おお!!そこにはビアンカ嬢に英雄殿もいるではないかっっっ!!!!今すぐそちらに行く!!聞きたい事が山ほどあるのだ!!!!!」

「わああああっ!!親分っ!!なんでいきなり上甲板から桟橋に飛び降りようとしてるんすかっ!!大怪我しますって!!」

「早く親分を止めろ!!本当に桟橋の英雄殿にダイブしかねないぞ!!」

「あーっ!!昶姐さん!!俺たちあれから銃の練習してるんすよ!!今度見てくだせえっ!!」

「亜耶姐さんも!!以前の魔法にはシビれましたぜ!!今度はその軍靴で俺を踏んでくだせえっ!!」

「いーから早く親分を止めろおおおっっ!!」


 うわあ……騒々しい人達なのは知ってたけど以前に出会った時よりウザさがパワーアップしてないかこれ。

 ふと見ると亜耶は完全にジト目になってるしビアンカちゃんはドン引きしてるしヒロ君はイリエ船長を見て鳥肌寸前の表情になってる。

 

 あたし達やヒロ君を見て暴走しかけたイリエ船長があっという間に部下達に乗っかられ、取り押さえられている間に舷側に縄梯子が垂らされた。

 そして「ええい、わかったからさっさとどかんか馬鹿者!!」と言って部下達をどかしたイリエ船長はもの凄い勢いで縄梯子を降りてくるとこっちに、いや正確にはヒロ君に向かって陸上選手もかくやの全力疾走をしてくる。


「ちょっと?!イリエ船長落ち着いて?!」

「止めてくれるなアキラ師匠、英雄殿には聞きたいことが山ほど……ぬおおおおっ?!」

「ああああああ鬱陶しいっ!!!!」


 どっすん!!!!!

 めっちゃ鈍くて痛そうな音が埠頭に響いた。


「……見事にヒロさんのジャーマンスープレックスが決まりましたね」

「……うっわあ痛そう……」

「……その割に船長さん幸せそうな表情して気絶してるわよ」


 これがアニメだったらぴよぴよという効果音と共にイリエ船長の頭の上で星やヒヨコが回っているに違いない。

 ともあれイリエ衆とはなんともやかましい再会になったのである。




 キャンドルタウン温泉観光ホテル「さざなみの間」


 港での騒ぎの後、亜耶の治癒魔法と部下達の介抱であっさり復活したイリエ船長はあたし達と一緒に4WDでヒロ君達一行が宿泊しているキャンドルタウン温泉観光ホテルへと到着した。


 ちなみに彼の部下達は船を停泊させるのに最小限の人員を船内に残して帝国軍から借りた輸送トラック2台に分乗して一緒に来ている。

 まあ移動中もイリエ船長が自動車や空中艦、帝国軍の兵士達の装備や街中あらゆる物を見ては質問攻めにするので大変だった。青筋たてたヒロ君に怒られなければホテルまでの道中で疲れ切っていたかもしれない。


 さてあたし達はホテルが話し合いの為にと用意してくれたお座敷の部屋の「さざなみの間」にリュウセイ艦長やトウバル先生も含めた主要メンバーと集まっていた。

 ちなみにこのお座敷の部屋、「さざなみの間」「わかしおの間」「すいごうの間」「あやめの間」の他にも日本名でたくさんあったりする。

 このホテルの支配人さんも日本人転生者だそうだけど鉄道マニアなんじゃないだろうか。

 全部国鉄時代からあったJR東日本の特急の列車名なんだが。

 

「まずは現在皆さんが置かれている状況から説明しますね」

「うむ、出来るだけわかりやすく頼む……少なくとも私や英雄殿がいた世界ではないのは既に理解しているがわからん事が多すぎる」

「あら、イリエ船長はわりとすぐにここが「異世界」だって気が付いてたのね?」

「確信したのは夜になってからだがな……ただそれでもあの妙な虹色の霧が消えた直後に変だとは思っていた」

「何故そう思ったのです?」

「潮だ」

「潮?潮流で?」

「ああ、虹色の霧が晴れるのと同時に潮の流れが急激に変わった……あんな潮流の変化は見た事がない、夜になってこの世界が異世界だと確信したのは星座が我々の知る星座とは全面的に異なる物だったからだ」

「なるほど……船乗りならではの納得出来る理由だわね」

「この位の判断はある程度の経験のある船乗りなら誰でも出来る判断だ、そうだろう?英雄殿」

「そうだな、僕たちも出た海域が静かな場所なら多分同じ判断をしていたと思う」

「……ん?英雄殿の船は我々とは違っていたのか?」

「それに付いてはあたしから詳しく説明するわ」

「ああ頼む、アキラ師匠」

「その師匠ってのやめて欲しいんだけどなあ……」


 あたしは内心頭を抱えつつキャンドルタウン沖のマナヴォルカンでの魔力の異常増加現象の調査を始めた所から亜耶と共に説明を始めた。


ちなみに「ロイヤル・コーラルシー」号の全長と全幅は日本のクルーズ船「飛鳥Ⅱ」とほぼ同じ大きさだったりします。

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