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【第07話】共生進化

 

『映像を何度再生されても、にわかに信じられんな……。訓練を始めて一日も経たずに、銃を撃てるようになったのか……』

 

 映像が再生されるまで、俺の隣で司令官ポーズを作っていたギャミン少尉が、前のめり気味な体勢で見入っている。

 前回と同じ大学の講義室みたいな部屋に、顔を出しているのは俺を含め五名。

 照明を落として薄暗くなった会議室の前方には、訓練中の俺達をモニター室から記録した映像がポイントだけをピックアップされた編集版で、繰り返し再生されている。

 

 最初に映った記録は、仮想訓練用のレーザー銃を握り締めた俺だ。

 ドローンが映したホログラムのオルグ族に向かって、レーザーを淡々と俺が撃ち続けていた。

 俺の足元では今日の実験に一番長く付き合ってくれた、茶色ビーグル頭の『チャビー』が激しく吠えている。


 レーザー銃が弾切れを起こし、俺が足下に転がってるレーザー銃に手を伸ばす。

 しかし、どれも弾切れだったらしく、大根役者な演技(・・・・・・・)でどの銃も弾が無いと慌てたような動きをする俺。


 それを見たルト族のチャビーが四肢を使って離れた場所へ駆け出し、落ちていたレーザー銃を拾った。

 犬口に咥えて戻って来たチャビーから俺がレーザー銃を受け取り、オルグ族の脳天に青い光弾を撃ち込む。

 ホログラム映像のオルグ族が消え、俺がチャビーの頭を撫でて褒めまくってるタイミングで映像が切り替わる。

 

 次の記録は、俺が実際にレーザー銃をチャビーに握らせ、トリガーを引かせて銃を撃たせてる映像だ。

 最期の映像は、俺がレーザー銃を撃ってる隣でチャビーも俺を真似て、レーザー銃を撃ってる記録が流れている。

 頭を撃ち抜くのはまだ難しいようだが、標的であるオルグ族の身体には当たっていた。

 

『仮説を交えても構わん。この異常事態を遺伝子学、医学、生物学……。それぞれを専門とする君達三人が出した結論を、私に説明してくれ』

 

 少しだけ冷静を取り戻した少尉が長机に肘を突き、組んだ両手に鼻先が触れた司令官ポーズで、教壇に立つ人物へ目を向ける。

 大画面で映していた記録を静観していた、科学者らしい白衣を着たサデラが少尉に促されて動いた。

 

『結論から言いますと。最期の地球人テランであるトウマ君とルト族の間に、共生進化が起きたのではないかと推測します……』

『キョウセイ進化? ……初めて聞く言葉だな』


 俺と同じく聞き慣れない単語だったのか、少尉が目を細めた。


『少尉が初めて聞くのは当然です……。これはルト族に関する進化論の中でも、まだ仮説の段階であり。大いに議論の余地がある分野ですからね……。では、私達がその結論に至る根拠となった研究レポートを見ながら、一つ一つ説明していきましょう。ノア、私が用意した記録に映像を切り替えてちょうだい……。ああ、それとノア。地球人テランにも分かるよう翻訳文も……。ありがとう』

 

 見慣れない文字の羅列だったレポートの空白部分に、俺にも読める地球語が表示される。

 

『これはルト族に関する生物学の第一人者、リース・シャルディナ・バルデラン著作の研究レポートです』

『……ルト族の生態と進化論?』

 

 表題のタイトルを少尉が読み上げる。

 

『姫様が学会で発表した、研究レポートか?』

『ええ、そうです……。私も遺伝子学の分野から、共著者として関わってますね』

『ほう……。先を進めてくれ』

『うちの星の姫様ってすごいのよ……。ルト族が好き過ぎて。研究所に通って専門書を発表しちゃうくらい、すっごい勉強熱心なんだから』

「へー。それはすごいな」

 

 俺の隣から顔を寄せ、小声で囁くメアリーに教えられて素直に感心する。

 

『まずは共生進化の中で、最も有力視されてる仮説を一つ紹介します……。少尉はルト族の故郷であるルト星に、オルグ族の祖先がいたことは知ってますよね?』

『ああ、もちろんだ。旧ジグマ星系の歴史について学んだ時にな』

 

 ……え?

 そうなの?


 おもわず隣りにいるメアリーを見ると、俺と目が遭った彼女がニコリと笑った。

 片目ウィンクをしたメアリーが、『そうなのよ』と小声で答えてくれる。

 映像がスライドし、次に四本脚で歩く地球の猪と犬に似た野生の動物らしき画像が現れた。

 

『始祖ルト族も、始祖オルグ族も、最初は獣でした……。その二つの種族が二本足で立ち。先にオルグ族が道具を使うことを覚え始めた頃、近隣の宇宙を支配していたジグマ族がルト星に接触します』

 

 見た目はモグラっぽい姿をした、ダサイ宇宙服を着たファンタジー系宇宙人の画像が映る。

 

『彼らは宇宙戦争に投入できる、戦闘員を増やす方法を模索していました。そんな時期に目をつけたのがオルグ族です……。体格も良く、戦闘民族のオルグ達は適材だったらしく。ジグマ族と従属関係を結んだオルグ族は、宇宙進出を果たしました』

 

 いきなり地球人好みのアニメイラストが差し込まれた。

 服を着てない毛むくじゃらワンコの隣りに、宇宙服を着たオルグ族のアニメイラストが並ぶ。

 

 えっと……。

 学会で発表するような研究レポートですよね?

 もしかして姫様も、地球のアニメ文化が好きなのかな?

 

『ジグマ族の狙い通り、オルグ族は宇宙戦争で活躍し。ジグマ族は更に数を増やしたいがために、オルグ族の繁殖施設を増設しました。数が増えれば当然ながら大量の食糧を必要とします……。野生動物の乱獲が始まり、その中にはルト族も含まれてました』

 

 カブトガニ型の宇宙船が赤いビームを撃ち、地上にいる野生動物が逃げ惑うアニメイラストが差し込まれる。

 宇宙服を着てレーザー銃を握り締めたオルグ族が、両目が×マークになったルト族を踏みつけていた。

 俺の隣ではワンコ大好きのメイドさんが、両手の拳を握り締めて両頬を膨らまし、ご機嫌斜め顔になっている。

 例えばの話、石器時代の地球に宇宙人が攻めて来たとして、石槍持った原始人が勝てるわけないしコレはしょうがないよ……。

 

『トウマ君はこれで、ルト族は滅びたと思うかもしれないけど。結果的にルト星から滅亡したのは、オルグ族よ』

「……は?」

 

 俺と目が遭ったサデラがニコリと微笑み、再びイラストが切り替わる。

 空を支配していた宇宙船が、煙を吹きながら逃げて行くアニメイラストが描かれており。

 さっきと立場が逆転して、両目が×マークになったオルグ族の頭をルト族が踏みつけ、勇ましく腕を天に突き上げていた。


 えええええ!?

 ……か、勝っちゃったワン?

 メチャクチャ嬉しそうな顔で、俺の隣に座るメイドさんがパチパチと小さく拍手をしてる。

 

『ここまでが地球人テランにも分かる。姫様の生態研究による、ルト星の歴史ですね』

 

 どうやらここまでは、歴史を知らない俺のための説明だったらしい。

 

『私が歴史を学んだ時は、調子に乗ったオルグ族が反乱を起こして。ジグマ族に見せしめとして、粛清されたと聞いたがな……』

『そちらが一般的な通説ですからね。それ以上の歴史研究は長らく進まず。共生進化説によるルト族の逆転勝利が、新たに主張されたのはここ数年の話です……。では最近の生態研究で、ルト族達にどのようなことが起きたかを説明しましょう』


 少尉から懐疑的な視線を向けられて、サデラがレポートの映像を切り替える。

 

『今でこそ一つの群れに、様々な犬種が混じり合ってますが……。もともとルト族は、同犬種でしか群れを作らない種族でした』

 

 ビーグルやドーベルマン、チワワにパピヨンと様々な犬頭の画像が映る。

 

『私達の星でも、利害の一致による国同士の小競り合いがあったように。同族による共存はできても、犬種の違う者同士での交配は無かったと推測されてます』

 

 地球でも同じ人間なのに、宗教観や様々な理由で国同士が争い合ってた歴史もあるから、そこはなんとなく分かるな。

 人間同士でも世界統一なんて不可能だったからね……。

 

『それがオルグ族の支配で変わったと言うのか?』

『その通りです、少尉。おそらく増え過ぎたオルグ族の乱獲により、ルト族は滅亡の危機に瀕したと思われます……。彼らは生き延びる為に、共存関係から共生関係へと進化しました……。犬種の違うメスであっても近くにいるオスが妊婦を守り。犬種の違う者同士での交配が当然となりました』

 

 教壇に遺伝子らしき、螺旋状のホログラム映像が現れる。

 

『進化をしたのは繁殖能力だけではありません。彼らは生存確率を上げるために、天敵であるオルグ族を倒した者から、知恵を吸収しようとする意識を強めたとされてます』

『なるほど……。話が見えてきた。つまりトウマは、君達の言う共生進化のトリガーに当たる部分を、上手く引き当てたということだな?』

『トリガーの表現も悪くないですが……。ピンチを演じれば、ルト族が銃の使い方を早く学ぶと。そんな単純な考えを少尉はお持ちかもしれませんが』

『……違うのか?』


 少尉が意外そうな顔で眉をひそめる。

 

『ええ、違います……。ノア、トウマ君の遺伝子の比較画像を出してちょうだい』

 

 螺旋状のホログラム映像が、教壇に増えた。

 

『少尉。もう一度、言います……。最期の地球人テランであるトウマ君とルト族の間に、共生関係を築く進化が起きたと。私達は結論を出したのですよ……』

『まさか、進化と言うのは……』

『はい、二つの種族が同時に進化したのです……。ルト族はトウマ君を同族・・と認識しており。私達が三十日間を想定したプログラムを、わずか一日で習得した理由がコレです……。彼の遺伝子もまた。ルト族との共生関係を築くために、一日で進化したのですよ……』


 二つある遺伝子の差異を分かり易くするためか、複数の場所に赤色の印がつく。


『そんなことが、ありえるのか? ……彼の健康状態はどうなってるのだ?』

 

 驚き顔の少尉が後ろへ振り返る。

 俺達より一段高い場所で、今まで静観していたドクターのネロが口を開く。

 

『これから、精密検査を継続的にする必要はありますが。トウマさんの身体に、現段階での異常は診られません。医学的にはですが……。トウマさんを回収した日と変わらず、遺伝子以外は正常ですね……』

 

 医者である彼女もまた、困惑した顔で少尉に答えた。

 

『驚くべきところは、遺伝子の変化だけじゃないですよ少尉……。トウマ君は、ルト族との対話が成立してます』

『……は? なんだと?』


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