【第21話】プロローグ?
※作者より。
◆6/12
【第二章】を投稿したのですが、新章を開始してからブクマが伸び悩んでおり、
【旧版第二章】が不評であると判断して、プロットの見直しも検討に入れ、
一から書き直し作業をしております。
読者様には、ご迷惑をお掛けしますが、【新版第二章】の投稿再開まで、
混乱を避けるため【旧版第二章】を取り下げて、しばらく休止させて頂きます。
『ノア、部屋を展望モードに切り替えてちょうだい』
メアリーの声に反応して、AIノアが外にある映像カメラへリンクするよう、仮想空間の切り替え操作をしてくれた。
本船の最上部にある展望室から、俺とメアリーを残して天井や壁が消失する。
まるでテラスから、ガラス越しに宇宙空間を眺めてるような光景が広がった。
「近くで見ると、やっぱりデカくてゴツイな……」
『そうね』
いつでも俺達の盾になれるよう、すぐ傍を飛行するシュマール族のフリゲート艦が目に入る。
機動性を犠牲にして、巨大戦艦を堕とすためだけに建造された、重装甲の戦艦を見上げた。
一番に目を引くのは、やはり前方に装着された重厚な特攻兵器だろ。
シールド工法みたいなトンネルを掘るためではなく、突撃強襲艦らしい敵戦艦の装甲を砕くための禍々しい無数のドリルが際立っている。
護衛艦隊を指揮するシュマール族のオリガ大佐が、俺達に見せてくれたシミュレーション映像を思い出す。
全長三キロメートルある巨大戦艦の横腹に体当たりし、主砲を撃たれる前に内側から船内を破壊していく、玉砕覚悟の恐ろしい戦術を……。
「これで巨大戦艦の主砲に一撃でも耐えれたら、機械生命体からすれば厄介極まりないだろうな」
『そうなのよね……。あとは、うちとシュマール族の防衛協定さえ上手くいけば良いんだけど……』
軍事兵器の技術提供は、ある意味で賭けだ。
共通の敵がいる間は協力し合うだろうが、自分達が良かれと思って提供した軍事兵器が、いつ自分達の首元へ刃を向けるかは予想がつかない。
お互いが背中を預けれると安心できるために防衛協定は必須事項なのだと、難しい顔で語っていたギャミン中尉の言葉を思い出す。
『あっ……。あれ、キャミーじゃない?』
俺の肩がバシバシと叩かれ、メアリーが指差す先へ目を向けた。
見覚えのある小型輸送船が一隻、俺達の船へ接近している。
展望室から外の様子を眺めている間に、どうやら待ち人が帰って来たらしい。
大好きな飼い主が帰って来たことに気づいた犬の尻尾みたいに、メアリーの嬉しそうな動きに合わせて、背中に垂れた茶色の三つ編みが跳ねた。
地球産のメイド服を参考にして、可愛らしさを重視したデザインのフリル付きスカートがひらりと舞う。
どういう偶然かエリファ族のメアリー達は、地球人が良く知るファンタジー系物語に登場する、エルフと呼ばれる種族に容姿がよく似ている。
横に細長い耳を生やした美人エルフが、メイドのコスプレをしてるようにしか見えない彼女に、スライドした扉の外から手招きされた。
AIノアに頼んで展望室のVR空間を元の状態に戻した後、俺も退室する。
『トウマ、早く早く』
「はいはい」
待ちきれないとばかりに先を急ぐ彼女の後を追って、格納庫へ足を運んだ。
今は無き故郷となった地球を旅立ってから、二ヶ月近くは経つ。
船内地図を見なくて良いくらいに、通い慣れた船内の通路を歩いて、目的地である格納庫へ到着する。
扉がスライドし、白銀の装甲が目立つエリファ族の小型戦闘機や、カブトガニ型のフォルムをしたルト族専用機が並ぶ、広い格納庫が俺とメアリーを出迎えた。
鳥羽を生やしたルオー族達が作業着に身を包み、小型戦闘機の側面カバーを外して機体の中に鳥頭を突っ込んだりして、忙しそうに整備作業を勤しんでいる。
往来する整備技師達の邪魔にならぬよう避けながら、エリファ族の女性技師が作業してる場所へ向かう。
『はーい。オーライ、オーライ』
作業着らしきツナギを着た、エリファ族のテザー技師が誘導灯を振り回し、ゆっくりとホバー移動する小型輸送船を誘導している。
俺がいた地球では、ダークエルフと呼ばれたファンタジー系種族に容姿が似た、褐色肌の女性が姿を現す。
綺麗に切り揃えた銀髪のボブカットを揺らしながら、軍人女性が輸送船から降りて来た。
切れ長の青目が鋭い視線で船内を見渡すが、すぐに目元が優しく和らいだ。
駆け寄ったメアリーに抱き着かれ、数日振りの再会を二人の女性が喜び合っている。
『お帰りなさい、キャミー』
『ああ、ようやく帰ったよ……。私がいない間、トラブルは無かったか?』
『大丈夫よ。宇宙ステーションで、のんびり皆で羽を伸ばしてたわよ。そっちは、どうだったの?』
『軍のお偉いさん達から、たくさん小言を頂いたよ……。まあ、それで済んだだけマシと言えるさ……』
『その言い方からすると、軍人は辞めずに済みそうなのね?』
『ああ。首の皮一枚で繋がった感じだな……』
終始ニコニコ顔のメアリーに、仲の良さをアピールするように頬ずりをされ、ギャミン中尉が苦笑混じりに答える。
滞在していた宇宙ステーションからギャミン中尉が出発する直前に、地球で俺を助けたのは軍の任務ではなく、個人的な理由だと聞かされていた。
しかし幸か不幸か、彼女が軍を辞める覚悟で他の救助艇とは違う行動を起こしたのが、機械生命体の絶望的な包囲網を切り抜け、結果的に地球人の滅亡を阻止したのだから、何とも言えない話だったけど……。
『トウマとルト族のお陰だよ』
「……え?」
『どういうことなの?』
『その件について詳しく語りたいが、いつもの場所に移動しよう。ここでは、口外できない内容もあるからな……』
ルオー族達と一緒にシュマール製の機体整備をしてる、青い水玉模様のキノコ傘が目立つ宇宙キノコ達を、ギャミン中尉がチラりと見た。
『生物兵器の治療薬を作るために、地球人から採取した研究データと一緒に、本隊へ顔を出した時に提出したデータのせいで、軍上層部でいろんな事が起こってな……。もともと査問委員会に出席するつもりだったが、それどころじゃなくなったのさ……。聞いたらビックリすると思うぞ』
『なによ。珍しく、もったいぶるような言い方をするじゃない……』
『そりゃそうさ。なにしろ、前例が無いことだからな……。君の努力と、姫様の悲願が達成されたとも言えるぞ』
『私の努力もよく分かんないけど、姫様が何か関係することかしら?』
思い当たることが無いのか、困惑した顔のメアリーが俺の方を見てくる。
『トウマ。ルト族の居住区へ行くついでに、チャビーもスタッフルームへ呼んでくれ』
「チャビーですか?」
『ああ、そうだ……。正式に我が軍へ参加する、ルト族のリーダーをな』
『正式って……。それって、もしかして?』
何かを期待するようなメアリーの視線に、ギャミン中尉が薄い笑みを浮かべた。
* * *
『ふむ……。メアリーのお茶を飲むと、戻って来たという感じがするな……』
エルフ騎士のアニメ調イラストが側面に描かれたマグカップに口をつけ、スタッフルームの壁にはめられたモニター画面をギャミン中尉がチラ見する。
三十人程いるルト族の居住区を映す船内カメラには、二足歩行する犬人達の日常生活がリアルタイムで映されていた。
子供用エアバイクを操縦しているのは、星型のサングラスを掛けた黒い柴犬頭のルト族だ。
空中浮遊するエアバイクが、通路を歩くルト族の一人に声を掛ける。
垂れ耳が特徴的なビーグル頭のルト族が、車輪の無いエアバイクの後部座席に乗った。
俺達がいるスタッフルームへ向かって来るのを、画面分割された映像カメラの一つで視認する。
『なによ。それはもしかして、褒めてるつもりかしら?』
『そうだな。お堅い軍人が出す飲み物は、どうにも私の舌に合わんらしい。小難しい会議ばかりが、続くせいかもしれんがね』
メアリーが満更でもない笑みを浮かべながら、テーブルの上に置いてた別のコーヒーポットを傾けて、ご機嫌にマグカップへ注いでくれる。
『はい、トウマ』
「ありがとう」
地球人の俺が好む舌に合わせた、地球産のコーヒー味を思い出す合成飲料を口に含む。
スタッフルームの扉がスライドし、大きな茶色の垂れ耳が特徴的な宇宙ワンコが顔を出した。
体長一メートルの小柄なルト族が、俺の隣にある空席の椅子に座る。
「ワン!」
『なんだ、チャビー?』
「お帰りなさい、だそうですよ」
『そうか。ありがとう』
船内どころか宇宙で一人だけかもしれない、ルト族の言葉が理解できる俺が伝えてあげると、ギャミン中尉が薄い笑みを浮かべた。
『チャビーも来てくれたから、さっそく本題に入ろうか。正式な話は皆を集めた会議でするつもりだが、トウマ達に深く関わるところだけを先に話しておくぞ……。まず一つ目、本部直轄の混成特務隊が新しく創設される。この作業船と所属する支援部隊は、そこへの配属が決まった』
『本部直轄って、どういうことよ?』
『順を追って説明しようか。太陽系を脱出するまでの間に、ルト族の実戦データをログに残していたのだが。本隊に提出したデータに、今後の戦略を考える軍上層部の参謀本部が食いついてな。本来の作戦任務から逸脱した行為をして、トウマを救出した私に対する査問委員会を開く予定が中止になった。いろいろと根掘り葉掘りと聞かれてな……。なかなか大変だったよ』
当時の記憶を思い出したのか、ギャミン中尉が遠い目をしながらマグカップに口をつける。
『ここから私が話すことは、口外しないで欲しいのだが……。私達がトウマを助けたことは、軍上層部の命令で行われたことになった』
『……え?』
メアリーの表情が、困惑した顔で固まる。
『軍上層部とのつじつま合わせは私の方でやるから、軍内部の事情を君達が深く考える必要は無い。ただ、私がトウマに依然した話は忘れてくれ……。地球人の君は、ただの民間人ではなく。参謀本部と姫様が秘密裏に進めていた計画の過程で救出され、合格基準を満たした重要人物として正式に登録される』
「じゅ、重要人物ですか?」
『そうだ……。メアリー』
『な、何よ?』
『生態研究所が中止にしていた、ルト族の実戦訓練案は試験的に継続されていた。君は姫様の指示で、それに該当する地球人を指導していたと話を合わせてくれ』
『姫様の指示で?』
『うむ。全ては軍上層部の計画通りであり、我々はその一部に関わっていただけ……。という、やや強引なシナリオを軍上層部が描いてるところでな。それに我々が協力することで、トウマ救出に関する御咎めが無しということになったのだ』
ギャミン中尉が一呼吸を置いて、お茶をゆっくりと飲み干す。
『一番に戦略班が気にしてる点が、トウマとルト族が対話レベルの意思疎通ができてるところだ。しかし、それはトウマの主観的なところが大きく、我々がいくら研究データを取りたくても、言語化をできない世界なのだが……。それでも実戦データとしては、我が軍に採用したいレベルの結果を出してる。軍上層部の戦略班が、真剣に検討するレベルでな……。メアリー、もう一杯もらえるか?』
『はいはい』
おかわりを催促され、メアリーがマグカップを受け取る。
『本部直轄の話に戻るが。今後を見据えて、私をリーダーとした新しい部隊を作り、試験運用をすることになった。この部隊はどこにも所属せず、総司令官から直通で送られる指示のみで行動する。要は本隊から離れて自由に動ける、独立した部隊になったのだ』
「ええっと……」
『簡単に言えば、今まで通りってことだ。大きく変わったのは組織内部という話で、トウマは私の指示に従ってルト族を指導してくれたら良い』
「な、なるほど」
小難しい話をされて、いろいろ不安になってたが。
それなら、俺にもできそうだ。
『それで。チャビーをここに呼んだ理由は、結局は何なの?』
「クゥン?」
ここまでの話にさっぱりついていけなかったチャビーが、メアリーから名前を呼ばれたのに気づいて小首を傾げた。
『事務手続きの都合でな。君達には当部隊でのみ使える、特殊階級を与えることになった。トウマは小隊を指揮する権限を持つ、士官である准尉の階級を。チャビーには小隊長の補佐として、軍曹の階級を与えることに決定した。これから二人共、よろしく頼むよ』
◆【新版第二章】の改稿予定箇所。
・混成特務部隊が創設するまでの展開を省略する。
【旧版第二章】の【第21話】~【第27話】を大幅カットする予定です。
作者の身勝手な都合で申し訳ございませんが、
【新版第二章】の投稿再開まで、しばらくお待ち願います。




