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【第02話】宇宙での初戦争

 

 ピリリリリと、小うるさい音が室内に鳴り響いた。

 音の発信源は、部屋を退室しようとしたギャミン少尉が耳に嵌めたイヤホンからだ。

 

『どうした、緊急事態か? ……なに? ……分かった。いつでも迎撃できるよう準備して、ひとまずはコンタクトを……』

『どうかしたの、少尉?』

『小型船らしき船影が、星の裏側から出現したらしいのだが……』

「うわっ!?」

 

 突然のことに、思わずびっくりして後ろへ仰け反る。

 眩いばかりの発光色が、窓の外から室内を照らした。

 

 さっき見た木星らしき縞々惑星の端から、赤い光弾が次々と飛んでくる。

 俺の上半身が一撃で消滅しそうな、デカイ光線だ。

 

『どうやら、あちら側にも発見されたらしい……。こちらが交渉するよりも先に。見ての通りオルグ語の罵声と、光弾の嵐だよ……。おそらく海賊船だろう。良かったな』

 

 なにが良かったんだろうか……。

 少尉は特に驚いた様子もなく、窓の外で起きてる光景を眺めている。

 俺は口をあんぐりと開けて、それを見守ることしかできなかった。

 

 SF映画みたいに、ビームを弾くシールドでも船の周りに展開してるのか。

 赤い光弾は半透明の青い膜に全て着弾し、その度に相殺するような光の波紋が広がっている。

 

『旧式の小型船らしいが……まったく。最新軍用兵器を搭載した我らの船に、ジグマ製で勝てると思ったか? 脳筋共め……』

 

 相手が撃ってくる赤い光線より、何倍もデカい複数の青い光弾が横一列に並んで、俺が乗ってる船側より一斉に発射された。

 縞々惑星の端にある何かに着弾したのか、あちらから飛来していた赤い光線がピタリと止んだ。

 

『おそらく。こちらを見た目通りの作業船と思って、略奪行為を仕掛けてきたんでしょうけど……。これでも、中身はしっかりとした軍用船なのよ。本気を出せば、五百メートル以下の小型海賊船では相手にもならないわ……。ですよね、少尉?』

『全くもって、その通りだ。私が艦首に行くまでも無かったか……。ノア、ドクターに繋げるか? 私にも一つ。紅茶を頼んでくれ』


 現状に俺の頭はまったく追いつけていなかった。

 優雅に茶を飲みながら雑談に興じる二人の会話が、全く耳に入らない。

 窓タイプの巨大スクリーンに、B級映画を再生していると言われた方がまだ納得できる。

 窓の外に映る、そんな現実離れした光景を俺は窓に貼りつき、すっかり見入っていた……。


 SF映画の登場人物に俺がエキストラとして参加してるみたいな、不思議な気分だ。

 夢か現実か分からない、いまだフワフワした心の俺を乗せて、海を泳ぐように宇宙を遊泳する。

 縞々惑星の近くにある何かへ、俺が乗ってる宇宙船が接近していく……。

 

 俺が知るジャンボジェット機の何倍も大きい、数百メートルはあろう宇宙船が皮一枚くらいで繋がった部分を残して、細長いブロック型タイプの船体に、複数の大穴を空けていた。

 焼け焦げたような跡がある穴の周りに、火花のような物が飛び散り続け、大小様々な物が宇宙へバラ撒かれている。

 アレがSF映画によくある、宇宙ゴミ(デブリ)と呼ばれるヤツなのだろうか?

 

『少尉。後ろに連結している、規格違いのエリアが気になるわ……』

『野蛮なオルグ族の海賊船だからな……。中に入ってみてケモノ臭ければ。奴隷船の可能性が高いだろうな』


 俺の隣に来た女性二人がマグカップを片手に、呑気に喋りながら窓の外に映る光景を眺めている。

 いきなり現れた小型戦闘機が、窓の外を高速で横切った。

 崩壊した宇宙船に向かって、複数の小型戦闘機が飛んで行く。

 

『うちの部下だよ……。我らの故郷に戻るまで、これから長い旅になる……。だから、うちの船に流用できる燃料や、物資を探しに行かせたんだ……』

『勘違いしないで欲しいけど。宇宙にも略奪行為を禁ずる、暗黙のルールはちゃんとあるわよ……。ただし、正当防衛を理由に限り、沈黙させた相手船からの略奪行為は黙認される。私達にとって血の気の多い海賊船は、物資を運んでくれる逆にありがたい存在なの……。ですよね、少尉?』

『その通りだ……。こちらも生きるためだ、綺麗ごとばかりも言ってられん……。我々の船に乗る以上。こちらのルールに従ってもらうぞ……。最期の地球人テラン殿』

 

 

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

 

 

『はーい。オーライ、オーライ』


 作業着らしきツナギを着た、横に長い耳を生やした女性が誘導灯を振り回し、ゆっくりとホバー移動する小型戦闘機を誘導している。

 軍人らしき女性達が乗っていた、遊び心も多少ある派手なデザインの戦闘機とは全く異なり。

 カブトガニっぽいフォルムで、カラーも深緑一色とシンプルなデザインの戦闘機だ。

 

『とりあえず宇宙を飛べたら良い、最低限の装備しか搭載してないジグマ製の量産型だ……。兵器工場での大量生産を目的とした、低コストの機体だな』

 

 敵船から回収した小型戦闘機を、綺麗に整列させる作業を眺めながら、俺の隣に立つギャミン少尉が説明をしてくれる。

 少尉に案内された広々とした宇宙船の格納庫エリアには、敵船から回収したカブトガニ型戦闘機が何台も並んでいた。

 宇宙へ出たことの無い俺に宇宙船の歴史を話されても、さっぱり分からんけど……。


『滅亡する前の旧ジグマ星系の戦争は、質よりも量な人海戦術を主軸にしてたようだから。操作も複雑ではなく、比較的簡単な造りの機体が多い。脳ミソまで筋肉な、オルグ族共が乗り回せるレベルだ。犬頭でもイケるだろうというのが、我々の算段ではあるが……』


 少尉が目線を動かした先に、俺も視線を移す。

 港にでも置いてそうな輸送コンテナにも見える。

 一体どんな環境に置かれていたのだろうか……。

 表面は錆び付いてるだけでなく、デカイ獣の爪跡があったりと、外側はボロボロでとても汚れていた。


 それと酷く獣臭い……。

 中学の遠足で動物園に行った時に嗅いだ、思い出に残るくらいの獣臭さよりも、何十倍も臭い。

 怪しげな輸送コンテナから数メートルは離れてるにも関わらずだ。

 少尉ですらキツイのか、しかめっ面をしていた。

 

『ニッグ、テザー! 作業を止めて、ちょっとこっちへ来い!』

 

 コックピットから出て来た作業用ゴーグルを首元に掛けた女性と、さっきまで小型戦闘機を誘導していた女性が、俺達の方へやって来る。

 少尉と同じ種族なのか褐色の肌に、青色の瞳を煌めかせた作業着姿の女性二人が横に並ぶ。

 

『どうだ、ニッグ。回収したモノは使えそうか?』

『使える使えないで言えば、ギリギリ使えるけどさー』

 

 作業用ゴーグルを指で摘まみながら、ニッグと呼ばれた方の女性が口を開く。

 

『いつ壊れてもおかしくない骨董品レベルだよ、アレは……。少尉の命令でも、僕は絶対に乗りたくないけどねー。もしアレに乗ってるのを友達に見つかったら。オルグ色のオモチャに乗ってたって、馬鹿にされるよ』

『スクラップ置き場から、ゴミを持って来ないで下さいって。ノアが苦情を入れるレベルの旧式ですからね』

 

 翻訳機の故障でなければ、軍人に対して明らかなタメ口で喋るニッグに、隣に立つ女性が同意するように苦笑した。

 

『乗るのは、お前達じゃないから安心しろ。動くように整備してくれたら、それで問題無い』

 

 特に怒るわけでもなく、少尉が淡々とした口調で応対した。

 少尉の視線が横に動くと、三人の青い瞳が俺に集中する。

 

『ようやく、地球人テランが目覚めたくれた……。トウマ。こっちの二人が、うちの整備技師だ。ノアの手が届かない、機械のメンテをやってくれてる』

『ニッグだよーん。よろしく』

『テザーです。よろしくです』


 陽気にピースサインをして、白い歯を見せて笑うニッグに対して。

 眠たげにも見える半目で、テザーはチラリとだけ俺を見た。

 

「トウマです。よろしくお願いします」

 

 俺もペコリと軽く頭を下げ、自らの口から名乗っておく。

 

『おー。地球人テランも、エリファ語を喋れるようになったんだ』

『そうだ。ノアが翻訳ソフトを、アップデートしたはずだ。あとで、最新版に更新しておけ』


 いつの間に人間耳の型を取られたのか、覚えは無いけど。

 横長のエルフ型じゃない俺の耳でも装着可能なインカムを、ニッグが前のめりで興味津々に覗き込む。

 まだ着け始めたばかりだが、バイト時代に騒音が酷い倉庫の荷物運びをしてた時は、もっと大きなヘッドセット型のインカムを着けて、工場内を走り回っていた頃もあったから。

 アレよりも小さく、耳への負担が少ないので、使い心地はかなり良い。


 骨伝導タイプなのかマイクを口元まで伸ばさずに済み、ワイヤレスの充電式で翻訳機も兼用して、この小型サイズ。

 ああ素晴らしき、宇宙人の未来技術。


『彼と会話をしてる時に。もし妙に感じたら、ノアに報告しておけよ』

『おっけー』

『少尉。アレに入ってるヤツを、彼に任せるのですか?』

『そうだ……』

 

 テザーが指を差し、離れた場所にある汚らしい輸送コンテナへ、皆の視線が集まる。

 

『新人君に、ルト族のトレーナーをやらせたい。テラリウムの使い方や機械の操作を教えてやってくれ』

『分かりました、少尉』

『えー。どっちかと言うと、整備士を増やして欲しいんですけどー。僕達だけで、旧式の面倒までは見きれないよー』


 両手を頭の後ろに回し、口を尖らせたニッグが不満げな顔をした。

 眉間に皺を寄せた少尉が、頭痛を覚えたように指先をこめかみに当てる。


『技術部に人が足りないのは分かってる……。あの戦場でスクラップにならなかっただけ、今はマシだと思え……。宇宙ステーションでも運良く見つかれば、キノコか鳥でも雇ってやる』


 キノコ?

 ……鳥?

 翻訳機の誤訳だろうか?


 顔の容姿が、特徴的なヤツでもいるのか。

 謎の単語が会話の中で飛び交っていた。


『ああ、ついでにだ。船内を新人君に案内してやれ』

『えー。これから旧式の整備もあるのにー?』

『暇をしてるのが、もう一人いるだろ? 彼女に案内させろ』

『え? 少尉、よろしいのですか? 彼女と彼を会わせても……』


 重たげだった目を見開き、意外そうな顔でテザーが俺と少尉の顔を、交互にチラチラと見る。


『この船で、ルト族に一番詳しいのが彼女なのだ。問題は無い。私の方からも、彼のことは伝えておく』

『どうせ姫様ペットの世話しかできない子だし。暇してるなら、良いんじゃなーい?』

『わ、分かりました』

『じゃあ、さっさとアレを運んじゃうよー。さっきから、臭くて吐きそうだし』

 

 近くに置いてあった機械に、ニッグが鼻をつまみながら乗り込んだ。

 

『あー、ばっちぃ……。とりあえずアームで、テラリウムの入口まで運ぶから。中で適当にバラすよー。テザーはプールの用意しといて!』

『はーい』


 機械を操作して巨大な腕で掴むと、輸送コンテナを器用に持ち運ぶ。


『箱は汚いから、後で捨てるからね!』

『好きにしろ。妙なウイルスを、船内にバラ撒かれても困るからな』


 少尉が汚らわしいモノを払うように、手をヒラヒラと振って了承の意を示す。


『さて、トウマ君……。君には期待してるよ。せいぜい優秀な軍人を増やしといてくれ……。今はどこも人手が足りなくて、犬の手も借りたいくらいだからな』


 ……優秀な、軍人?

 少尉に肩を叩かれ、俺は小首を傾げた。

 

 疑問を尋ねるよりも先に、テザーに名を呼ばれて振り返る。

 先を進んでいたテザーに早く来いと手招かれて、彼女の後を追いかけた。


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