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星救いの英雄と呼ばれてますが、しがない宇宙ワンコの教官ですよ?(※【第二章】休止中)  作者: くろぬこ
【第1章】太陽系脱出編

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【第19話】ありがとう

 

『始まるわよ、トウマ』

「うん……」

「クゥン?」

 

 メアリーの膝上に座るチャビーとパピヨの娘が、耳の毛が随分と伸びたパピヨン頭を斜めに傾けて、不思議そうな顔をする。

 同じ女性同士だからか、産まれたばかりだった最初の頃よりは、すっかり仲良くなったようだ。

 スタッフルームにはルト族の皆も集まって、壁にはめ込まれたモニター画面をじっと見ている。

 本来はルト族の居住区を映すためのモニター画面には、本船ではない別の場所とリンクしたカメラ映像が映し出されていた。

 

 ようやく平和が訪れたのに、俺が乗るこの船が避難先の星に滞在していたら、いつ機械生命体ギメラの女王が率いる大艦隊の標的になるか分からない。

 それでも、どうしても数日間は近くで待機してくれとエドワート総司令官から頭を下げて頼まれ、国の最重要人物を乗せた第一陣が無事に到着した報を聞かされてから始まった、軍人だけが集まった簡易的な合同軍葬。

 

 簡易的とは言っても、軍服を着た大勢の鳥人がいる。

 今回の作戦には複数の国を跨って軍人が参加し、避難民を誘導する為の軍人を除いてるとはいえ、数万人はかるく超える軍関係者が参列してるのだろう。

 もちろんエリファ族の代表として、ギャミン少尉を含む軍人五名の姿もカメラ越しに確認できた。

 

 死者をとむらう集会なので、葬儀は粛々と進む。

 エドワート総司令官のスピーチは、感情を抑えながらも戦死した者達がどれほど勇敢に戦ったのかが、よく伝わるものだった。

 仲の良い戦友がいたのか、こらきれず涙を流す軍人の姿もカメラに映る。

 名を呼ばれたギャミン少尉が壇上に立ち、エドワート総司令官から勲章が渡され、二人が握手を交わすと同時に盛大な拍手が湧く。

 

「民を守るために翼を広げ、宇宙そらに散った勇敢な軍人達に、これより黙祷もくとうを捧げる」

 

 エドワート総司令官が目を瞑り、カメラに映る全ての軍人が目を瞑ったことで、会場はしんと静まり返る。

 葬儀が始まってから会場を映すカメラとは別で、分割された画面の横には戦死者の名前が一人一人流されている。

 下から上と流れる名前に、見覚えのあるモノがあった。

 

「ビタロー……ビジロー……」

 

 名を読み上げた俺の声に反応して、ビーグル頭のチャビーとビリターが同時に垂れ耳を力強く立たせた。

 

「ビーグサ……ビーグヨ……」

「オオーン!」

 

 チャビーとビリターが遠吠えを始める。

 ビタロー達の後に、星系脱出作戦で亡くなったルト族達の名前も画面に流れ始め、一人一人の名を読み上げた。

 

 残念ながら兄弟が戦死してしまったドーベルの息子もまた、産まれてから一緒にいた四兄弟の名を聞いて、父親のドーベルと共に力強く吠え始める。

 死んだ息子達の名を聞いて、再び涙を流す母親であるポメコの犬頭を抱き寄せ、ビタロー達の母親であるパピヨが彼女の頭を撫でる。

 

「ありがとう、みんな……。皆が頑張ってくれたおかげで、俺達は安全な場所まで行けたよ……。いつか俺達もそっちに行くから、今は安らかに眠ってくれ……」

 

 初戦で亡くなったビタロー達の四名、先日の作戦で亡くなった十名。

 合わせて十四人……。

 消毒プールの滑り台から落ちて来たのを受け止めた時から、半分近くのオス達が死んだ。


 でも……。

 皆が守ってくれた十四人の若い戦士達が、きっと君達の意志を継いでくれるさ。


『うん、うん……。本当に、みんな、ありがとうね……。本当に、ぐすっ』

 

 膝上に乗るパピヨの娘であるルト族の子供を両腕でギュッと抱きしめ、メアリーが大粒の涙を流しながら彼女の頭に頬ずりをする。

 産まれた時に兄弟であるビタロー達と顔も会わせて無い彼女だが、何か通じるモノがあったのか黒いつぶらな瞳から、ポロリと涙を落とした。

 

 

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

 

 

『わーっ! 見てみて、トウマ! 森がいっぱいあるわ!』

「そんなにはしゃいでると、足を踏み外して落ちるぞ」


 宇宙服も着ずに降りられる星は初めてらしく、メイド服のスカート裾がヒラヒラと舞い上がるくらいに、エリファ族のお嬢さんはピョンピョンと跳ねて大はしゃぎだ。


『キャッ!』

「あぶなっ」

 

 お約束のように小石で靴底を滑らせたのか、よろめいたメアリーに慌てて腕を伸ばして抱き寄せる。

 

「だ、大丈夫か?」

『う、うん……』

 

 頬を赤らめたメアリーに上目づかいで見つめられ、一安堵したのも束の間で俺も状況を察した。

 いや、これは咄嗟な判断と言いますか……。

 

『トウマ、そこをどくワン!』

 

 浮き輪をお腹に巻いたタマが、ダッシュして突っ込んで来たのでメアリーと一緒に横へずれる。

 

『タマ、突撃でありますワン!』

 

 勢いよくジャンプをすると、茶柴犬が崖先から飛翔して数メートル下の湖へとダイブした。

 ルト族の子供達がやって来ると、楽しそうに尻尾を左右に振りながら顔を覗かせる。

 俺とメアリーも崖上から覗き込むと、湖の上には浮き輪だけがプカプカ浮いていた。

 もしかして、すっぽ抜けたのか?

 

 浮き輪ベッドに横になり、黒柴犬のポチが星マークのサングラスを掛けながら日光浴をしてる。

 しかし勢いよく湖から顔を出したタマのせいで、浮き輪ベッドが傾いてポチの身体が湖に投げ出された。

 仲良く喧嘩するポチとタマを見つめながら、ふと思う……。


「てっきり、ルト族は濡れるのが嫌いなのかと思ってたけど。二人とも泳ぐのが上手いよな」

『小っちゃい頃から、姫様とお風呂に入ってたからね。野生の子より水に慣れてるのは、そのせいかもね』

「そうなんだ……」

「ウォン! ウォン!」

『トウマ、肉ワン!』

「……え?」

 

 こちらも久しぶりの地上へ降りて、森を駆け回っていたチャビー達が獲物を狩って帰還したらしい。

 えっさほいさと紐で括り付けた獲物を引き摺りながら、オスのルト族が森から出て来る。

 素手だった時代から、いきなり未来兵器であるレーザー銃を握り締めたルト族が相手では、野生の動物如きでは相手にならなかっただろう……。

 

『食べて、良いワン?』

 

 嫁のパピヨから教えてもらったのか、言語化が少しだけできるようになったチャビーが、おねだり顔の上目遣いで俺を見上げる。

 

「久しぶりの生肉だから、食べたいって言ってるんだけど……」

『この星は、サデラ達の検査済みだし。消毒プールに入ってお薬を呑んで、病原菌の検査もちゃんとしてくれるなら良いんじゃない?』


 俺がメアリーの言葉を伝えると、嬉しそうにチャビーがパピヨ達を呼び寄せ、子供達と一緒に駆け出した。

 地球とは違う星だからか、口から四本の牙を生やした猪に似た動物へ、久しぶりの御馳走だと言わんばかりに皆が勢いよく群がっている。

 野生に戻って大はしゃぎのルト族達を見て、再び見つめ合ったメアリーとおもわずクスクスと笑いあってしまう。

 

『ねえ、トウマ。見て……』

「ん?」

 

 星系も変わったから、太陽とはちょっと違う恒星の明かりに目を細めながら、俺も空を見上げる。

 

「またコケないでね?」

『大丈夫』

 

 今度はしっかりと地面を歩き、メアリーがクルリと回る。

 

『ありがとう、トウマ。皆を助けてくれて』

「俺は大したことをしてないよ。少尉達が頑張ってくれたから、上手くいったんだよ」

『またそうやって謙遜する。地球人テランは、みんなそうなの? シュガー軍曹やシャルロッテ上等兵なんて誰が一番活躍したかで、聞き飽きちゃうくらいずっと自慢し合ってるのに』

 

 両手を腰に回して、不満げな顔で頬を膨らますメアリーに言われて、俺は後頭部を手でかきながら苦笑する。

 でも実際に彼女達は俺が真似できない、すごい活躍をしてたからな……。

 

「たまたま俺が地球人だったから、囮になれただけだよ……。陽動をする作戦を事前に考えていたのは、少尉や他の人達だよ」

 

 隕石まで落として、機械生命体ギメラが殲滅戦を仕掛けた星はエリファ族の歴史上は、地球だけらしい……。

 宇宙文明も大して進んでない地球に、そこまでした理由はまだ不明らしいが。

 知的生命体以上に命令を完璧に遂行する機械達が、それほどまでに拘る地球人がまだ生きてると知ったら、どうなるかと言う議論のもとで行った賭けだったらしいけど。

 そんな発想ができる少尉達には、凡人の俺にはとてもかないそうがないよと、素直に思ったことを口にする。


『それでもよっ。あの時にトウマがいたからこそ、ルオー族の星を本当に滅ぼそうとしていた機械生命体ギメラ達を星から引き剥がせたんじゃない』

 

 両手を握り締め、不満な色を目いっぱい顔に出してメアリーが言う。

 

「まあ、結果的には、ね……」

『だからこそ、今一度。お礼を言わせて下さい』

「……え?」

 

 おちゃらけてばかりのメアリーが急に姿勢を正して、真剣な眼差しで俺をまっすぐ見つめる。

 

『防衛協定を結んだばかりのルオー族を助けて頂いて、ありがとうございます。我が星系に住むエリファ族達の民を代表して、英雄的活躍をしたトウマ・クジョウに、深く感謝を』

 

 いつもと違い、どこか近寄りがたい雰囲気すらある彼女の上品な笑みに、ドキリとしてしまった。

 

『な~んてことを、うちの姫様がここにいたら、言ってくれたかもねー。だからもっと自信もちなさい、トウマ』

「う、うん……」

 

 再びガラッと態度を変えて、いつものメアリーに戻った彼女の見慣れた笑みにホッとした自分がいた。

 女は生まれながらに女優と聞いたことがあるが、ジェットコースター並みの緩急の激しさに風邪を引きそうになる。

 

『スノウ技師がさっき言ってたけど、この輸送船が最期だって。みんな無事に避難できて、良かったわ』

「うん、そうだな」

『ねぇ、トウマ。これ、いくつあると思う?』

「さあ、数えきれないよ……」

 

 メアリーが指差した先を、俺も見上げた。

 渡り鳥のように両翼を広げた鳥人達の輸送船が、海のように広い大空を埋め尽くしている。

 用意された避難所を求めて宇宙から降りて来た輸送船を、二人で飽きもせずにずっと眺めていた……。


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