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星救いの英雄と呼ばれてますが、しがない宇宙ワンコの教官ですよ?(※【第二章】休止中)  作者: くろぬこ
【第1章】太陽系脱出編

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【第18話】守れ、家族を

 

『トウマ、助けてワン! お尻に火がつくワン!』

「敵の数が多過ぎる! とにかく船の近くを飛び回れ!」

 

 納品時には無かった、アニメのエルフ女騎士が描かれた痛車ならぬ痛戦闘機の後ろを、ワラワラと十機ほどの小型戦闘機が追跡している。

 ポチの悲鳴混じりな救援に応えてやりたいが、小型戦闘機が余裕で百を超えるレベルで本船の周りを飛び回ってるせいで、対小型戦闘機用の戦艦ビーム砲をいくら発射しても間に合わない状況だ。

 撃ち落としても撃ち落としても、深夜の街灯に吸い寄せられた羽虫のように群がって、まったく数が減らない。


 カブトガニ型の痛戦闘機が展開した半透明の青い膜を張ったシールドを割ろうと、敵機が執拗に赤色のビーム砲を撃っていた。

 改良前の機体なら、間違いなくシールドが割られてる時間だ。


『タマ、どこいるワン!』

『上にいるワン!』


 たまらずポチが、仲間の応援を呼ぼうとした。

 タッチパネルを操作し、操縦室内コックピットを映す茶柴犬頭のタマを人差し指で押して、本船を斜め上から俯瞰した立体的なレーダーマップに放り込む。

 連絡を取り合ったタマの位置を急いで特定していたら、AIノアが本船カメラとリンクしてタマを映してくれる。

 ポチに負けないくらいの数と追いかけっこをしてる痛戦闘機の後ろから、赤いビーム砲の雨が降り注いでいた。


「タマはちょうど真上を通った。そのまま真っすぐ進めば合流するぞ」

 

 周りを見る余裕も無いであろう二人に、互いの位置関係を報告する。


『お土産は持ってるワン?』

『いっぱい持ってるワン!』

『ランデブーするワン!』

『了解ワン!』

 

 ポチの呼びかけにタマが応える。

 味方機のシールドを改良版の青色に変えたおかげで、同型機体の敵味方が区別しやすくはなったけど、外を映すカメラで覗いてみても赤色シールドの数が味方機の十倍はいるような気が……。

 AIノアが定期的に探査レーダーを飛ばしており、その結果を表示した小型戦闘機の推定数は千機あたりを増減していた。

 他の味方艦隊にも分散してるとは思うけど、体感的には三分の一くらいは本船に纏わりついてる気がする。

 

『タマ、見つけたワン!』

『こっちも会いたかったワン!』


 本船を守るために球体上の青色シールドを展開してるが、それに触れないギリギリの位置を高速で飛行しながら、追手を振り切ろうと二機が加速した。

 

『いつものタイミングワン!』

『分かってるワン!』

 

 スピードを一切落とさず、警告音を無視して相手に真っすぐ向かう。

 勇ましく剣を突き出したエルフ女騎士のアニメイラストが、互いの刃を交えたように幻視した瞬間――。

 痛戦闘機が展開したシールドが触れないギリギリを見極めて、ポチとタマの二機がすれ違う。

 違う機体が正面から突っ込んで来たのにビックリした敵機が慌てて避けるが、直後の十機超えを避け切れる程の技量は無く、味方同士で正面衝突する。

 

 赤色のシールドが展開できてる機体同士はビリヤード球のように弾け飛び、展開が間に合わなかった機体は味方機に巻き込まれて爆破した。

 俺の知るランデブーとはちょっと違うが、お見事……。

 

「オオーン!」

 

 ポチとタマの抑えきれない勝利の咆哮が、五月蠅く耳に響いて苦笑する。

 いつか実機に乗ることを夢見て、何年も操縦シミュレーターをやり過ぎた結果、ハイスコア更新を目指すのも飽きてビーム砲を撃たずに敵機を倒す縛りプレイをしてたのも知ってるから、いつかはやると思ってたけど……。

 どうせ、俺に見えないところで実機でも練習してたんだろ?


「ポチ、タマ。エネルギーの残量がそろそろマズイ。補給して来い」

『了解ワン!』


 今日のノルマは達成したと言わんばかりに意気揚々と、ご機嫌な二人が素直に格納庫へ一時帰還する。

 俺も気持ち良く終わりたかったが、嫌なモノを目に入れてしまう。

 ドーベルマン体型な五兄弟の顔を映した、操縦室内コックピットの一つが通信不能を示す黒い画面になっていた。

 

『トウマ教官、第二小隊の一部が持ち場を離れてます』

「分かってます。俺が呼び戻します」

 

 スノウ技師にもインカム越しに指摘され、コントロールパネルを操作して第二小隊のリーダーであるドーベルに繋ぐ。

 

「敵討ちは後にしろ、ドーベル。主砲を守らせろ……。守るモノを間違えるなッ!」

「ウォン! ウォン!」


 今回は俺の声が届いてくれたのか、敵機を執拗に追って本船から離れていく複数の小型戦闘機が、父親であるドーベルの説得に応じてUターンしてくれた……。


「ありがとう、ドーベル」


 息子がやられても、気丈にも任務を遂行してくれるドーベルに礼を言う。

 指示の失敗や後悔なんて後回しだ。

 今の俺が最善と思ったことを、迷わず指示に出す。


 ここを生き残ったら、いくらでも兄弟や嫁に怒られてやる。

 だから今だけは歯を食いしばって、皆でこの船を守るんだ……。

 自分にも言い聞かせながら、本船と敵大型戦艦の間で激しい戦闘をしているルオー族の艦隊に目を向ける。

 

 とどめの一撃で敵大型戦艦のシールドを割った本船の主砲が、本作戦の最も重要な対艦兵器と皆が認識してるのだろう。

 敵大型戦艦の射線を遮るように、ルオー族の護衛艦隊が広がって俺達の盾になってくれていた。

 しかし、激しい砲弾の嵐に耐え切れなかったのか、艦首を斜め下に傾けた護衛艦の一つがゆっくりと沈んでいく。

 ようやくシールドが剥がれたからか、無防備な船体を剥き出しにした護衛艦に敵大型戦艦が集中砲火を浴びせ、百人を超える軍人達を乗せた小型戦艦がまた一つ大破した……。

 

 

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

 

 

『ギャミン少尉、敵艦の反対側に光弾を確認。貫いたぞ!』


 護衛艦の制御室からマイクが拾ったであろう歓声が聞こえ、おもわず後ろに振り返ってギャミン少尉達に目を向けた。

 エドワート総司令官も目撃したのか、会議テーブルに参加したホログラム映像が喜びを隠さず、前のめりになって握り拳を作る。


『了解しました、エドワート総司令官』


 多くの犠牲は出してるが、素人目にみても状況は優勢に見える。

 しかしギャミン少尉の表情は、戦争が始まる前と変わらず険しいままだ……。

 

『ノア、チャージが溜まっても私の指示を待たずに撃ち続けろ。もっと傷口を広げて、前方のシールド発生装置まで破壊するんだ』

 

 事前のミーティングで語っていたギャミン少尉曰く、大型戦艦クジラの主砲は前方にあるらしい。

 敵が油断していた初弾でシールドを破壊し、運良くシールド発生装置も破壊できた中央格納庫付近とは違い、前方およそ一キロメートルにも及ぶ艦首は未だに無傷だ。

 

『前方のクジラ級大型戦艦より、異常な高エネルギー反応を確認……』


 AIノアが、今までとは異なる音声報告をした。


大型戦艦クジラ相手では、火力が足りませんでしたか……。我らシュマール族の護衛艦隊もここにあったらと思うと、口惜しいですね……』

『リムドウ大使。危険な賭けになりますが、もう一つの作戦に変更します……。付き合って頂きますか?』

『私も皆も、この船に乗る前から覚悟を決めています……。我々は艦長の指示に従います。すきにやって下さい』


 シュマール族のリムドウ大使がそう返答すると、真剣な表情で同じ大型モニターを見上げていたギャミン少尉が、ホログラム映像で参加するエドワート総司令官に目を向けた。


『エドワート総司令官、全艦をすぐ退避させて下さい。あなた達のシールドでは、アレに十秒も耐えられない……。被害を最小限にするため、我々が的になります……』

『承知した……。全艦、退避行動に移行しろ』

『フェアリー隊、ドッグ隊もすぐに帰還させろ』

 

 俺達の方へ振り返ったギャミン少尉の指示に従い、生き残ってる皆に帰還命令を出す。

 しつこいくらいに本船のシールド周りを飛行していた小型戦闘機が、いつの間にか一機も見当たらなくなっている。

 敵大型戦艦からも帰還命令が出たのか、大量の赤いシンボルが本船から離れて行く様子がレーダーでも確認できた。

 AIノアが望遠カメラの映像を艦首に切り替えたので、俺の目もそちらへ吸い寄せられる。

 

 まるで怪物が歯を剥き出したように、数メートルほど上下に開いた外壁の奥に、灰色の主砲らしき物が顔を出す。

 全長のうち三分の一、約一キロメートル程に及ぶ艦首と一体化した巨砲の隙間から、九つの赤い光が灯っているのが見えた。

 異様なそれに目が釘付けになっていると、均等に離れていた隙間の右端にある十個目が赤い光を灯す。

 

『主砲のエネルギーコア、全ての点灯を確認しました……。間もなく発射されると予想します』

 

 AIノアの音声と共に敵大型戦艦の主砲が眩い光を纏い、巨大な赤い光が艦首正面から放たれる。

 最期まで持ち場を離れず、敵主砲が纏うシールドを割ろうとしていた味方戦艦が、敵艦首の横幅よりも大きな赤い光に防御シールドごと一瞬で呑み込まれた。

 友軍信号である青いシンボルを確認していたレーダーに、数秒も経たずに通信ロストの×マークが表示され背筋がゾッとする。

 戦艦一つを呑み込んでも止まらず巨大な赤い光を吐き出し続ける敵大型戦艦を見て、地球にも空から同じモノを降らせたのかと想像してしまい、吐き気を覚えて口元を抑えた。

 落ち着け……それ以上、想像するな……。

 

『トウマ。連絡は取れる子はみんな戻って来たよ! トウマ、聞こえてる!?』

「だ、大丈夫です……聞こえてます。ありがとうございます……。ギャミン少尉、ドッグ隊も帰還しました」

 

 こちらに意識を戻してくれたニッグ技師に感謝しつつ、インカム越しにギャミン少尉へ報告する。

 

『ノア、シールドを展開……。出力を最大まで上げろ』

 

 本船の周囲に、青いシールドの膜が再び張られる。

 しかしいつもとは違い、銀色の燐光のようなモノが本船からシールドに向かって飛び散っていた。

 

『かかって来い、ギメラ……。我らが敬愛する星の姫君を守るために造られた船が、相手をしてやる……』

 

 ルオー族の戦艦を数秒足らずで大破した赤い光が、俺達の宇宙船も飲み込んだ。

 

 

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

 

 

 視界に広がるのは、赤い光の海。

 敵大型戦艦の巨砲が放った光海の中でも、俺達の船が無事でいられるのはシールドのおかげだろう。

 プラチナ色に輝く美しい光の球体に包まれながら、本船が赤い光の海を乗り越えた。


『実戦経験がまだの特殊艦だから、少々肝を冷やしたが……。どうやら、勝ちはこちらのようだな』


 待ち望んだ宇宙空間が広がり、ギャミン少尉が静かに握り拳を作ったのを見逃さなかった。

 

『ノア。主砲を、艦首に撃て』

 

 防御シールドを張る余力も無くしたのか、あっさりと艦砲射撃を受け入れた敵大型戦艦の艦首が大爆発を起こす。

 

『やけにあっさりと攻撃を受け入れたな……』

 

 腑に落ちないと言わんばかりに、ホログラム映像のエドワート総司令官が不審な目を向ける。

 

『前方のクジラ級大型戦艦より、異常な高エネルギー反応を確認……』

『まさか、主砲が壊れたはずではっ!?』

『いや、待って下さいエドワート総司令官……。おそらく、これは……』

 

 まだ破壊されてない敵大型戦艦の上部から、赤い光の柱が天高く伸びる。

 

『シュガー軍曹、聞こえるか? もう一度、フェアリー隊を出す。女王へ告げ口をされた』

『そういうことかよ……了解。すぐに出すぜ』

 

 二人だけに通じるをやり取りを静かに見ていた、ホログラム映像のエドワート総司令官にギャミン少尉が目を向ける。

 

『エドワート総司令官、あの赤い光の柱に向かって最期の攻撃を仕掛けます……。指示を出せますか?』

『それは可能だが、一体あの光は』

『ギャミン少尉。ギメラの戦艦から、通信ビーコンを受信しました』

『……繋げ』


 両手を後ろに回したギャミン少尉が、通信モニター画面の映像を静かに見つめる。

 てっきり先ほどと同じ制御室が映るのかと思ったが、さっきとはまったく違う円柱状の広い空間が目に入る。

 先ほどと同じギメラがこちらをカメラ越しに覗いてるが、それ以外にも同型らしきギメラ達が他のコントロールパネルを黙々と操作していた。

 何十、いやもしかしたら、カメラ外にも他のギメラがいるのかもしれない……。

 

『ようやく、まともに話ができる上司が出てくれたか?』

『まずは、おめでとうと言ってあげましょうか……』

 

 ギャミン少尉の問い掛けに対して、AIノアに近い流暢な女性らしき声が聞こえた。

 

『異空間通信まで繋げて、お前達と会話をしたくもないから。すぐに切らせてもらうぞ』

『あら、よろしいのですか? せっかく、あなた達への御褒美を用意しましたのに』

『……御褒美だと?』


 訝し気な表情で、ギャミン少尉が目を細める。


『ええ、そうですよ。百を超える私の大型戦艦クジラの一つを倒したくらいで、大喜びをしてる愚かな知的生命体達に私からプレゼントをあげましょう……。これより、周囲に散らばる大型戦艦クジラ達を全て集め、愚かな鳥のいる星を滅ぼします』

『貴様……ギメラッ!』

 

 テーブルに拳を叩きつけた、エドワート総司令官の怒号が飛ぶ。

 

『この星系は、我らギメラの支配領域となります。あなた達はこのことを、他の星系に告げなさい。あなた達の抵抗は無意味、無駄な時間だったというわけです……。この宇宙に、我らに従わぬ知的生命体が住む星はどこにも存在しません』

 

 いくらなんでも、嫌がらせの規模が酷すぎる……。

 こんな奴らが、俺の星を……。

 あまりにも一方的な言い分に誰もが一言も喋ることができず、制御室に沈黙の間ができた。

 

『言いたいことは、それですべてか……。地球人テランの滅亡に失敗した、機械の女王殿』

 

 静寂を切り払うように、ギャミン少尉の声が通る。

 

『……何の話ですか?』

『君に紹介したい者がいる。……トウマ、こっちに来い』

 

 少尉に手招かれて、席を立った俺は会議テーブルに向かう。

 シュマール族のリムドウ大使とギャミン少尉の間に俺は立ち、大型モニターに映る通信画面を見つめた。


『トウマ、君が何者か。紹介してやれ』

「エリファ族に助けてもらった、産まれも育ちも地球人テラン久城冬真くじょうとうまだ……」

 

 簡単な自己紹介をした俺の肩に、誰かの手が乗った。

 触手を伸ばし、青い複眼で見上げるリムドウ大使が頷く。

 

『初めまして、ですかね……。機械生命体ギメラの女王。シュマール族のリムドウ大使と言う者です。あなたは完璧な仕事をしたようですが、エリファ族の方が一枚上手だったようですね……。この作業船は超光速ジャンプした先にある、我らシュマール族の護衛艦隊と合流します。彼を受け渡した後、責任を持って……我々、が……』

 

 リムドウ大使が思わず言葉を詰まらせた。

 単眼モノアイでこちらをじっと見つめる蛇頭ギメラの後ろに、鮫を模した巨大な機械の頭が下から唐突に出現したからだ。

 オペレーターをしてるギメラの身体よりも大きな頭部にある、複数の赤いレンズがカメラ越しに俺をじっと見つめる。

 

『トウマ……。コイツが君の星を滅ぼし、大艦隊に指示を出した女王ギメラ。……ナインズだ』

 

 インカム越しに少尉が囁き声で教えてくれた相手を、俺は睨み返した。

 

『ワームホール反応を検知しました』


 唐突に、AIノアの報告が制御室内に響き渡る。

 レーダーに現れたのは、見覚えのある不明ビーコン反応を示す黄色のシンボルマーク。

 最初は一つだった黄色の点滅がポツポツと増え始め、まるで通り雨が降ったように数を増やし続ける。

 

『よし、食いついたぞ。ノア、主砲を全弾、目標に撃てッ!』

『全艦、目標に向け、主砲撃てッ!』


 ギャミン少尉の後を追うように、エドワート総司令官も合図を出す。

 護衛艦隊の先端にある嘴のような主砲から、細長いレーザービームが放たれた。

 最期の砦だとばかりに、赤い光柱の周りに集まった敵戦艦が機体ごと盾になり、本船の艦砲射撃も目標に届かず終わる。

 

『シュガー、早くそれを破壊しろ! 大型戦艦クジラの群れを相手などできんぞ!』

『急かすなキャミー! すぐに壊す!』

 

 大穴を空けて沈もうとする敵戦艦の頭上を、プラチナ色に輝くシールドを纏った四機の小型戦闘機が飛び越える。

 激しい砲弾の嵐を勇ましく駆け抜け、天高く昇る赤い柱に接近した。

 

『シャル、ボムいけるか!?』

『もちろんですわよ、軍曹。弱い者イジメしかできない機械へ、姫様よりささやかなプレゼントを送りますわ。ありがたく、お受け取りなさい……』

『シールドを全力で維持したまま、すぐに退避しろ!』

 

 シュガー軍曹の言葉を最後に、本船の主砲と同じくらいの爆破が起きる。

 

『忌々しい、毛玉共め』

「……え?」

 

 微かな声だったが、わずかに俺の耳へ入った言葉を告げた者へ目を向ける。

 通信画面は既に真っ暗で、ギメラの女王の姿は無かった。

 

『ギャミン少尉、やったのか?』

『はい、エドワート総司令官。我々の勝ちです』

 

 赤い光の柱が消えたと同時に、レーダーに映っていた百を超えるワームホール反応も消失していた。

 敵大型戦艦クジラもまた艦首を斜め下に傾け、全ての格納庫から激しい爆破と火花を噴きながら、ゆっくりと沈んでいく……。

 

大型戦艦クジラが自ら放った拘束咆哮ワイヤーローアで、この辺りの異空間座標が滅茶苦茶になってます。ワームホール反応が消えたのなら、大まかな座標しか特定できなかったはずです。しかし、一時間もせずに大型戦艦クジラが大量に押し寄せてくるでしょう。任務を完遂できなかった女王の指示で、最期の地球人テランを滅ぼすために』

 

 ギャミン少尉、エドワート総司令官、リムドウ大使、三名の視線が俺に集中する。

 

『彼のおかげで、陽動も成功したはずです。餌に食いついた奴らが星から離れてる間に、急いでシュマール族の護衛艦隊と合流しましょう』

『そうだな……。ありがとう、トウマ殿』

 

 エドワート総司令官が深々と頭を下げた後、次の目的地に向かうよう指示を出す。

 ギャミン少尉が、俺の背中をポンポンと叩く。

 

『さあ、最期の仕事だ。全力で合流ポイントに向かうぞ……』

「はい」

 

 白い歯が見えるくらいに今日一番の笑みを浮かべたギャミン少尉に、俺も笑みを浮かべて頷き返した。


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