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星救いの英雄と呼ばれてますが、しがない宇宙ワンコの教官ですよ?(※【第二章】休止中)  作者: くろぬこ
【第1章】太陽系脱出編

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14/21

【第14話】星系脱出作戦

 

「おはよう、ニッグ」

『おはふぁ~』

「眠そうだね……」


 まだ寝起きなのか、挨拶もまともにできないニッグ技師が大口を開けて欠伸をする。

 

「もしかして、三日間ずっと寝てた?」

『正ふぁい、よふ分かっふぁ~』

『何言ってるか、全然分からないわよ』


 喋りながら欠伸を繰り返すニッグ技師を、メアリーが呆れた顔で見つめる。

 ニッグ技師の寝ぐせを指先で弄って遊ぶテザー技師とも挨拶を交わす。

 テザー技師も目元の黒いクマがすっかり消えており、久しぶりにゆっくり休めたようだ。


『トウマ。前に座る?』

「うん、良いよ」


 ニッグ技師とテザー技師の一つ前にある長椅子へ腰を下ろす。

 会議室にいる面々を見渡せば、俺を除くエリファ族の船員十名が全員集合していた。

 

『さて、諸君。三日間で休養はしっかりと取れたかね?』

 

 教壇で準備をしていたギャミン少尉が、俺達の方へ振り返る。

 

『ルオー族の軍人関係者とシュマール族の大使を交えた会議により、ようやく大まかな方針が決まった。細かい点はこれから詰めていくが……。以前から話してた星系脱出の準備を始める前に、最新の情報を皆と共有したいと思う』


 室内の照明が落ち、少尉の背後に巨大な銀河が映し出された。

 銀河の一部が拡大され、見覚えのある太陽系がピックアップされる。

 

『我々は現在、地球人テランが冥王星と呼称する惑星近くの宇宙ステーションに滞在している。当初の予定では、ここから次の星系へ移るつもりだったが……』

 

 少尉の説明をAIノアが補助操作してるのか、太陽系から次の星系を繋ぐ青い矢印が伸びる。

 しかし、それを断ち切るように赤いラインが引かれた。

 

『超光速ジャンプをする際に、二つの星系間で必ず通る中継地点をギメラの艦隊が巡回していることが、星系外から帰還したルオー族の報告から判明している』

 

 スノウ技師と同じように襲撃された宇宙船が他にもあったのか、黄色のバツ印が赤いラインに沿う形でいくつも表示された。

 

『この位置にギメラがなぜいるかの理由は分かってる……。次の星系へ入ろうとした我が本隊と、それを阻止しようとするギメラの艦隊がここで大規模な戦争をしたからだ』

 

 戦争衝突を示すアイコンが、赤いラインの中央に表示された。

 

『この時に、我々とは宇宙防衛協定を結んでないシュマール族の艦隊が参戦した。専守防衛を主とする彼らの珍しい行動だが、どうやら巨大隕石を落としてまでギメラが地球を破壊したと、報せを受けた一部の軍人達が怒りをあらわにして。上の命令を待たず、星系外まで勝手に行動したらしい。シュマール族のリムドウ大使曰く、鳥人の住む星と穏やかな青の惑星は移住計画の最有力候補に入ってたようだ。エリファ族が地球人テランとの平和的な接触を心待ちにしてた彼らが急遽参戦したことで、数の不利を悟ったギメラが撤退行動を取ったのが事の顛末だ……』

『では少尉。私達の本隊は、無事に次の星系へ渡ったのですね?』


 嬉しそうな笑みを浮かべたメアリーに尋ねられて、少尉が『ああ、無事に通った』と力強く頷いた。

 

『星系へ入った我が本隊と入れ替わる形で、ギメラを危険視するシュマール族の艦隊が続々と一帯に集まり、現在はシュマール族とギメラの艦隊が睨み合ってこう着状態になっている……。ここまでがシュマール族の大使から聞いた、二つの星系間で起きた最新の動向と……。我が本隊がルオー族への被害を考慮して、我々との合流ポイントである宇宙ステーションに立ち寄らなかった理由だ……』

『少尉……。御主人様に捨てられたペットみたいな空気になってるぞ……。ちゃんと総司令官から、次の指令も受けてることを皆に伝えてやれよ』

『ああ、そうだったな……』


 シュガー軍曹から指摘されて、教壇の上に少尉が黒色の小さな箱を置いた。

 

『シュマール族の大使から渡された私宛のブラックボックスの中に、総司令官からの指令が入ってた。絶滅危惧種の保護活動を積極的に務めるシュマール族の大使を中心にして、トウマをシュマール族内での絶滅危惧種に認定する動きが進んでいるらしい。これが認められた場合、次の星系を主な活動拠点にしてるシュマール族達が我が船に対する積極的な援助をしてくれるようだ』

 

 まさかの自分が、絶滅危惧種に認定される日が来るとは思わなかったな……。

 

『総司令官と姫様が尽力したにも関わらず、シュマール族との宇宙防衛協定は結べなかったが。他種族の政治に不干渉な彼らとの繋がりを、トウマの件を切っ掛けにより強くして欲しいのが総司令官からの指示だ。エリファ族に比べて宇宙技術は低い種族だが、どんな厳しい環境でも生き抜ける彼らの生息地域は、どの種族よりも広い。ギメラの執拗な追撃をかわす本隊とは合流できなくても、シュマール族の協力さえあれば我々が無事に故郷へ帰還できる確率は高くなるというわけだ……。ここまでの話で、何か質問はあるか?』

 

 返答を待つように、会議室にいる面々を少尉が見渡す。

 

『特に無いのなら、本題に入るぞ……。我々が星系の脱出を図るために、ルオー族から護衛用の戦艦を条件付きで借りる約束を取り付けた……。彼らが提示した条件は、ルオー族全国民の星系脱出計画への参加だ』

 

 少尉の言葉に、星を捨てる準備をしてたと寂しげに語っていたスノウ技師が脳裏によぎる。

 

『ルオー族は決断に迫られている。地球を滅亡させたギメラの矛先が彼らに向かった場合、エリファ族の本隊ですら撤退を余儀なくされたギメラの大艦隊を、ルオー族の星に残存する戦力で勝利する見込みは無いと軍の上層部は判断した……。しかし、星系外に脱出しようにも二つの星系間でシュマール族と睨み合う、ギメラに逃げ道を塞がれた絶望的な状況だ。それを打破するために、隣りの星系内にいるシュマール族の艦隊をこちら側まで招き入れる必要がある』

 

 少尉の説明に合わせて宇宙ステーション側から細長い白色の矢印が伸び、鳥人達の住む星から太い矢印が隣りの星系へ伸びる。

 持っていたペンライトの光を、宇宙ステーション側から伸びる細長い矢印に少尉が当てた。

 

『ルオー族が用意できる最高戦力と我々は合流し、このギメラがいる危険な地帯を強引に突破した後、向こう側にいるシュマール族の艦隊に接触。シュマール族の大使にルオー族の星が危険な状況であることを報せ、星系の脱出を図るルオー族の救援部隊を向かわせてもらう。これが我々が今回やる、星系脱出計画の大まかな作戦だ……。何か質問はあるか?』

『少尉、一つ聞いて良いか?』

『なんだ、シュガー軍曹』


 再び質問を投げかけたシュガー軍曹へ、少尉が視線を向けた。

 

『超光速ジャンプをした先に、大型戦艦クジラの群れがいた場合。どうするんだ?』

『いないことを、祈るしかない……。もし運悪くいたとしても、我々はそこを突破するしか選択肢が無いのだ。我々が向こう側に辿り着けなかった場合、何十億もいるルオー族の星がギメラに虐殺されるだろう。この星系から地球人がいなくなれば、次に狙われる知的生命体はルオー族だからな……。他に質問はあるか、シュガー軍曹?』

『……いいや、無いよ』

 

 二人のやり取りを聞いて、室内の空気が重くなる。

 

『シュガー軍曹は最悪のパターンを想定しているが、手下のオルグ族が乗る宇宙海賊船と遭遇する可能性も十分にあるぞ……。さて、悪いニュースもあったが、良いニュースも勿論ある。シャルロッテ上等兵』

『ゴフッ、ケホッ! な、なんですのっ、ギャミン少尉』

 

 まさか自分が名指しされると思ってなかったのか、シュガー軍曹の隣りに座っていた小柄な女性軍人が、ガタガタと音を立てて慌ただしく反応する。

 映画館みたいな薄暗闇だからこっそりと、背が伸びるらしい特製ミルクの一リットル容器を傾けてガブ飲みでもしてたのか、彼女の咳き込む声が聞こえた。

 

『ドッグ隊のブラックボックスから解析した、新しいシミュレーションの進捗はどれくらいだ?』

『ノアの解析によるシミュレーションの実装は、ほとんど終わってますわね。後はわたくしの細かい調整だけですのよ』

『ニッグとテザーに手伝ってもらって、試作版でも良いから明日までに一台は動かせるようにしてくれ』

『むー。努力してみますわ……』

『頼む。ああ、それと。自機の性能は変更してないか?』

『ええ、してませんわ。船内にある既存データのままですわよ、ギャミン少尉。それがどうかしましたの?』


 ルト族の小型戦闘機シミュレーションのメンテも兼業する、元技師のシャルロッテ上等兵から視線を外した少尉が、なぜか俺と目を遭わせてニヤリと笑う。


『喜べ、トウマ。うちの優秀な戦士達が乗る新しい小型戦闘機が、間もなくやって来るぞ』

 

 

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

 

 

『二十三、二十四……二十五と。ええ、確かにありますね』

 

 納品された小型戦闘機を指差しで数え終えたテザー技師が、最期の運搬車から降りて来た鳥人に受け取りのサインをお願いされた。

 広々とした宇宙ステーションの格納庫には、納品されたカブトガニ型の小型戦闘機が並んでいる。

 外見上は、ビリター達が乗っていた物と同じようにしか見えないけど……。

 

『ニッグ技師。シールドを展開してもらえるかしら?』

 

 銀色のツインテールを頭の左右から垂らした、俺の前にいる小柄な軍人女性がインカム越しに指示を出す。

 操縦室コックピットに乗ってるニッグ技師が操作をしたのか、いつもの赤いシールドではなく青色のシールドが展開された。

 

『もう良いですわよ、ニッグ技師。データは取れましたから……』

 

 彼女がインカム越しに伝えると、展開された青色のシールドが消える。

 一メートル程の高さで停止飛行ホバリングしていた小型戦闘機が、ゆっくりとフロアに着陸した。

 空中浮遊した際に小型戦闘機から勢いよく噴出したホバーで、乱れた前髪をシャルロッテ上等兵が指先で整える。

 

『ギャミン少尉の言う通り。シミュレーションの自機データを、大きく修正する必要がありますわね……』

 

 測定器らしき機材の数値を、シャルロッテ上等兵が真剣な表情で観察している。

 テーブルに置かれたノートパソコンに視線を戻し、素早く指を動かしてキーボードを叩き始めた。

 

『性能の方はどうですか、シャルロッテ上等兵』


 こちらにやって来たテザー技師が、ノートパソコンを後ろから覗き込んで尋ねた。


『外面は旧式のジグマ製ですけど、中身は別物ですわね……。エネルギー装置が全て、シュマール製に置き換わってますわ。量産型とは聞きましたがレーザー砲の威力も上がってますし、シールドの耐久性も段違いですわよ』


 身体をシャルロッテ上等兵が横にずらすと、テザー技師が前のめりになって大量の数値が表示された画面に顔を近づける。

 シャルロッテ上等兵がテーブルに付属した装置を弄ると、小型戦闘機が3Dのホログラム映像で出現する。

 テーブルの中央に浮かんだ小型戦闘機に手を伸ばし、ポイントを指差してスライド操作すると戦闘機内にある機械がピックアップされた。

 

『外面には手を付けず中身だけ入れ替えるとは、シュマール族もなかなか面白いことをやりますわね……。でもそこまでやるくらいなら、一から作った方が早いとわたくしは思いますのよ』

『馬鹿の一つ覚えみたいに同じ規格を大量生産して、あちらは攻めてくるのですから。それを奪って中身だけを変えてしまえという発想は、私は嫌いじゃないですよ? 見方を変えれば生産コストを減らす一つの手段でもありますし。それに――』


 専門用語が飛び交う二人の会話ついていけず、性能テストをしてた小型戦闘機の方へ目を向ける。

 ニッグ技師がコックピットから降りてきた。


『コレを運んで来た技師に聞いたのですが、ルオー族の最新型と性能はほぼ同じらしいですよ』

『ええ? それを少尉は二十五機も、いきなり購入したということですの?』

『いえ。生産が間に合わない小型戦闘機の代替品として、ここに納品されていた物をルオー族から譲り受けたと少尉からは聞きましたよ』

『なるほど……。ルオー族も余裕が無いというのが、よく分かりますわね。パイロットとして使えるなら、犬の手も借りたという状況かしら?』

『ねぇねぇ! 誰かそこにいた青キノコちゃん、見なかったー?』

 

 こっちに声を掛けたニッグ技師が指差した先に、皆が目を移す。

 小型戦闘機の側面パネルが外れ、中身を剥き出しにしてバラされたパーツが床に転がるエリアに、さっきまでシュマール族の技師がいた気はしたが……。


『ああ、彼らなら。機材が足りなくて、どこかへ借りに出掛けましたわよ』

『えー。まだ聞きたいことがいっぱいあったのにー。弄れないじゃないか、もう!』


 ニッグ技師が溜め息混じりに肩を落とし、近くにあるコンテナボックスに不貞腐れ顔で腰を落とす。

 

『三日でワンコ達が乗れるように、AIノアと連動できるよう整備しろとか絶対ムリじゃん……。シミュレーションの機械もなんか調整を手伝えとか言うしさー。僕達だけで、どうしろっつぅの! あー、もうやだやだー!』


 やる気を失くしたように、コンテナボックスの上で仰向けに寝転がった。


『愚痴っても始まりませんわよ、ニッグ技師。ギメラの襲撃に怯えて、どこも余裕が無い状況ですのよ……。期限リミットが近付いてる以上、ここいる人材でなんとかするしかありませんわ』

『……あっ、キノコと鳥ちゃん』

 

 日向ぼっこをする猫が伸びをするように、やる気なさげに寝転がってたニッグ技師が起き上がる。

 触手を伸ばしてハンドルを握り締めたホバースクーターが、宇宙キノコと鳥人の二人乗り(タンデム)という珍しい組み合わせで業務員通路を通って格納庫にやってくる。

 バイクから降りて来たのは、作業着に身を包んだスノウ技師だった。

 

「おはようございます、スノウ技師。少尉に御用ですか?」

『いいえ、トウマ教官。人手が足りなくてお困りだと、ギャミン少尉から聞きましたよ』

『手伝ってくれるの!?』


 やる気ゼロだったニッグ技師が、嬉しそうに飛び跳ねる。

 

『ええ、もちろんです……。実は朝早くから、社長に叩き起こされましてね。星がスクラップになりかけてるのに、のんきにホテルで休んどる場合かと怒られまして……』


 苦笑いをするスノウ技師の話によれば、国から正式に星系脱出の準備命令が出たようだ。

 いきなりの星を捨てる宣言に、国中は大騒ぎらしい。

 まあ普通は、そうなるよね……。

 

『エリファ族の大艦隊が撤退するような相手です。我々の種族だけでは勝ち目がありません……。どの国も多少は混乱すると思いますが、皆が上手く逃げ出してくれることを祈って、我々ができることをするしかないですよ』

 

 滞在していたホテルのチェックアウトをしたのか、着替えなどの日用品を入れてると語っていた大きな背負い袋を床に降ろす。


『さて、本作戦の概要は少尉から聞いております。機材と人手なら余ってますので、すきに使って下さい。どうせ皆、暇をしてるので……』

 

 そう言いながら、スノウ技師が背後に振り返る。

 すると、小型戦闘機を納品した運搬車と入れ替わるかたちで、業務員通路から機材を載せた運搬車が次々と格納庫に入って来た。

 

『もはや星に帰還どころでは無い状況ですし、次の星系へ渡るための船も壊れてしまいました……。機材と一緒に我々も運んでもらう代わりに、こちらの仕事を手伝うよう上から指示が出ましたので、ぜひ手伝わせて下さい。……それに』

 

 スノウ技師が真剣な眼差しで、俺達を見渡す。

 

『うちの作業員達を助けて頂いた恩を返せる、最初で最後の機会かもしれないですからね……。うちの技術者は、シュマール製の整備もできますよ』


 それを聞いたニッグ技師が、ニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべる。


『三日でやれとか、うちの鬼少尉が無茶言ってるから。大変だよーん?』

『ご心配なく、ニッグ技師。クライアントの無理難題は、うちの技術者も慣れております……。星の命運を左右する船ですから、協力は惜しみませんよ』


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