役場の話
一人部屋で待っている間、先ほどの話を思い出していた。
(ヴォイド鉱石・・・動力源が石油では無いとは・・・道理でバイクも発動機のような音がしないわけだ。)
昨日から気になっていたことが一つ解けた。
そして移動手段に関しても
(まさかワープ出来るとは。思っていたより遥かに技術の進んだ世界なのかも知れない。)
私は話から分かった内容を頭の中で整理していた。
一方、出て行ったベリーサとジルトンは
「ジルトン先生、彼は重篤なんでしょうか?移動門の利用を健常者がするなんて滅多に無いと思うのですが・・・」
「恐らく体には特に異常は無いのだろう。体温、脈拍なども確認したが平均的な成人男性並みだった。
種族は恐らく耳長族の亜種だと思われる。どういう訳か耳が短かったがね。
体は大丈夫なようだが、失った記憶はかなり大きい様だ。受け答えは出来ていたがヴォイド鉱石や移動門が
分からなくなっていたりする所を見るに、記憶改変の呪いを受けているか、薬物による記憶の抹消の可能性もある。
さっき彼にも言ったが、放っておくと何が起きるか分からないから病院へは急いで向かった方が良いと判断した。」
「そうですか、承知しました。
移動ですが、門の準備がありますので恐らく明日の午前になると思います。
門の利用の申請書に先生のサインが必要なので少々お待ちいただけますか?」
「ああ、分かった。僕も彼に持たせる紹介状を作らないといけないからね。
待っている間に作らせてもらうよ。」
「ありがとうございます。先ほどの応接室でも大丈夫ですか?別の個室も取れますが・・・」
「いや、さっきのとこで大丈夫だ。彼にも説明しないといけないしね。」
「分かりました。では作成しましたらお持ちします。」
「あと、警察へは連絡はしてあるかい?」
「えぇ、今日の朝に連絡して同様の種族の行方不明者について当たってもらってます。
見つかったら連絡を頂けるとの事です。」
「そうか、早いところ彼が元の生活に戻れると良いのだが・・・」
そこで話は終わり、ジルトンは応接室へ、ベリーサは事務室へ向かった。
「やぁ、待たせてすまない。話は終わったよ。
移動は明日になるそうだ。向こうの門も同じく役所に設置されているんだが、こちらから行けるの君だけになる。
現地の役所には連絡を入れてもらうが、その先の病院へは僕から紹介状を書くから持って行ってくれ。
州都ギルジスのスタッフは優秀だから、きっと君の記憶を取り戻してくれるだろう。」
「ありがとうございます。何から何までご迷惑をお掛けしてすみません・・・」
「いやいや、君が謝る事は無いよ。これが僕たちの仕事だからね。
まぁ僕に関してはもっぱら怪我人の手当ぐらいだがね。」
「ジルトン先生はこの村の医師なんですか?」
「まぁ正確には州に雇われて派遣されてる医者だがね。
この村には医者が居なかったものだからギルジスから派遣されて来てるんだ。」
「なるほど。
ギルジスは大きい街なんですか?」
「それはもちろん。キルグ州の州都ってだけあって人口500万の都市だよ。
流石に首都程大きくは無いが国内でも指折りの都市さ。」
「それは凄いですね・・・
明日の移動は一人と仰いましたが、先生やベリーサさんは来ていただけないのですか?」
「門での移動は一人毎に燃料が必要でね。余計な人員は移動できないんだ。
それに僕たちにもこの村での仕事があるから申し訳ないけど一人で行って貰うことになる。
悪いね、不安だとは思うけど向こうも優しい人が多いからきっと手助けしてくれるよ。」
「そういう事だったんですね、てっきり起動したらある程度は利用できるのかと思ってました。
すみません、そうですよね。お忙しいところ助けていただきありがとうございます。」
その後も色々と問答をしているうちにベリーサが部屋に戻ってきた。
「ジルトン先生、先ほどの書類が出来ましたのでサインをお願いします。」
「早かったね。」
ベリーサの持ってきた書類にジルトンがさっとサインをした。
「ありがとうございます。これで提出してきますわ。
では今日は解散してもらって大丈夫です。明日の朝9:00にまた役場までお願いしますね。
名無しさんは今日も昨日と同様にホテル・マイルズで部屋を取ってあります。
あと、身元不明のままでは今後も不便ですので、仮の住民カードをお渡しします。
公共サービスはこれで大体は利用できます。
あと、手持ちのお金も無いとの事でしたので特例ですが、支援金の給付を致します。
記憶が戻って働けるようになりましたら寄付の形で戻していただけたらありがたいですが、強制は致しません。
ご自由にお使いください。
では、また明日お会いしましょう。」
こうして役場での話は終わった。