事情聴取
外が明るくなり部屋に明かりが漏れ入ってくる。
「ん・・・眩しい・・・」
「朝か・・・今何時だ・・・」
久々にベッドで寝ることが出来たため、かなり深く眠れたようだ。
時計を見ると8:30を表示していた。
「やばい、朝飯9:00までだったな。顔洗ったら食べ行くか。」
(寝すぎたようだ。少し急ぎ目に用意しよう。)
10分程で用意をして食堂へ向かった。
朝飯はバイキング形式だったが、種類は少なかった。
(お、パンあるのか。)
何種類かパンが置かれていた。
(昨日は緑米だったしパン食べてみるか。)
パンと少しのおかず(肉のそぼろ)を食べた。
パンも緑色なのかと思ったら普通に白いパンだった。
小麦はあるのかもしれない。味も食パンのような味だった。形は丸い筒状だったが。
食事を終えて部屋に戻る。
部屋の前の箱に昨日出した服が洗濯されて入っていた。
部屋の中で着替え、ロビーに向かった。
「チェックアウトでよろしいですか?
ご利用ありがとうございました。」
ホテルをチェックアウトして正面の役場へと向かう。
役場は昨日と違い何人か利用者が居る様だった。
受付には利用者が居たので、近くの椅子で受付が空くのを待っていた。
待っている間周りを見ていた。
昨日は受付窓口しか気にしていなかったが、中は大分広いようだ。
公的サービスなどは昨日利用した受付で行われるようだが、
それ以外にも銀行・住民の移転・警察の窓口がそれぞれあるようだった。
昨日の時間にはどれも人が居なかったので受付の時間が日中の短い時間だけのようだ。
(警察は24h居てもおかしくないような気がするんだが、そういう用途の窓口では無いのかな?)
他愛もない事を考えているうちに受付が空いた。
早速話をしに向かった。
受付の人は昨日とは違う人だった。
「すみません、昨日記憶喪失の件で伺ったものですが・・・」
そう伝えると、
「ああ、記憶喪失の人ね、担当を呼ぶからちょっと待ってね」
そう言われ、少し待つと奥からベリーサが出てきた。
「あら、やっと来たわね。奥の部屋で事情を聞きますので移動しましょう。」
そう言われ奥の部屋へベリーサに付いて行った。
部屋はどうやら応接室のようだった。
「お茶持ってくるからちょっと待ってて。」
そう言ってベリーサがドアを開けると丁度入れ替わりに男性が入ってきた。
「どうもどうも、君が記憶喪失君かい?
失礼、私はこの町の公医でジストンっていうんだ。よろしく。」
「あ、はい。そうです。名前も分からないので名乗れませんがよろしくお願いいたします。」
「そうか、名前も思い出せないのか。
ちょっと待っていてくれ。」
ジストンは持参のバッグから水晶球とタブレットを取り出した。
「あの、これから何をするんでしょうか?」
「まぁまずは本当に記憶が無いか確認することからさせてもらうよ。
すまない、これも決まりなんでね。
まず水晶に右手のひらを載せてくれるかい。」
そう言われ、取り敢えず手を載せた。
「じゃあ僕が質問するからそれに”はい”か”いいえ”で答えてくれ。
君は名前が分からない。」
「はい。」
「過去の自分について思い出せることが無い。」
「はい。」
「嘘をついて居る。」
「いいえ。」
「ふむ、どうやら本当に思い出せないようだね。
ではまず覚えている範囲から教えてもらえるかな?
あ、もう水晶から手を放して良いよ、疑う必要はもう無いからね。」
そう言うので手を放す。ジストンは水晶とタブレットをバッグへと仕舞った。
どのように判別しているのか良く分からなかったが、うそ発見器のようだ。
答えるたびにタブレットが赤く光っていた。赤く光ると本当って事なんだろう。
ここでベリーサがお茶を持って戻ってきた。
ジストン「ああ、ベリーサ。ありがとう。
今記憶喪失が本当か確認したよ。彼は本当に記憶が無い様だ。」
ベリーサ「分かりました。私には構わず診察を続けてください。」
そう言ってベリーサは部屋の端の椅子に座った。
「では、まず初めに気が付いたのは荒野でした。周辺には何もなく、その時点でこの格好でした。
どこなのかさっぱり分からなかったので取り敢えず歩いていたら道に当たりまして、
そこからひたすら歩いていたら森に着き、ホッドさんに出会ってここまで連れてきてもらいました。」
「ふむ、気が付いた周辺は”不毛な大地”か。道に当たったのは幸運だったね。
誰か近くに居なかったかい?」
「誰とも会いませんでしたが、道は誰かが歩いた跡がありました。」
「そうか。何かの事件に巻き込まれたのかもしれないな。
この村の設備だと君の記憶を戻すことは難しい。一度州都の病院で診てもらうしかないな。
後、警察にも連絡して行方不明者のリストから君が居ないか探してもらおう。」
「あの・・・私はどうすれば宜しいでしょうか?」
「まず初めに病院で記憶を戻せないか診てもらおう。村から結構距離があるが、州都ギルジスの病院に紹介状を書く。
移動は村の遠距離移動門を今回は使用させてもらおう。記憶喪失が事実だと判明したんだ、君にもしっかりと公的サービスを
受ける権利はある。身元が分かるまでは国が面倒を見てくれるよ。」
「ありがとうございます。
すみません、遠距離移動門というのは何でしょうか?」
「特定地点間の移動を短期間で行える、言わばワープゲートだよ。
利用するには大量のヴォイド鉱石が必要だから中々使えないんだが、
今回のような病気の関係では使用を許可されているんだ。」
「ヴォイド鉱石というのは?」
「君、本当に何もかも分からなくなってしまっているようだな。
ヴォイド鉱石っていうのはエネルギーを供給してくれる鉱物だよ。
バイク、車、テレビ、街灯 全てこの鉱石が組み込まれていて、それから動力を得ているんだ。
不純物の少ないものが高出力で利用できる。車なんかは超高純度のヴォイド鉱石が使用されているんだ。
ただ、無尽蔵では無くてある程度使用するとエネルギーを出さない黒い石になってしまうがね。
門はこの鉱石を多量に使用しないと動作しないんだ。だから通常の移動ではあまり使わないのさ。コストが高いからね。」
「なるほど。今回本当に使用させてもらって良いんですか?記憶喪失ってだけで体は大丈夫そうなんですが。」
「他者から故意に記憶を消されていたら時間経過で体に何か問題が発生するかも知れないからね。
ゆっくりと州都まで移動している間に急変するかも知れない。そういった事を避けるためにも門を使用させてもらうのさ。
まぁコストが高いが社長や州知事なんかは移動で利用しているし、そんなに気にする必要はない、後で請求も無い。」
「分かりました。ありがとうございます。」
移動するのも大変だろうなと思っていたがこんなに便利なものがあるとは。
ワープゲート・・・一気にファンタジーからSFの世界になってしまった。
ベリーサ「では記憶喪失さん、移動門の申請をしてきますので少々お待ちください。
あと、ジストン先生。少しお話がありますので一緒にいらしてください。」
2人が部屋を出ていき、一人残された。