ホテル・マイルズ
林を先へ先へ進むと周辺が切り開かれ、畑が広がり始めた。
「ほら、見えてきたぞ。オラの村、ミルード開拓村だ。」
村が近づくにつれて石造りの家々が見えてきた。
200人程度と聞いていたが、一か所にまとまって拠点を構成しているようだ。
「役場はあの時計塔の下だ。正面に駐輪場があるからそこまで行くぞ。」
村に入ると道は白い石のようなツルっとした地面になった。
(コンクリートの一種だろうか?)
ファンタジー感のある世界かと思っていたが、遥かに地球に近い技術体系のようだ。
道には所々標識が掲示されていたが、見た感じは金属製の看板だった。
所々人が歩いていたが、ホッドと同種族のようで身長の低い人が多かった。
時計塔はそこまで大きくなかったが、下の役場は2階建ての石造りの立派な建物だった。
「窓口まで一緒に行くぞ。」
ホッドの後ろを付いていく。
役場の入り口を潜ると[受付]と掲示された窓口の奥に女性が座っていた。
こちらに気づいたようで立ち上がって窓口まで来た。
「あら、ホッドさん。お世話様です。
午前に連絡頂いた方が後ろの方ですか?」
ホッドを知っているようで女性の方から声を掛けてきた。
「ようベリーサ。ああ、こいつがオラんとこの小屋に迷ってきた記憶喪失の男だ。
流石に一人で歩かせるわけにはいかないからバイクで乗っけてきてやった。」
「すみませんねぇ、こっちから迎え出せれば良かったんだけど、リーズは今日隣の村に使いに出しちゃっててね。
公用車あれ一台しか無いからこっちから行けなかったのよ。
後で燃料代の請求書を下さいな。あと今日の手当は道路整備事業費に上乗せしておきますね。」
「ああ、分かった。」
「お家には連絡しておきましたので今日明日は公休という事としました。
明後日からまた道の整備の方よろしくお願いします。
この後の彼の面倒はこちらで見ますので今日は帰っていただいて大丈夫です。」
「じゃあよろしく頼むな。
名無し、記憶が戻るといいな。またな。」
そう言ってホッドは自分の家に帰っていった。
「さて、改めまして。ここがミルード村役場受付です。私はベリーサ、ここの受付をやっています。
名無しさんの事はホッドさんから伺っています。荒野で記憶を無くされたそうで・・・
詳しい話を聞きたいところですが、そろそろ終業時間となりますので詳しい話は明日伺います。
宿をとってありますので今日はそちらでお休みになってください。
あ、費用は取り敢えずは気にしなくていいですよ。
虚偽の申告で無ければ公費で賄われます。
宿は役場正面の”ホテル・マイルズ”で1部屋取りましたのでそちらへお願いします。」
ベリーサからそう言われ、謝意を述べ役場を後にした。
ホテル・マイルズは道を挟んで向かい側にあった。
辺りは薄暗くなってきていたが、村内には街灯が建っており比較的明るかった。
ホテル・マイルズに入るとカウンターの男性従業員が気づいた。
「いらっしゃいませ。ご予約のお客様でしょうか?」
「あの、役場でこちらに予約を取っていただいていると聞いたのですが・・・」
「あぁ記憶喪失の方でしたか。
はい。2階にお部屋を用意してあります。
案内致しますので少々お待ちください。」
そう言って別の従業員が奥から出てきた。
「では、こちらへどうぞ」
その従業員に着いていった。
ロビーの奥にエレベーターがあり、それで2階へと向かった。
大分古風なエレベーターで開閉は手動、ドアは金網だった。
ただ、かなり細工が施されており、工事現場のような無骨なものではない。
「202号室がお部屋となります。
記憶喪失との事ですので、何か不自由がありましたらこちらの”投話器”にてフロント1番に連絡を下さい。
この投話器をドアのこの丸の箇所にかざすとドアが開きます。」
そう言って一昔前のガラケーのようなものを渡された。
長方形で数字が書かれたボタンと画面がある。
鍵にもなっているらしい。
「すみません、これの使い方が分からないのですが・・・」
そう言って投話器の使い方を聞いた。
「ああ、すみません。まず側面のボタンを押します。そうしますと画面が表示されますので後は数字のボタン1を押してください。
そうすればフロントに繋がります。他のボタンは機能を止めてありますので使用することは出来ません。」
「わかりました、ありがとうございます。」
お礼を言って部屋に入った。