出会い
看板が見えなくなるくらい歩いた所で森に入った。
境界が分かるくらい鬱蒼としている。
ただ、道はしっかりと作られているようでモーセのように森がパックリと割れているようだった。
「そろそろ人に出会えないかなぁ」
森の道を進むと少し開けた場所に出た。
そしてそこには小屋が建っていた。
小屋には煙突がついており、煙が上がっていた。
心臓の鼓動が早くなる。
何といってもこの不可思議な状況で初めて別の誰かに出会えるのだ。
兎にも角にもここがどこなのかだけでも教えてもらいたい。
焦る気持ちを落ち着けて小屋のドアをノックした。
「すみませーん!どなたか居ませんかー!」
すると中から
『誰だ?こんな辺鄙な場所で一体何の用だ?』
と、声を荒げながら子供のような体型の毛むくじゃらの男が弩を構えて現れた。
私は焦って手を上げ、
「お休みのところすみません、この先の荒野で遭難してしまいまして、
記憶も曖昧でここがどこなのか分からないのです。」
素直に現状について答えた。
「この先の荒野だと?オラがここで木こりをやり始めて3か月経つが、この道を進んだ奴は居なかったぞ?
お前嘘をついて居るんじゃなかろうな?こんな所に金目のモノは置いていないぞ!」
怒気を強める毛むくじゃらな男。
「いえ、嘘はついて居ません・・・自分でも何故ここに居るのか分からないのです。
ご迷惑は重々承知していますが、ここは何処なのか教えていただけませんか?」
「ふん、確かにヘンテコな恰好をしているし、困っていることは確かなようだな。
ここはトリスト大樹海の端だよ、聞いたことくらいあるだろう?」
そう言われたが、一切記憶にない。
「トリスト大樹海・・・?」
困り顔で言われた地名を言った。
「お前さん、何を覚えているんだ?」
そう聞かれたため、何も覚えていない事、自分の過去・名前についても分からない事を伝えた。
ただ、異常な体力については黙っておくことにした。
「記憶が曖昧って・・・お前そりゃ何も覚えてないって事じゃないか」
「ええ・・・ですのでどうしたら良いのか分からなくて、道伝いに歩いたらここに辿り着いたのです。」
「ふむ・・・取り敢えず役所に連絡して保護してもらうのが一番だろう。
連絡してやるから少し外で待っていろ」
そう言い男は小屋の中に戻っていった。
(見た感じ怖いおっさんだったが、根は優しいみたいだな)
失礼なことを考えながら大人しく外で待っていた。
(連絡ってどうやって取るんだ?やっぱり魔法とかあるんだろうか?)
どんな世界なのか分からないが、今の男はどう見てもおとぎ話のドワーフ族だろう。
そうするとファンタジーの世界に紛れ込んでしまったのではなかろうか?
都合よく言語が分かったので助かったが、言葉も分からなかった殺されかねない状況だったと後になって思った。
十数分経ったところで男が出てきた。
「ここの地域の役場に連絡したが、迎えは出せない、自力で窓口まで来てくれとのことだ。
この森を抜けるには歩きじゃ厳しい。野垂れ死にさせたらオラも捕まっちまうから役場まで連れてってやる。」
どうやったか分からないが連絡は取れたらしい。しかも連れてってくれるそうだ。
「すみません、ありがとうございます。」
感謝を述べる。
男は小屋の裏に向かった。
「ほら、こっちに来い。2人乗りだから後ろに乗れ」
そう言って原付のような2輪の乗り物を出してきた。[原付は2人乗り出来ません。]
(バイクあるんだ・・・)
私は男の指示に従って荷台の部分に跨った。
「そう言えば名乗って無かったな、オラはホッドって言うだ。
半日位で役場まで行けるからそれまではよろしくな。」
「ホッドさんですね、こんなに親切にしていただいて・・・ありがとうございます。」
ホッドはバイク?の横に着いている棒を掴んで回した。
キーンという甲高い音がして運転席の正面のパネルが点灯した。
「質問ばかりで申し訳ないのですが、これはバイクですか?」
思い切って聞いてみた。
「まぁそうだが。なんでそんな事を聞くんだ?」
「いえ、知っているバイクと違うようなので・・・」
このバイクはマフラーが無い。エンジン音?も甲高い音が鳴っている。
(ガスタービンでも入っているのか?排気も無いんじゃ内燃機関でも無いのか?)
悩んでいたら声をかけられた。
「準備できたっけ、そろそろ行くぞ。」
そう言ってホッドも運転席に跨った。
操作方法は地球のものと同じらしくアクセルを捻って進み始めた。