きゅうっ
それから数日間、令から来るラインには当たり障りの無い返事を返していた。だが電話がかかってきても出なかった。出て楽しそうな声を聞きながら、クソ教師の話なんか聞きたくなかったからだ。
着信があってもあとからコンビニに行ってたとか、風呂に入ってスマホ見ないで寝てたとか言い訳を返信していた。
令が先生の彼女になってから10日。
その日の夜のラインにオレの心臓は凍った。
「先生に女にしてもらった♪」
その一行。たったそれだけなのに。
無言でその画面を見ていた。
画面が暗くなって消えるまで同じ画面を見続けるなんて初めてだった。
手が震える。息が苦しい。
あのクソ教師。
オレの大事な令を。令の気持ちをいいようにして──。
胸が苦しい。
頭が痛い。
令のあの唇が。令の肌が。令の全てが汚されてく。
苦しい。苦しい。苦しい。
令。それは不倫なんだぞ。
悪いことなんだぞ。
でも──。
オレに言うことなんて出来ない。
その立場にいない。
「タケルにだけは言われたくないよね」
そう言われる。言われるに決まってる。
そして嫌われてしまう。そばにいることも許されなくなる。
自分の過去は消せない。
こんなにこんなに恋い焦がれてるのに。
大好きな令に何も出来ない。
女にしてもらった。
女にしてもらった。
女に──っ!
悶え苦しんで時間を見れば22時。
あのクソ教師は学校の業務が終った後、制服姿の令を車に乗せて車中でってことかよ。
想像すれば吐きそうだ。
なんてやつだ。なんて、なんて、なんてっ。
怒りがおさまらない。
無意味に立ち上がって部屋の中をグルグル回った。
この文言に2時間30分の既読スルー。
返したくても吐きそうになっちまう。
見たくもない。こんなもの。
こんなメッセージ。
今までオレは、何人の女を踏みにじって来たろう?
踏みつけて来たんだろう?
これはその報いなのかもしれない。
令とオレの秘密。
誰も知らない、令と先生との密会。
だが一番知りたくないオレに令はメッセージを送ってくる。
それは一番信頼しているから。
令が初めての経験を言いたい気持ち分かるよ……。
言えるのオレしかいねぇからな。
でもあんまりだ。
あんまりじゃねぇか。
自分が大好きな令が他の男に抱かれた報告なんて。
「おう。おめでとう」
その言葉と、かわいらしいスタンプを送るのが精一杯だった。
悶える。
あの一行の文がオレを狂わせて行く。
心に穴が空いて行く。
拳銃で打ち抜かれたように。
鉄の杭でも打たれたかのように。
なにもかもが嫌になって行く。
くそう。
こんなことって。
ない──。




