はちっ
それから二日。
オレは日課になった筋トレ中。
どうせ敵わない。令の好きな相手になんて。
でもスポーツマンの先生に近づきたい一心で筋トレを日課にしていた。
三年間の信頼関係なんかに敵わない。
大人の指導者。どれをとってもオレになんかないものだ。
顔が良いとか、体毛が薄いとか、ナニがうまいとかそんなんじゃねぇんだ。
令が欲しいのは頼りになる男なんだよな。
例え無理でも一歩でも近づきたい。
一歩でも──。
汗をかきながら令に会いたい気持ちを抑えて、床で腕立てをしているとライン音がなった。
ポップアップに令のアイコン。
令だ!
オレはスマホを掴んで起き上がった。
振られた報告だろうか?
もしくは言えなかったとか?
そんな想像を打ち砕く内容がそこには書かれていた。
「先生、私の気持ち分かってたって! 彼女にしてくれるって!」
は?
は──?
意味が分からない。
先生には奥さんがいて、子どもがいて──。
男気溢れる人で、信頼関係があって、厳しくも、優しい。
それが彼女にしてくれる?
生徒を。教え子を。三年間、部活で苦楽を共にした愛弟子を──。
クソじゃねぇか!
なんだそりゃ。そんなヤツ、人間でもねぇじゃねぇか!
──いや待て。
オレに人のことを言える義理があるか?
今まで、友人の彼女に誘われるまま抱き、人妻だって、先生だって抱いて来た。
そんなオレが令が好きなヤツのことをとやかくいう権利があるのか?
しかし、スマホを震える手で持ち上げて、令へダイヤルしようとするのをためらう。
何度も何度も受話器をあげようとするが出来ない。
なんて言えばいい──?
ようやく受話器のボタンをタップしたのは23時57分。
日付が変わる少し前。
こんな悲しい気持ちを抱いたまま眠れなかったんだ。
だけど令にこの眠れない気持ちを伝えるのには抵抗があった。それは違うと思った。
なにも決まらないままの発信。令はすぐに出た。
「よー。タケル〜。既読無視かと思ったよ〜」
「テンションたけーな」
「当たり前でしょ〜。でもこのことタケルにしか言ってないからね。内緒だよ誰にも」
「ああ……」
浮かれてる。浮かれ過ぎて大事なことを忘れている。
先生が彼女にするってことに違和感を感じていない。
「でもさ、奥さんがいるんだろ?」
「そうだよ。でもいつか別れるって」
それって、浮気男の常套句。
つまり令はつまみ食いされるだけだ。
令の好きな気持ちを利用して、一時の快楽に利用するだけ──。
「こんなこと誰にも言えない。タケルは応援してくれるよね?」
「うっ」
言葉がつまる。こんなに楽しそうな令は初めてなのに。
心が無理だと言っている。
もうこれ以上は耐えられないと言っている。
「あー。ごめん。自分からかけといてアレだけど、もう遅いから切るわ」
「えーもっとタケルと話したいのに〜」
「また聞くよ。ゴメンな」
「うん。じゃまたね」
電話を切った。
その日は、朝まで眠れなかった。
眠れるはずがなかった。