ろくっ
令とのやりとりがあった次の日、月曜日。
繋がりのある女性の清算をした。ある人は大人に納得してくれた。ある人には思い切りなじられた。
でもそれはオレのちゃんとしない気持ちがそうさせたんだ。
美容師のお姉さんにもしばらく食い下がられたけど、最後は納得してくれた。
鯉川はなぜか敏感に、公園で走っていた女の人ですかと聞いてきたから、そうだと答えた。これにはウワサに聞く女の勘って怖ろしさを知った。
マジ、鯉川と付き合ってたらいつもビクビクしてなきゃいけねーよな。怖え。
別にこれは令と付き合うとかそういう気持ちじゃない。
令の言うとおり、オレはタラシくんだった。
それって最低だと思い直したんだ。それで今までしてきたことが真っ白になるなんて思ってない。
だけど、少しは。少しだけは違う。
普通の高校生になった。
たまに告白されるけど断った。これでいいんだ。
令のことを一途に思いたい。
令とラインを始めた。無料電話で話したりもする。
令はまだオレのことを軽蔑してるけど、それでいいんだ。
そうだったし。
でも真面目に話をした。
令の好きな人の全貌が徐々に明らかになってきた。
部活の顧問の先生らしい。
厳しいけど、頼りになって、優しい。信頼関係がある。
それってスゴくいいよな。聞いてるだけで男らしさを感じるよ。
「スゲえな」
「でしょ」
「レイが惚れるのもわかるよ」
「んふふ」
この笑い声。
見た目は男っぽいのに女の子らしくて好きだ。
そしてこの声も。
叫びたいくらい、好きだ。好きだ。好きだ──。
「タケルのイメージなんか変わった」
「そう?」
「すぐに女の子と寝ようとする悪いタラシだと思ってたけど、実際には優しい良いタラシなんだね」
「そうだよ。だからレイのこともタラそうとしてんのかもな」
「あっはっは。こんな男みたいなのを? 光栄です。イケメン君」
「ふふふ」
こんな話。
令にだったらイジられたっていいんだ。
そうすれば長い時間話してられるし。
「告白。しちゃおっかな──」
「おいおい。止めとけよ」
「なんで?」
「だって、奥さんも子どももいるんだろ?」
「だけど──」
「うん」
「もうすぐ部活も終わっちゃうし。そしたら会う回数減っちゃうし」
「だからってしていいってことはないだろ?」
「でも気持ちを伝えることは大事だと思う」
「まぁ」
「うん」
「そうかも」
「ありがと」
気持ちを伝える。
大事なこと。
たしかにそうだと思うよ。
でもなんか。
なんか──。
オレは息を飲む。
言わなくてもいいことを言う。
令にとっては迷惑な言葉を。
「あのさレイ」
「なに?」
「あのさ」
「ん?」
「気持ち」
「え?」
「オレの気持ち」
「はい?」
「レイのこと好きだ」
「んふふ。そう」
「うん」
「そうやるんだー」
「いや違う」
「いやマジ、ドキッとするね」
「違うよ!」
「やだ~。そんなに否定しないでよ~。せっかくいい気持ちで受け取ったのに」
「え?」
「元気出た。タケルみたいないい男にそう言われると勇気が出るよ。例え友だちとしても。私も好きだよ~。いつもありがとね。じゃお風呂入るから」
「あの。ちょっ!」
切られた。電話切られた。
辛い。
気持ちを伝えても真面目に受け取って貰えない。
いつもはポカポカ暖かい気持ちで想像の令と眠れるのに。
相手への思いが強すぎて、聞いてもらえない。
というか、元々同じ土俵に立ててないんだ。
こんなに好きなのに。
辛い──。