ごっ
帰りのことも覚えていない。
お姉さんに家の近くまで送られてた。
令に軽蔑された。まだ気持ちも伝えてないのに、嫌われたかもしんねえ。
トボトボと肩を落として令の家の前に立ち止まる。
まだ帰ってないのかな。部活でみんなを引っ張ってるところだったんだろうな。部長なのかな。あの辺の高校だったのか。
頭の中は令のことだけでいっぱいな風船みたいだ。もう少しで破裂しそう。
「あれ? タケルじゃん」
その声に破裂。
ハッキリとした声に思わず直立不動。
ちょっと待ってくれ。心の準備が出来てねぇ。
声の方向にはやはり令。
オレは真っ赤になって声を出せずにいた。
「よぉ。タラシくん。今日のデートは楽しかった? あれ年上でしょ。大人の恋か? やーらしい」
やっぱり。気付かれてた。最悪だよ。
「あれ? 怒った?」
「……いや怒ってない。事実だし──」
「やっぱりなー。タケル変わっちゃったもんなー」
「いや違うんだよ」
いや、何が違うんだ。オレよ。
そして変わった?
オレ変わったのかなぁ?
「プ。違うとかって、なにも私に言い訳しなくてもよくない?」
「いやそのぅ。あのぅ」
なんてことだ。言葉が出て来ない。
つか何を言っても言い訳だもんな。
「あ。そうだ。タラシくんにちょっと相談してもいい?」
タラシ……って言い方は嫌だけど、相談。
令と話したいオレは二つ返事だった。
「もちろん。何でも。そうだ。オレの部屋。行くか?」
「えー。やだ。襲われたらどうしよう」
「おいおい」
そんな、お前を哀しませることなんて。
「私も一応女だから、久々に近所の公園に行こうよ」
「信用ねぇな」
「あると思ってるのがスゴい」
無様。惚れた女の前だとこんなにカチカチになるなんて。
言い返せないし、付いていくしかない自分の格好悪さ。
彼女の後ろ姿を追いかけて近所の公園の古びたベンチへ。
なんとか挽回しようと、令の座る場所にハンカチを敷いた。
「へ〜。そうやるんだね。さすが」
「いや違う。普段はこんなこと絶対にしない」
「なにもそんなに鼻息荒く否定しなくてもいいでしょ? カッコいいんだか、悪いんだか」
カッコいい──!
令もそう感じてはくれているんだな。
ここはポジティブに。言葉にトゲがあるとか気にしないで。
「そ、相談って?」
先ほどの元気はどこへやら。
黙ってしまう令。
なぜかドキドキするオレ。
「実はね……。好きな人がいるの」
好きな人──!
それってオレ?
……なわけない。だったら相談なんかするかボケ。
一気に脈無し。
くそう。でも令が好きだぞ。
どうしようもない。一応相談は受けとくか。
「ふんふん。付き合ってるの?」
「まさか──。向こうは私が好きなことなんて知らないよ」
「そうなんだ。恋ってやつってすごいよな。生きてる実感があるもん」
「やっぱり? そうだよね!」
つーか。オレの場合は昨日からですけど。
でも正直そう思う。
あー恋をしててよかった!
ちゃんとアドバイスできるもんな。恋をしてる本人にだけど。
「告白は?」
「そんな。できないよ。今の関係くずしたくないし」
ってことは男友達とかなのかな。
はぁ。何を聞いてるんだろ。オレ。
「タケルはどんな風に告白して来たの? どうやって好きな人に気持ちを伝えて来た?」
したこと無いっす。
今までは向こうから勝手に来るだけで。
しようと思ってた相手には好きな人がいるし。
どうしようと思ってるところでして。ハイ。
「好きになる気持ちってさ──」
「うん」
「すっごく大事だと思う。それが相手に伝わらなくても、気持ちは沸騰しそうだし。一日が楽しくなる。時間もあっという間に過ぎちゃうしなぁ」
「だよね。だよね」
「相手に伝えたくても、伝えられない。その気持ち分かるよ。すっごく分かる──」
「えー。そうなんだタケルにもそういうのあるんだね」
今まさにそう。
目の前にいるのに、どうにもならないなんて。
「どんな人なの?」
「いー。言えないよ」
「同じ学校の人?」
「──うん。まぁ」
同じ学校のやつか〜。やっぱオレじゃないんだよな。
「その人ね……」
「うん」
「奥さんも子どももいるんだ」
……つまり──。
先生か。
「そっか」
「うん」
「がんばれな」
「ありがと」
辛い……よな。
それはオレだけじゃない。
令だって。言えない思いを抱き続け無くちゃいけない。
そんな令に、横から好きだなんて──。
言えないよ。




