じゅうにっ
令の後ろ姿が離れていく。
駅の方へと。
さすがに早い。陸上部の脚力。
感心してられない。ホームにでも飛びこまれでもしたら。
心配が頭を支配する。
駅に向かう薄暗い公園。
見覚えのあるアウターとキャップ。
それを着たヤツがベンチに座っている。
完全に肩を落として泣いていた。
やめろよ。令──。
お前が哀しいと、オレまで。
オレまで──。
そうだよな。
好きだったよな。
あんなに嬉しそうなお前見たこと無いもの。
苦笑いしてゴメンな。
真剣なお前の思いをスルーしてゴメンな。
令のベンチの横に座り、二人とも無言。
たが互いに泣いていた。
互いに。
切なくて苦しい令の気持ちがオレの中にまで入って来てしまった。
そしてオレの気持ちまでも。
どうにもならない思いが溢れて、涙を流してしまったんだ。
令がどう思ったのか分からない。
ただオレの肩に頭を倒して来た。
オレもその頭に自分の頭を傾ける。
互いにもたれ合って泣いた。泣きつくした。
どちらも哀しくて言葉を発せられなかったが、ようやく大きく息をついたのは令。
「タケルが泣くのはお門違いじゃない? ふふ」
それでも涙が止まらない。
令の辛くても、強がらなくちゃならない気持ちが伝わる。
「あは。カッコいい顔が台無しだよ」
令が差し出すハンカチ。オレが令をなぐさめなくちゃいけないのに。
なんでこんなに令は優しくしてくれるんだ?
「ありがと。タケル。そばにいてくれて。ホントは最初に来た時、絶対無理って思ったのに、タケルも泣いてるんだもん。あ〜おかしい」
「笑うなよ……。いっぱい泣いていいんだぞ。今日は泣いちまえ」
「……うん」
令はオレの胸に頭を倒して顔を押し付ける。
幾分落ち着いたオレは唇を震わせながら令の髪に触れていた。
オレたちは子どもだ。
令は大人にいいようにされて、オレは女に誘われるまま抱き続けた。
気付かなかったんだ。
オレは令に恋を教えてもらうまで。
それまでのオレはクソ野郎だった。
変われたのは令のおかげだ。
令はオレの天使。
このまま胸の中に溶かして入れてしまえればいいのに。
そうすればずっとずっと二人は一緒にいれるのに。
「ありがと」
「うん」
「落ち着いた」
「そうか」
「やっぱイケメン」
「あのな」
「ふふ」
「ははは」
令の恋は終った。
少し遅かったし、失ったものもある。
それは三年間の師弟関係。
思い出も実績も全てにケチがついた。
あの部活に打ち込んだ青春を思い出すたびに、クソ教師を思い出さなくちゃならないんだろう。
それは余りにもヒドい。
令の気持ちを考えたら、哀しくて仕方ない。
「レイ」
「ん?」
「心配すんな。オレがいつもそばにいるよ」
「ご近所さんだから?」
「ああそうだよ」
「ふふ」
「ずっとずっとそばにいる」
「それじゃタケルと結婚しなくちゃならないじゃん?」
「……そうだよ」
「えーやだ〜」
「いやなの?」
「だってずっと男っていじられそうだもん」
「オレ一言でもそんなこと言ったか?」
「言った」
「言ったなぁ」
「プ」
「ふふ」
そっと令の手の上に、オレの手を乗せる。
彼女のぬくもりが伝わってくる。
同時に好きな気持ちも。
「本当だよ。令の一生を支えていたい。本当の気持ち」
「うそ」
「うそじゃない」
「やだぁ」
令は黙ってしまった。
そんな令をオレは見つめていた。
「ありがと」
「いや」
「なぐさめてくれて」
「なぐさめじゃねーけどな」
「はー。泣いた。じゃ帰ろ」
「そうだな」
立ち上がって駅へ向かう。
オレは令の手を握ったまま。
自然と令もそれを握り返す。
オレたちは心が通じ合ったのかもしれない。
こうして歩いていくんだ。
未来へ。
一歩、一歩と──。