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じゅういちっ

ショッピングモールを出て街をぶらり。

令の聞きたくもないノロケに苦笑いをしながら。


「ねぇ、喉乾いたね」

「ああ、どこかでなにか飲むか」


「あそこオシャレじゃない?」

「そうだな。あそこにするか」


オシャレなカフェ。ちょうど夕方で小腹も空いたってことで二人してそこに入った。

バーと変わる時間帯で、オレ達が入ったあとにゾロゾロと大人たちも入ってきた。

オレと令は向かい合わせの小さな席。


はたから見れば大人のデート!

……には見えないか。

令が男っぽく見える。オレは口を抑えて笑った。


「ちょっと。何がおかしいの?」

「いやぁ思い出し笑い」


「嘘だ。私見て笑ってたもんね。どーせ男に見えるとかそういうのでしょ?」

「しょーがねーだろうが。服装がそうなんだから。そうやって座るとキャップとアウターで完全な男の服装だよ」


「頭きた。脱ぐ」


令はアウターに手をかけて脱ごうとしたがすぐにやめた。


「やっぱ寒い」

「だろうな。オレも寒いから温かいもの頼もうっと」


二人で温かいもののオーダー。

周りはにぎやかになってきた。大人たちが酒を頼んではしゃぎだしている。

子供はオレと令だけかもしれない。

そんな雰囲気に令は楽しそうに微笑んだ。


「将来さ~。こんな風に楽しむんだね。大人は」

「ああそうだな」


「私達もそうなればいいね」

「そうだな。男と男の友情。いいもんだ」


「またそういうこという」

「ふふふ」


令の背中には衝立があり、その後ろには同じような向い合せの席があった。

そこに二人の男が腰を下ろす。

令からはそれが見えなかったが、一人の男がビールを二つ注文すると、令は慌ててスマホを取り出し、画面をタップし始めた。

するとオレのスマホにラインの着信音。それは令だった。


「この声先生だ。ちょっとぉ! 休日まで運命感じちゃうんですけど」


というメッセージ。オレの心臓がまた凍る。

注文した男の顔はオレからよく見える。

ガサツに通路に膝を突き出して座っている体育会系の男だ。


令は後からビックリさせようという気持ちなのか、自分の存在をもうひとりの男に気付かれないようになのか、目配せをしながら唇の前に人差し指を立てた。

静かにしようと。


オレはすまし顔をしながら黙って飲み物を飲む。

クソ教師がどんな男か見定めてやる。

オレの気のせいかもしれない。

本当に家庭は離婚の危機なのかもしれない。

本当に本当に令のことが大好きで一緒になりたいのかも。


いやぁそれはない。

だったら最初に離婚するだろ。子どももいるのに付き合って10日に抱くなんて絶対に考えなしのクソ野郎だ。

こいつの話なんて聞くに値しないけど、どんな話をするのか聞いてやろう。


クソ教師ともうひとりの男は友人らしく楽しそうに話を始めた。

その話題は令の話。オレの顔が一気に青ざめ嫌な汗が吹き出す。

令に聞かせたくないと思ったが遅かった。

走り出した彼らの話にブレーキをかけるなんて無理な話だったのだ。


下品な話だ。

下品な狩人。

舞い込んできた兎を食べてしまう話。

令の最初の興奮はどこへ行ってしまったのか。

下を向いて肩をふるわせている。

オレは頭に血が昇っていた。

目を血走らせて、クソ教師の汚い顔を見ていた。


「オレ初めての女抱いたことなかったから丁度良かった」

「くぉの犯罪者」


「まぁそう言うな。それほど楽しいもんじゃなかったよ。あっちは寝てるだけだし、体も成熟してねーし」

「前にも男っぽいとか言ってたな」


「そう。あんな俎板(まないた)初めて見た。今度写真撮って見せてやるよ」

「ユキオのが出てるのはいらんぜ~。で、どうすんだよ」


「いい思い出作ってやったら言い聞かせて別れるよ。未来がある少女をいつまでも縛ってられないでしょ」

「そりゃそうだ」


屑。思った通りのゴミ屑。

オレは立ち上がる。

そしてクソ教師へ向かって拳を握って向かっていた。


「レイをオモチャにしやがって!」

「タケル! ダメーッ!」


だが、そいつの友人に捕まって通路に倒される。

しこたま体を打ち付け、滑りながら別のテーブルの足に頭をぶつける。令はそれに叫び声をあげた。


「なんだコイツ突然。知り合いか?」

「いや全然知らねぇ」


その時立ち上がった令とクソ教師の視線が合う。

男のアウターとキャップ。最初クソ教師は目をそらしたが二度見。それが令だと気付いた。

クソ教師は焦った顔をして令から視線をそらせない。


「ほ、細井」

「先生、ヒドいですよ──」


令の震える声。

そして飛び出していく。

オレも痛い体を起こして彼女を追いかけた。

レジにお金を多めに置いて店を飛び出したんだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うっわー最低男ですね! 未来ある子ってわかってるなら食う前に断れや!と思いますなぁ……
[良い点] おもしろくなってきましたね! ドキドキです!
[一言] ううむ。やはりゲスだったか。 ある意味卒業後で良かったかも。 タケル。男の見せ所だ。 器をでかく持てっ!
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