いちっ
モーテルの一室。
一戦を終えて相手の腹の上。
まぁ、この人もいい女なのかな。顔は。
行きつけの美容師。年上の人。
名前は聞いたけど忘れた。スマホの登録にも“美容師のお姉さん”。
誘われるままドライブの末ここに。
よかったちゃあ、よかった。
中2で初体験してから女に不自由はない。
相手は家庭教師の大学生だった。
ジッとしてても、いつも向こうから声をかけられる。
そしてやることは一緒。
望めば叶う魔法のように、思う頃には次の女が声をかけてくる。
だがいつも思う。
「恋ってなんだろ──」
「──恋? プ。今してるじゃない」
これが恋なんだろうか?
ただの男と女の情事。
甘える年上の女は、頭に組んでる腕に絡み付いて勝手に肘枕を決める。
「来週の休みに海に行かない?」
「別にいっスよ」
「あそこのホテルの窓から見る海、最高なんだから」
「はぁ、またするんスか」
「嫌い?」
「嫌いではねース」
何やってんだろオレ。
今ひとつ生きてる実感がない。
彼女に送られて家。
キレイな顔とかカッコいいとか。たしかにそうだと思う。
だが学校に行っても、部活に行っても、家に帰ってゲームをしても。
学校の机に突っ伏して終始無気力に過ごす。
友人はからかい半分に声をかけてくるだけ。
「おーい。生きてるかタケル」
「どうなんだろ」
「昨日もデートか?」
「まーなー」
「くそ~。一人くらい紹介しろよ」
「お前、彼女いんじゃん」
「なんかお前といると一人で満足してていいのかなー? って思うよ」
いいだろ。いいに決まってる。
贅沢ものめ。
一人を愛して、一人に愛されるなんていいことだろ。
何人抱いたとか、誰かからトロフィーもらえんのか?
はぁ。どいつもこいつも。
人を馬鹿にしててもしょうがない。
自分自身の中に答えが見つからない。
「あのっ。先輩──」
その声を受けて気怠げに振り返る。
可愛らしい容姿の子。
「キミは?」
「あの。二年の鯉川です。鯉川 春」
「なに?」
「あの。あのぅ」
告白か。こんなに可愛いんだから、オレみたいなのに恋しなきゃいいのになぁ。
「──好き……です。先輩」
やっぱり。
真っ赤な顔して純情そうだな。
からかってやるか。
「週末、どこかに遊びに行きませんか?」
「どこかってどこ?」
「それは……先輩の好きなトコ……とか」
「好きなとこ? ホテルとか?」
「……え?」
嫌らしく笑ってやった。どーせ最後はそこだろ?
買い物とか、食事とか、映画とか、そんなの想像してんだろうな。幻滅してくれよ。そしてそういうの好きな、普通の高校生と付き合った方がいいと思うよ。
「先輩が好きなトコがそこなら……そこでいいです」
おいおい。いいのかよ。
ま正直、流されてそう答える人もたくさんいるよね。
そんな要求に真面目に受け入れてちゃ、将来悪い奴に捕まっちゃうよ。
「うそうそ。デートね。水族館とかにいく?」
「ホントですか!?」
「まーねー」
暇つぶし。なにか楽しいこと見つかればいいけど。
いつも大人の女性ばっかりだから、たまには年下の子と遊ぶのも新鮮なのかなぁ?
イチから教えてもいいんだし。
あ、海。
ま、いーか。どっちかにズラしてもらおう。
いずれにせよめんどいなあー……。
結局、後輩の鯉川とは土曜。美容師のお姉さんとは土曜の夜に会うことにした。
鯉川とは普通のデートをして高校生らしく日の高い内に別れて、美容師のお姉さんには夕食を奢って貰って夜の海に行くって感じで。
別にハードスケジュールでもない。
服だって一緒でいいし、人が代わることで気分転換になるだろ。
お姉さんの時には車とかベッドで寝てりゃあいいんだし。