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転生特典が邪魔で責務が全うできません  作者: 比良平
序章 終わる命と、新しい人生
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07 平等さ

 俺ことレイニーゴが、そうなる前、現実世界の人間だった頃。

 名前は・・・一般的な日本人名で、特に尖った印象は無かったと思う。時代に合った名前で、普通の読み間違えられることもないような名前だった。だが、今はもう意味もない物なので思い出す必要もないだろう。自分の名前であると言う以外、特に思い入れの無い名前だった。

 その反動なのかゲームのキャラクター名は、好きだった洋画の登場人物の名前を拝借し“David”を使うようになったんだ。

 特に見るべき点、サクセスもアバンチュールもラブロマンスも無い青春時代を過ごした俺は、無難にもしくはラインに流されるまま、型に嵌まって定職に就いていた。一流企業に入るだけの能を持たなかった俺は、どう盛り込んでも二流止まりのさして大きくない会社に就職した。

 生産部に配属され、日々会社製品を拵える。黙々と仕事に打ち込むだけで給料が貰えたので、特にコミュニケーション能力が高くなくても、働きやすい職場だった。

 出世は望めないが、生活には困らない環境だった。

 決して成功者にはなれないが、浮浪者になる心配はなかった。

 一つ問題があるとすれば、俺に物を作ると言うスキルが、決定的に不足していたことだろう。

 同僚は、課長次長と役職に就く頃には、自分はようやく平の一個上の主任。こんなにも才能の差が出るんだなと思いはしたが、そんなに悔しくは無かった。人が平等ではない事を嫌と言うほど知っているからだ。


 それこそ小学生のころから。


 顔が良いだけでモテまくってやりまくってた同級生を知っているし、巧いこと名家のお嬢様をコマした奴も知っている。金持ちに生まれ小学生の頃から金遣いの派手だった奴も居たし、天性の才能に恵まれプロ野球選手になった奴も居る。

 逆に病弱で週の半分は登校できない奴や、貧乏でお化け屋敷みたいな家に住んでる奴も居た。

 いじめられて自殺をしてしまった奴も居たし、クラスの人気者だったが交通事故であっさり死んでしまった奴も居た。


 持って生まれた物が違う。


 どんなに努力したって、越えられない奴は居る。

 スタート地点が違う。

 育った環境が違う。

 巡り合わせも違う。

 本人の意気込みも違う。

 なのに人は比べ優劣を付けたがり、既に決定的な差がついているのにもかかわらず『人間は平等だ』と、欺瞞の言葉を吐く。お前が俺の下に居るのは努力が足らないからだと、嘲る。

 そして持っている奴は言うのだ『チャンスは平等だよ』と、上から目線でしたり顔で『努力は裏切らないよ』と、確かに努力の果てにチャンスを掴んで成功した奴はいるだろうさ。

 連中は知らない、恵まれているからこそ成功している事を。恵まれているから平等などと言う幻想を信じられる、いや、恵まれていると言う優越感を隠すために、平等なのだと嘯いている。それは事故で足を失った奴に『努力してチャンスを掴めば、いつか自分の足で走れるよ』と言っているようなものだ。


 惨酷に他人と比べ、自分の優位性にほくそ笑むのだ。


 その上で最も性質が悪いのは、自分がそう努力して巧く行ってしまったからこそ、成功している現実から、自身のみの成功例をその裏付けにして、絶対の真理であると盲信している所だ。スタート地点の差を無視して。

 『足が無いから無理だよ』と言う言葉は彼らにしてみれば、甘えでしかない。足を失った経験など無いくせに、そう決めつける。いや確信している。


 ほとほと虫唾が走る。


 だから俺は、比べない事にした。いや、羨んだり妬んだりしない事にした。そうでなければ連中と同じになってしまうからだ。

 それは諦めだと言う奴も居るだろう。

 だが、俺はそう思っていない。自分の身の丈を知って、その分を超えない生活に務めた。傲慢な人間にはなりたくなかったんだ。

 能力の低さを補うため、準備時間を増やし、整理時間を増やす。それはつまり残業時間の延長に繋がる。他の連中が飲み会をやっている時間は仕事に費やし、休日は連日の残業が祟り、外出する気力もなく休養にあてるしかなかった。そんな生活ならば、女性と巡り会う機会もなく、彼女が一度も出来ないまま魔法使いになった。


 そしてその頃には『テン・タレント~10の才覚が彩る幻想生活~』と言う没入型RPGに手を出していた。

 安定のファンタジー世界のゲームだ。キャラクターデザインが、当時の日本アニメの流行よりもバタ臭い・・・もしくは古臭い感じが好印象だったのを覚えている。

 このゲームはタイトルが示す通り、10の才覚がキャラクターを強化できると言うのを売りにしていた。

 まず種族、外見体型、レベル、ジョブ、スキル、武器防具、加護、バフアイテム、ロールアクションの9つがその代表で、最期の一個は実は公表されていなかった。プレイヤースキルだとか、熟練度と言う隠しパラメーターがあるとか、身も蓋もなく課金だとか流言飛語はカオスだった。

 ゲームは良かった。

 ある意味ではスタート地点は平等だからだ。

 皆ゼロからスタートして――ある程度バランスは崩れてはいたが――種族を選び、外見や体型を調整し、レベルを上げる。

 鍛え上げればそれだけキャラクターは強くなる。努力がステータスに反映される。それこそ杓子定規に、分かり易く可視化されている。

 成りたい自分へと、自分で成長させられる。

 それがとても心地よかった。

 仕事が辛くても、生きるのがしんどくても『また明日も頑張ろう』と思える程度には、癒し効果となっていた。

 そして俺は、どっぷりとテン・タレントに嵌まり込み、暇さえあれば遊ぶようになっていた。


――それこそ死の間際まで。


 転機が訪れたのは何時だったか・・・、魔法使いを経て賢者になり何年も過ぎた頃か、ここしばらく体調を崩し、仕事中に倒れてしまったんだ。

 目を覚ませば病室に寝かされており「もう若くない事を自覚しなければ」と自責したものだ。

 日々の生活は仕事に打ち込むことで生きている事を実感したかったのかもしれない、そうして無理をして無茶をして、疲れ切った身体と疲弊した精神をゲームで癒し紛らわせ、現実での孤独を紛らわせるためにまた仕事に打ち込むと言う、社畜ッぷりを発揮していたツケだ。

 担当医は非常に言い難そうに、聞いているこっちがイライラするほど、長い前置きをした。

 本来ならば、親や配偶者、場合によっては子供などの肉親にこっそりと伝えるべき話なのだが、生憎俺にはそう言う存在は居ない。


「非常に申し上げ難いことですが・・・。診断の結果、重度の・・・末期の癌です。既に全身に転移をしており、現代医学でも手の施しようがありません」


 突然の事だが不審がることもなく、逆に「なるほど」と合点がいったくらいだった。

 最近の体調不良、疲労から来るものだとばかり思っていたが、末期癌と言われた方がしっくりくる。

 全身に感じる痛み、食欲不振に消化器系の不調、精力の減退、不意の眩暈や異様な眠気など、自覚症状は有ったのだが、つい「仕事の疲れが出ている」という魔法の言葉で、直視しなかった結末だった。

 務めていた会社には、体調不良は甘えという風潮があった。

 確かに社会人なのだ、体調管理も仕事の内。それがきちんとできて一人前なのだ。それが出来ない・・・つまり日頃お世話になっているスーパーやコンビニが風邪で勝手に休まれたら、それで生活を支えているお客様側の生活に支障が出るのは理解できるだろう。

 お客様に不利益を出させないのが、一流の社会人。

 お客様に甘く、同僚に厳しく、自分にはもっと厳しく。

 そう洗脳きょういくされて来た。

 風邪を引くならば、事前に計画を立て申請し許可が出てから病床に伏す事という、社内モラル。

 担当医の話では、余命は三ヶ月・・・もって半年。

 それも、このまま普通に生活していればの話。


 だが、そうはならない。


 今でも気を失う程、癌に蝕まれているのだ。普通の生活などできはしない。激痛に苛まれながらの生活など不可能だからだ。余命と言うのも、今回倒れずに病院で発見されなかった場合の話だ。


 普通の生活など、最早できる筈もないのだ。


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