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転生特典が邪魔で責務が全うできません  作者: 比良平
第二章 街での共同生活
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02 武器選び

 狩りをするので武器の調達が必須になる。

 当然ながらストレージ内の装備は“世界に一つしか存在できない神話級の装備”すら重複しているありさまだ。使えるわけがない。

 生産系職業のレベル上げに、習作レベルの装備も大量に作成してはいたが、下手に取り出して“三本目の腕”が使えることがバレると面倒が増えそうで嫌だ。なので素直に街で購入することにした。


 狩りでメインで使う【職業】は弓士。

 ゲームであったテン・タレント時代も最初に選択した戦闘系の【職業】だ。

 選択理由としては、やはり俺の異常なステータスではまともな行動がとりにくい。剣で切ろうが、拳で殴ろうが、異常なステータスの影響をモロに受けるので、破壊力の常識が一緒に粉みじんになる。弓はその武器自体の性能を超える破壊力を生み出すことはできないため、弓が壊れないようにさえ扱えば、比較的常識の範疇内に結果が収まるはずだ。


 ゲーム時代では武器の性能に“必要筋力”などと言った縛りが存在していた。

 必要筋力100とあれば、筋力が100以上ないと装備できないという奴だ。通常の武器ならば、必要筋力に関係なく筋力が高ければ威力が増し、モンスターに与えるダメージも大きくなる。

 だが弓などの射撃系の武器には、最大対応筋力と言うものが想定されており、仮にこの数値が400であった場合、筋力が400を超えるとダメージの上昇がなくなってしまう仕様になっていた。

 そのためにステータスがインフレしだす後半、100レベルまで上昇させた【職業】を複数所持するようになると、弓の攻撃力は見劣りするようになってしまい、高レベルプレイヤーはあまり弓士を使用しなくなっていった。まあ、それでも遠距離攻撃ができるというメリットが高かったので、パーティーに一人はサブウェポンとして持っていたようだが。

 同系列の【職業】で扱える武器にいしゆみや銃が存在していたが、弩は高価だったので後回しに、銃に至っては武器そのものの存在がこの街にはなかった。いわゆる火縄銃のような前装式の単発銃すら見かけなかった。この分では存在していても、軍隊などでしか運用できないような規制がかかっているだろう。

 ちなみにいしゆみや銃にも必要筋力は存在したが、攻撃力は基本的に固定されており能力値上昇に伴う威力の増大は無かった。

 この二つの武器種は低い筋力でも高威力が叩き出せるとチート疑惑がもたれたが、最後に伸び悩むという欠点がある。

 だから射撃系の武器では、低レベル時はいしゆみで戦い、ステータスが高くなってくると弓に持ち替えるというのが、楽に序盤から高火力を叩き出す常套手段だった。もっともいしゆみを運用するには別の【職業】弩士の取得する必要があったり、最初からコストパフォーマンスの劣悪ないしゆみを使うことになるので、潤沢な財力が必須になったりしていたが。

 

 今となってはそれらの情報が特に懐かしさを覚える。

 

 そういうわけで弓矢を売っている店をギルドで教えてもらい赴く。

 街に弓矢を製造する工房があり、その製造品を卸している武器屋なのだとか。基本的な客層は、街に専属で暮らしている狩人に、傭兵団と騎士団に衛兵隊あたりだそうだ。

 食費を浮かせるために狩猟をする駆け出し冒険者は割といるそうだが、弓矢をわざわざ買う者は少ない。弓はともかく、矢は消耗品でありコストが嵩む。まして矢を射るたびに何本も無くしてしまったり壊してしまったりするので、食費を節約のつもりが返って浪費を招く結果になるのだとか。


 ゲームは基本的に消費するだけの矢であったが、現実世界は回収できるだけありがたいと思ってしまうけどな・・・。

 

 だからか駆け出しがどうしても飛び道具を欲した場合は森で適当な木の枝を見繕って、お手製の粗雑な弓矢から始めるのが一般的で、当然精度の悪い弓矢だから当たりにくかったり威力が弱かったりで、弓矢を使うことを諦めてしまう者が多いのだとか。

 狩人なども最初は自身で弓矢を調達したりするそうなのだが、やはり専用の工房、弓矢を製造するのに適した道具を保有しているのは大きく安定した品質の物を作れるため、ある程度稼げるようになると自作しなくなるのだそうだ。特に拘りが強い狩人は、工房を間借りするそうだが。


 その店は傭兵団の詰所の近くにあり、傭兵団で取り扱っている弓矢の補充や修繕も執り行っている。


「ごめん下さい」

「あらいらっしゃい・・・ん? 見ない顔ねぇ」

「初めまして。冒険者ギルドから紹介されて、こちらに伺いました。新人の冒険者のレイニーゴと申します」

「・・・?? これはご丁寧なあいさつを」


 武器屋の店員と思しき・・・筋骨隆々の逞しさをもつ店番の男性が、何か楽しみでも見つけたように途中から笑みを深めた。

 青黒い髪がブラシの様に逆立っており、全身から滲み出るマッスル感が拒否感を生む。化粧も試みているようだが・・・べったりと塗っているだけでケバイし似合っていない。

 まあ、それでもただの店員の服装にフリルが付いているくらいで、猥褻物を陳列しているわけではないので個人の趣味の範囲でなら好きにやってくれたって構わないと思う。だからと言って友人になりたいかと言えば、深い関係性は築きたくない人種だ。


「弓が欲しいのでいくつか見せていただきたいのですが?」

「あらあら、可愛い顔してけっこう凛々しいのね」


 あ・・・この人ダメだわ。人の話聞いていない。

 と言うか店員の、フリルの付いた服を着た男性・・・オネエの視線がナメクジでも這わすようにねっとりと絡みついてきて、怖気がするんですが。

 まあ、それでも、理不尽な暴力とか、意味不明の殺意とかそういうモノを向けられたわけではないので、ビビるほどではない。

 腰は若干・・・微妙に僅かだけ引けてるが・・・な。


「弓を見せていただきたいのですが?」

「力を見せて欲しいわ。弓に合わない力じゃ・・・あなたが怪我しちゃうもの」


 これで話を聞き入れてもらえなければ諦めて店を出ようと思った矢先、男性は肘をどんとカウンターにつけ、腕相撲の姿勢を取った。

 なるほど、腕の筋力・・・膂力だっけか? を見て筋肉に合う弓を選定してくれるのか。

 確か室町時代とかの武士って、己の鍛えた力を誇示するために大弓を引いたって話があった気がする。それと通ずるものがあるのだろうか?


□-□-□-□-□-□-□-□-□-□

【名前】エーベ

【種族】ヒューム

【性別】男

【年齢】35才

【善性】23

【健康】通常

【位階】48レベル

【称号】オネエ、純心の天使、永遠の処女

【職業】格闘家48レベル

    投擲手30レベル

服飾職人29レベル

市民10レベル

【装備】

 フリルの女性店員服(XXXL)

□-□-□-□-□-□-□-□-□-□


 ふと反射的に“彼”のステータスを見てしまったが・・・強いな。今まで見たことのある人のステータスと比べると、異次元の強さだ。

 それに反して何と言うか、その【称号】って誰がどんな基準で決めるんだ?

 これ悪意しか感じないんだが。


 俺は意を決し、武器屋の店員エーベ氏の掌を握る。

 大きく厚く熱い手だと思ったが、それでも縋り付くにはもろそうだと感じた。

 しかし上手く手加減できるか?


「じゃあ行くわよ?」

「お願いします」

「はいっ!」


 その掛け声でエーベは力を込めてきた、押され倒れそうになるのを堪え少し盛り返すと、エーベがさらに力をかけ俺を負かそうとしてくる。

 筋肉が膨れ上がり、俺の腕を少し押し、俺が盛り返すと、太い血管が力強く浮き出る。


「あら体格の割には強いじゃない! 気に入ったわ、今夜はあたしが可愛がってあげる!」

「いえ、一応婚約者的な彼女ができたので辞退いたします」


 断る理由ができたことにはキュユに感謝したい。

 エーベの肌が紅潮し、玉のような汗が噴き出す。


「あらあら遠慮しなくってもいいのよ? あたし強い男が好きだもの! あなたみたいな奇麗な顔の男の子なんか特に好みだわ!」

「いえいえ、あなた個人の性癖にとやかくは言いませんが、俺を巻き込まない範囲で、且つ相手の方と合意の上で愛し合ってください。必ず俺の見えない場所で」


 不味い。別の方向でヒートアップしちゃってる。ここいらで負けた方が良いのかもしれんが、それで連れ込まれるのは嫌だしな・・・。


「・・・くっ! す、涼しい顔で! 澄ましちゃって! ああっ! ますます好み! 絶対よがらせてあげるわ! 泣いて喜ぶほどにね!」


 そういってこのエーベ氏はやりやがった。

 強く握りしめているはずの掌の力を弱めずに、器用に親指だけ浮かせて、俺の手の甲を撫でたのだ。


「・・・っ!!!!」


 ぞわりと、何か大切な物を掠め取られたような気がした直後、うん、俺の体は素直に拒絶の意味で反応していた。

 轟音とともに目の前からエーベ氏が消え、武器屋の壁をぶち破って、彼の言う連れ込むため部屋まで投げ飛ばしていた。


「・・・あ・・・やっちまった・・・」


 おい、これでキュユの時みたいに婚約成立とか言わんだろうな。


2020/01/27 誤字脱字修正

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