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転生特典が邪魔で責務が全うできません  作者: 比良平
第一章 適合生活
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09 金貨の出処

 野盗に身の安全を買うために支払ったなどと、言ってから血の気が引いた。

 そういう悪党に資金提供したと解釈されたら不味いと、吐いた言葉の危うさを後になって気付いたからだ。


「あ・・・いや。その・・・」

「構いません。野盗に襲われて資産を拠出して事なきを得たということですね。その件に関しては無事で何よりです。お陰でこれで確証が取れました」


 野盗に恐喝されたということで、理解を得られたのか?

 それにしてもこの憲兵さん、さっきから敬語なんですが、なんでだ?

 

「それで、野盗はどうされました?」


 と聞かれれば、答えないわけにもいかない。

 ざっと、野盗とのやり取りをかいつまんで話す。最初はビビってたんで野盗に金を払ったのだが、少女が襲われて切れてしまい、思わず反撃してしまった。そうしたら思いのほか自分が強く、野盗を退治することに成功してしまったという流れだ。

 あの時金貨を更に野盗に差し出すつもりだったとかは、下手に大金を持って居ることを知られたくなかったので伏せておいたが。


「これで言い分に矛盾はないな?」

「はい。ですが枚数が合いませんが?」

「6枚出されて5枚回収なら問題ないだろう。気になるなら君が探せばいい、運が良ければ臨時収入だ」


 憲兵と衛兵は、なにやら本題の方の解決について目鼻がついたという感じで、話を進めていく。


――俺が呼ばれたのは、何か問題が起きて俺の意見が欲しかったってことか? するとその憲兵が持ってるプルピール金貨は、俺が両替商に出したやつじゃないのか?


「すみません。俺が呼ばれた意味って結局なんだったんですか?」

「ああ、このプルピール金貨を5枚も所持していた奴がいて、その入手経路の裏付けのようなものです」


 言いながら、憲兵は持っていた金貨を箱にしまい、中を見せてくれる。そこには金貨が5枚鎮座していた。


「一応確認ですが、この金貨の所有権を主張されますか?」

「やりませんよ、そんなみっともないこと」

「分かりました。ではこれは正式に“彼女”の物という事になります。この詰所を出た後、金貨の所有権についてもめた場合、条例に基づいて貴方が罰せられることもあるのでご留意下さい」

「分かりました。・・・もしよければ、この騒動の詳細をお聞きしてもよろしいですか?」

「はい。問題のないと思われる範囲での話になりますが・・・」


 話によれば、本日この街にある少女が訪れたのだが、入街税の支払い時にうっかり金貨5枚所持していたことが発覚してしまったそうだ。

 それだけなら、こんなことにはならなかったのだが、その少女が近隣の村の出身者で問題児として有名だったことで、家が貧乏なことも周知されており、とても金貨5枚も貯えがあるような家庭環境ではないことも知られていた。

 そして持っていた金貨が一般に流通しているジルード金貨ではなく、プルピール金貨という事で、以前この街にプルピール金貨で入街税を払って入った旅人がいるという噂話に結び付いた。


――個人情報の機密ガバガバだな。


 そうして浮上したのが、要するに俺からその少女が、プルピール金貨を盗んだという可能性が高いとなり、証人として呼び出されたという事らしい。

 俺が盗まれたと主張すれば、少女は牢屋行きだった可能性があるのだとか。


――おいおい、うっかり一人の人生潰しかけてたのか・・・。


 少女は、野盗の貯えをかっぱらってきたと主張していたので、俺の話を聞いて整合性があるかを確認したかったらしい。

 野盗などの反社会勢力は、人命を奪っても罪にならないどころか害獣ならぬ害人討伐扱いで感謝されるのだとか、そして害人の所有物は全て討伐者が報酬として受け取っていいという事になっているそうだ。


「あ!」


 憲兵から解放され、軽く伸びをしていると、背後で驚きの声が上がった。

 振り向けば、忘れもしない野盗とのやり取りで遭遇した少女・・・なんだっけ?

 ああ、キュユという名の少女がいた。

 肩にかかるほどの髪に、凛々しさを加味した瞳。町娘にしては驚くほど整った顔立ちには、田舎者特有の泥臭さはないように感じる。

 あの時は、自分も気が動転していたせいか、記憶が朧気なのだが、こうして改めて見る機会にそのままいつまでも見ていたくなるような可憐さが眩しい。

 今日の服装は町娘というよりは、完全に“剣士志望の駆け出し冒険者”といった風体だった。腰に剣を帯び、動きやすそうな厚手の服に、部分部分に追加された革鎧まで装備して、野営用だろうか大きなズタ袋を担いでいた。

 その少女の目が一瞬、金に目が眩んだように見えたのは気のせいだと思いたい。


「はい。これ、あんたに返すわ」


 そう言って小袋――恐らく財布だろう――を差し出してきた。


「それは君が苦労して回収した金だろう」


 思い返せば、俺が切れて野盗をぶちのめしたとき、キュユは俺にさっさと帰れと立ち退きを強要したのは、俺が野盗に差し出した金貨を回収するためだったと考えれば、こちらも納得できるんだよな。


「しょうがないじゃない。そういう言い訳しちゃったんだから。金に目が眩んで嘘ついたとか言われたら、冒険者稼業もやっていけなくなっちゃう」


 うん、信用第一の稼業で嘘はいけないよな。


「金貨5枚を持ち込もうとしたときに、元の持ち主に返すためって言っちゃったのよ」

「隠しておけばよかったのに」

「しょうがないでしょ? 小袋から零れちゃったんだから!」


 うん。この少女も結構馬鹿だ。良かった間抜けは俺だけじゃなさそうだ。


「くそ! あの衛兵どもめ! 村が貧乏だって知ってるからそんな大金持ってるのはおかしい! って決めつけてくれちゃってさ! まあね、事実だけどさ! どこからか盗んだんじゃないのかって、最初から疑ってきてさ。父さんのヘソクリとかの可能性だってあるはずなのに!」

「野盗を倒して巻き上げたって言えばいいのに」

「・・・ばかね。私が野盗に勝てなかったのはあんたが一番知ってるでしょ? そんなこと言えば掘った墓穴が深くなるだけよ」


 そうだな、本当に倒せるかどうか、衛兵が実力を測るために手合わせすればバレてしまう可能性もあるんだしな。盗んだと疑われているなら、手合わせと称して気絶させて拘束するというのも、作戦としてはありだと思うし。

 そうならなくても信用状況が重要な冒険者だ、虚偽報告を真に受けられてギルドから、野盗が出るから一人で倒してこいとか話を振られたら詰む。実力を過大に申告してることがバレて仕事を干されるだけならまだましか、突貫をするしかない状況に追い込まれ野盗に返り討ちにあい慰み者になるか殺されるか、後はすべてを捨てて逃げ出す。これぐらいしか選択肢がなくなるんだよな。どれも金と命を失う結果に繋がる。

 そんな目に合うくらいなら金を得られない代わりに、命と信用を守った方が良いと考えた訳か。

 そういう事ならここで受け取った方が、無難に事が進むだろうか。


「それで、お礼として、ご飯ぐらい良いもの食べさせてもらっても良いよね?」

「・・・分かった。好きなものを奢らせてもらおう」

「へへっやった!」


 そう言って喜ぶ少女キュユは年相応の無邪気さを表情に浮かべ、なんとも愛らしかった。


――親戚に姪っ子でもいればこんな感じなのかな? まあ、悪い感じはしない。


 日本で終身ボッチだったのだ、もともと妹なんて存在しなかったし母親の顔すら記憶が霞んでいる。恋人とか妻とか、そういう感覚は分からないし、当然娘なんて空想上にすら存在しえなかった。

 一番近い感覚でいえば姪っ子くらいが順当ってだけの話だ。




 ・・・という話の流れなんだが。


「これは少しボリ過ぎじゃないか?」

「こっちの言い分もあるんだがな? ボウズ」


 宿屋の主人は、俺のボヤキに反応して頭をかく。

 ここは今俺が定宿としている2番目に選んだの宿ではなく、最初に宿泊したちょっとお高い・・・サービスの良い宿だ。冒険者について教えてくれた宿の主人に2人部屋を一晩貸して欲しいと交渉しただけなのだが。


「金銭的にうちより安い宿を紹介してくれってのは分かる。払いもできない客を泊めてやる気も意味もないからな、安宿に客を流して破綻させないってのは、めぐって俺の利益にもなる。そして、その男がひょっこり戻ってくるというのも、間々ある。仕事が上手くいって稼ぎが増え、宿の質を上げようとする冒険者も確かにいる。だがな・・・うちは連れ込み宿じゃねーんだぞ?」

「それは聞いたし理解している、そういう目的で使うつもりもないと申告しているのだが? それよりも1泊銀貨1枚は高過ぎだ! 前は銀貨1枚で4泊はできたじゃないか。2人分ならせめて銀貨1枚で2泊が相場だろう!」


 確か銀貨1枚と銅貨30枚くらいが同じ価値になる。

 銅貨15枚程度なら、こちらとしても妥当な金額と思えるのだが。


「だから言ってるだろ? 特別料金だ。連れ込み宿なら銅貨10枚も出せば泊まれるんだ、銀貨1枚がいやならそっちに行け。だいたい寝具の洗濯の手間が増えるし、周りの客が同じ使い方をして憲兵に話が漏れれば、うちは営業免許を取り消されかねないんだ。分かれよ」


 宿の主人の言い分は、割と切実だった。

 ああ、ちなみに小声で会話はしています。



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