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転生特典が邪魔で責務が全うできません  作者: 比良平
序章 終わる命と、新しい人生
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02 David025

「ふぅ・・・どうにかなったな・・・」


 拠点としている街の門をくぐったことで、思わず安堵の溜息を零してしまった。

 【軽戦士】の100レベルクエストMOBである“剣の師”との戦闘に、思いの外手古摺り集中力を大きく削り取られてしまったせいだ。

 本来なら、と言うか、俺のステータス的にはもっと楽に手早く倒せるはずだった。

 どうにも俺当人の性質的に【軽戦士】という戦闘スタイルが合わないようだ。そもそも敵と正面切って戦うのが怖いから【弓士】を最初に選択したような人間が、薄い防具で盾を捨てて剣で切り結ぶと言うのは、些か正反対な気がする。


「まぁある程度は分かってたことだけどさ・・・まさかここまで時間がかかるとは・・・ほんと向いてないな戦士職」


 【戦士】は鎧も盾もある程度の物が装備できる・・・正確には筋力(STR)が許せば魔法使いだって超重量のスーツメイルとかも着れるんだが、その職に見合った装備でないとスキルの使用やアビリティが発動しなくなる。

 そもそもテン・タレントには、鎧の区分が5段階あるんだ。

 それは、町装、旅装、軽装、戦装、重装とされていて、鎧の性能に関係なく、職業・・・正確にはスキルやアビリティの発動に条件付けられている。

 それぞれを簡単に説明すると、町装は街で着る服程度で普段着だ。芸能系スキルや生産系スキルは町装が適合する。

 旅装は戦闘系職の最軽量装備となり、魔法系スキルや盗賊系スキルが適合する。

 軽装はちょっとした皮鎧などで、【弓士】【軽戦士】【打闘家】などが適合する。

 戦装は部分金属鎧程度で【戦士】など。重装は全身金属鎧などで【重戦士】などが適合すると言った感じだ。

 【弓士】は町装から軽装までが装備可能で、スキルも問題なく使えるが、【魔法使い】は旅装までにしておかないと、魔法が発動できない。【戦士】は戦装が最も適合し、【軽戦士】は軽装が適合する。他には【重戦士】の一部スキルの発増条件に“重装鎧を着ている事”とされているものもあるのだ。

 つまり俺の基本と言うか根幹は【弓士】であり、他の補助的に習得した職業も適合鎧が軽装と軽めに纏めてあったため、その状態でもスキルが運用できる【軽戦士】を習得したが、これが合わなかったと言うことだ。恐らくは主に距離感が。

 【戦士】の100レベルクエストの時の方が、今よりもステータスは低かったが、戦装クラスの防御力の高い鎧と、盾に因る防御が出来たことが、MOBと近すぎる距離での戦闘に恐怖感を抱かずに済んだ。


「そう言えば【打闘家】100レベルクエストの時は、めちゃめちゃ苦労したな・・・。今よりももっとステータス低かったし、結局50回くらいクエスト失敗して、意地だけで取ったっけ・・・」


 クエストMOBの動きを攻略サイトや、動画投稿者の立ち回りを勉強して、何度も挑戦して体で覚えて、パズルゲーム状態に持ち込んで勝を攫って行ったんだ。

 そう言う意味では、苦戦こそすれ【軽戦士】は一回目でクリアできているのだから、ある程度の上達はしているのだろう。


「しかし、そうなると【侍】を取るかどうか、悩むな・・・」


 基本職である【戦士】、その派生職である【軽戦士】、さらに二次派生職に相当する【侍】があった。【侍】は攻撃特化と呼べる【軽戦士】を、更に極ませる職になり、性質的に取得難易度は高くなると予想される。

 だが日本人として【侍】職は取りたい。


「まあ、追々考えるか・・・ははっ、追々ねぇ・・・」


 独り言を零しながら歩いていると、プレイヤー達の住宅地に差し掛かる。

 ここは、ゲーム内で一定の財を成した者達が購入することで、マイホームとして利用可能になるエリアだ。現実世界と同じく土地の問題を抱えていた為に、ゲーム的な解釈でそれを解消している。

 ゲーム的にはプレイヤーは平等であるため、誰もが買える家を用意しなければならないが、居住区にプレイヤー数と同じだけの家並べる事は不可能だ。そんな事をすればプレイヤーは居住区で迷子になり、町の内外の行き来だけで膨大な時間を浪費してしまう。下手をすれば世界マップよりも居住区の方が広くなってしまいかねない。

 例えばプレイヤー数が100万人いたそして、それに対応するため同じデザインの家が100万戸並べられた様は、確実に目が混乱する。ゲシュタルト崩壊と言う奴だ。

 メタ的にもサーバー側の処理が重くなってしまうため、避けるべきだったのだろう。

 そこで考え出されたのが、住宅街マップの入り口は他プレイヤーと共有だが、一歩踏み込めば完全な個人専用マップになると言う仕様だ。

 個人マップ内は、プレイヤーが購入できる家々が大小合わせて数件ある小規模の住宅街と言った様相で、戸建てや集合住宅など好きな場所を購入(使用)できるようにしてあった。

 そんな仕様だから、出入り口で知り合いとばったりなんてことも、良く起こる。 


「あれ? David025さん、まだやってるんですか?」


 と他プレイヤーから行き成り声を掛けられた。

 声の方を向けば、複数のプレイヤーキャラに紛れて、見知ったキャラがいた。

 因みにDavid025が俺のキャラクター名だ。特に深い意味は無く、何となく着けた英名にナンバリングしただけだ。


「今朝ログインした時も居ましたよね? その、大丈夫なんですか? 色々と?」


 呆れを含む心配した声。

 まあ分からなくもない、俺だって知り合いが四六時中ネトゲやっていたら同じ気持ちになる。


「大丈夫ですよ、大幼妻だいようさいさん」

「“大幼妻ひまわり”っすよデビットオニゴさん」

「長いんだよ。それに俺の名前、そう言う風に読むの止めて貰えるか?」

「ゼロニーゴーの方が呼びにくいじゃ無いですか」


 彼“大幼妻ひまわり”は過去に何度かパーティーを組んだことがあるプレイヤーで、まあゲーム内では友人と呼んで差し支えない相手だろう。古参で重度の中毒者でもあり、今朝も出社前の僅かな時間すらログインしてプレイしていた。

 因みに聞こえている声は、本来の肉声とは程遠い・・・筈だ。

 サンプリングされた俳優や声優、果てはアイドル歌手なんかの声を元に再構成され、音声として聞こえるように処理されている。その為少しだけ発音やイントネーションに機械っぽさが残っている。


「こちとらもう引退した身だからな・・・他に趣味もないし、独り身だしな」

「オレが言うのもあれですけど、少しは他に趣味持った方が良いですよ? 主に健康的な意味で?」


 社畜だった時代を終え、退社した俺は悠々自適・・・ではないが、本当に得にやることもないので入り浸っているのだが、まあ彼は純粋に心配してくれているのだろう。一般常識に照らし合わせれば、俺のログイン時間はおかしいからな。


「それともあれですか? トップランカーにでもなるつもりですか?」

「よしてくれ。あんな100レベル越えの頭おかしい奴等と張り合えるか」

「ははは違いない・・・で、今何レベです?」

「さっき【軽戦士】が上がったんで、56レベ」

「何言ってんですか、十分廃人の域ですよ! オレなんか23レベですよ?」

「それは生産職取ってないからだろ?」


 などと世間話をしていれば、機嫌の悪そうな声を拾った。


 ・・・56レベルなんて雑魚じゃん。


 何だって? いや、まあ確かにトップランカーからすれば雑魚扱いされてもしょうがないんだけどね。あいつらステータスだけでも俺の倍以上あるから。

 大幼妻ひまわりの取り巻き、と言うかパーティーメンバーだろう。一人不機嫌そうにこちらを睨みつけていた。


「・・・彼は?」

「あ、すみません。最近始めた会社の後輩でして・・・今【盗賊】79レベルで、80レベクエストがクリアできないから手伝いに参加したんですよ。彼・・・オレらの言う所の0レベルなんで」

「じゃあ知らないのか・・・それはしょうがないな」

「そうですねいい機会なんでちゃんと教えておきます」


 テン・タレントは様々な能力がレベルで、ステータスに表示されている。

 スキルもレベル制だし、武器防具の強化度合いもレベル制だ。

 そしてキャラクターの強さもレベルである。

 【軽戦士】や【盗賊】とされる職業レベル、最大で100レベルになる。

 他には冒険者レベルと呼ばれる物がある。これは最大職業レベルと等しく最大値は100レベルで、主にクエストのレベル制限に関連している。

 そしてキャラクターレベル。これは取得した職業レベルの合計であり上限は無い。俺ことDavid025は六千レベルを超えていたが、強さとして見る分には些か雑味が強い。数レベルだけ取って鍛えるのを止めてしまった、もう育てる気の無い職業レベルも加算されているため、思いの外数値が大きくなってしまうからだ。

 一つの職業を100レベルに上げた奴と、10種類の職を10レベルまで上げた奴は、同じキャラクターレベル100と表記されるので、強さの指標と言うよりはコレクションを示すものだと考えた方が良いのだ。

 そして大幼妻ひまわりさんと話をしていたレベルは・・・100レベルに到達した職業の数だ。これはステータスには表示されていない、隠語的なレベルの方便だった。

 つまり俺は56種類もの職業を100レベルにしたと言うことで、トップランカーの100レベル越えと言うのは、100種類以上の職業を100レベルまで上げた廃人もさと言う意味になる。

 このレベルは、強さを表す指標として比較的正確な数字を出していた。


 少しだけ新参者の言動に腹も立ったが、それをどうする気もない。

 どうせ彼とは、深く係わることはない・・・いや、深く係わる関係に成ってから問えばいいかと感情を洗い流す。


 そしてやはり、俺の人生の中で、彼とはもう二度と係わることは無かった。


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