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転生特典が邪魔で責務が全うできません  作者: 比良平
第一章 適合生活
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01 確認作業

 あれから・・・転生初日から、野盗に絡まれてから十日が過ぎようとしていた。

 その間の衣食住は、衣は戦闘用も含めストレージ内に売るほどある。食もラーメンから各種フルーツ、ハンバーガーやチョコレートなどの菓子類まで腐るほどある。住は暖を取る布切れにテントも持っていたので、適当な場所で野営していた。

 直ぐにでも人里を探したかったが、その前に自分の能力の異常性の認識をしっかりすることと、その上で力を制御する特訓をすることが必要だと思ったのだ。

 そして何より、本当にここが日本ではない、死んで転生などしておらずテン・タレントをやっているだけと言う願望を捨て、認識を改変する努力が必要だった。


「キャンプなんて小学校の林間学校以来だな・・・」


 因みにテントは、張る時に力加減を誤って一個ぶっ壊したのは内緒だ。

 そして一番焦った出来事が、ストレージから取りだした塩ラーメン・・・アツアツの出来立てがラーメン丼に入った状態で出てきたのだが、箸がついていなかったのだ。大慌てで、俺の【木工職人】のスキルが火を噴き、こちらも死蔵されていた木材から箸を作り出しはしたが、ゲーム時代のように、ポンポンと操作するだけで結果が出る訳は無く、箸が出来上がるころには冷え切って伸び切った塩ラーメンも出来上がっていた。

 そして食べ終わった後は、やはりこれが現実であることを空になったラーメン丼が無言で突き付けてくる。ゲームのように使い終わったからと、完全に消えてなくなったりはしないようだ。

 お陰で丼屋が出来そうなほど、空いた丼が溜まってしまった。


 自分の力を色々試しながら、何が出来るかと、何をしたらヤバイかを逐一確認していく。この辺りの考え方や行動は、社会人として新人の頃に散々叩き込まれたことだ。自分にできる事とできない事を正確に把握しておく事が、ミスをせずに円滑に仕事を進めるコツになると。

 そして何かできない事、予想に反した結果が出た場合に、なぜそのようになったかを考察する必要性がある。例えば、やって置けと与えられた仕事が有ったとして、それが期限までに完遂できなかったからと言って「できない物はしょうがないじゃないか」と居直るようでは、社会人失格なのだ。何故できなかったか、つまり何かの要素が足りていないのかを知る必要がある。

 それが時間が足りないのであれば、それを補う行動をするべきなのだ。

 残業――その仕事に従事する時間――を増やしたり、人手を増やしたり、期限を延ばして貰ったりと、打つ手は複数ある。能力の問題であれば、できる人に指導を依頼するとか、自己鍛錬をするとかになる。


 お陰で、ひっそりと目立たないように生活するだけなら、何とか可能なレベルにまでの力加減を身に着けられた・・・と思う。


「さて、これからどうするベーだ」


 テントにごろりと寝転ぶ。やはり馴染みだした寝床は落ち着く。

 だからと言ってこのまま不安定なテント暮らしと言うのも頂けない。非常事態限定の行為で、全力で卒業したい。


「旅から旅の人生は無しだな。NG、うん。何所かひっそりと定住できる場所を探そう」


 このまま、もう少し奥地に分け入ってそこに家を建て永住する案もふと脳裏をよぎったが、それは駄目なような気がした。他人と係わり合いを持たずに、人の責務は果たせない。

 責務が具体的に何を指しているのか、明示されていない点が問題なような気もするが、大体予想はついている。と成ればその予想した内容である責務を全うできる環境でなければならない。

 まずは他人の居る、人里に出ることが絶対に条件。

 安宿でも構わないのだが、やはり所有欲が有るせいか自分の家と言うものは欲しい。

 村・・・よりも街に出て、治安の良さそうな場所で家を買って、のんびり暮らしたい。ああ、そうか。俺は“家”よりも“万年床”が欲しいんだよな。

 幸いにも【木工職人】【鍛冶屋】と言った、日銭を稼げそうな職を取っているため、贅沢さえしなければ食うには困らないだろう。

 【きこり】や【炭鉱夫】もあるが、出来ればこちらを就職先に選びたくはない。日本ではインドア派だったのだから、態々外に出て行く職を取りたいとは思わない。ぶっちゃけて言えば金貨を大量に持っているのだ。通貨として使えなかったとしても、鋳潰して単純に金塊にしてしまえば、この世界の貨幣に交換することはできる。そうすれば、活動資金には足りるだろう。

 そう言えば【薬剤師】や【錬金術師】も取ったっけ。

 ああ、そうだった。テン・タレントじゃ【錬金術師】は死にスキルとか言われてたな。スキルで魔法の武器を作り出せるのだが、性能が今一なのだ。高価な素材を複数必要とされ手順も手間も多い、それでいて比較的生産が容易な【鍛冶屋】で作れる最強武器を【付与術師エンチャンター】のスキルで魔法の武器化したものと性能は変わらず、コストと生産性で圧倒的大差がついていた。金属の精錬なんかも得意だったが、そんな事をする時間と労力が有るなら高位の金属素材の出る採掘所へ潜った方が早く、大量の鉱石を入手できた。

 何をするにも中途半端な性能だったな。

 まあ、ファンタジーな世界間で【錬金術師】を取らないのは無いと、雰囲気作りのためにとって、意地だけで100レベまで上げたけどな。

 この辺りの職で、就職するのもありかな。

 ステータスがぶっ壊れているため、肉体労働や戦闘、魔法と言った能力は出来れば封印だ。危険過ぎる。


「まあこれも、捕らぬ狸の何とやらだ・・・街に出てからじゃないと、身の振り方も選べないか」


 テントを軽く畳み、ストレージに収納して、町を目指すことにした。

 ・・・冒険者?

 なる訳がない。それはゲームで散々やった・・・散々モンスターに負けて死んだ経験がある。仮想現実の世界でもモンスターに殺されると言う感覚に慣れなかったのに、現実となった今は絶対に味わいたくない。

 現実は死んだら終わりなのだ。死んでも僅かなデス・ペナルティーを支払うことで生き返れるゲームではないのだ。

 だから態々死にに行くようなことをする必要はない。


 ・・・まあ、HPが推察通りなら、どうやったら死ぬかが問題だ。最低でも15垓なんてHPをどうやって削り切るんだろうか?

 マグマダイブしても、自然回復量の方が上回れば、死なない事になってしまうんだよな・・・。

いや流石にそれは無い・・・だろう。幾らなんでもゲーム的過ぎる。


 もちろんステータスの表示がおかしくなっているだけで、そこまで高くない可能性もあるし、ナイフが首にでも刺さればHPの大きさに関係なく絶命するかもしれないんだ。当然試す気も起きない。


 出来得る限り危険を避ける。

 そう決めて、人里を求めて歩き出す。


「・・・時間に追われないで生きるってのも悪くないもんだな」


 それでも、心が急いたのか中々の速足で街道まで歩き切る。

 道が何所に繋がっているか知らないが、街道に沿って陽が沈む方へ歩いて行く。

 歩く速度は普通に常識の範囲。急ぐ意味をあまり感じなかったので、走ったりはしない。逆に全力でダッシュをすれば、音速を超えられることは分かっているが、実は二歩目が無いことが分かった。足を着くと、地表を踏み抜いてしまうのだ。その為に移動可能な距離は、あまり長くない。そして踏み出した時の反動と、音の壁を超えた時の衝撃波で、辺りを吹き飛ばしてしまい、おまけに――衣服が衝撃に耐えられず吹き飛ぶので――全裸になる。

 結論としては全く使えない。

 余りにも能力が高くなりすぎたせいで、自身の100%の力と言うものが発揮できなくなっていた。


 そして、逢魔が時に大きめの街の城門が視界に入った。

 久しぶりに見た街の灯は、とても暖かく見えた。


「・・・これでベッドで眠れる」

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