12 最強生物
俺は少女の言葉に素直に従い、現場を後にした。
無理に居座って変質者呼ばわりされるのも、何の得にもならないし、今更がっついて女の肌を見たいとは思わない。それに少し確認したいことも出来たからだ。
結局、村や町などの集落の場所は分からずじまいで、6枚の金貨とエリクサーを消費しただけだ。
それでも適当に彷徨えば、何かしら人里の痕跡に辿り着くと言う保証が得られたお陰で、精神的な余裕が生まれ心が軽くなったのは有難い。しかも方向さえ間違わなければ、そう何日も彷徨う必要もない。
あ、後はあれだ、デッキチェアは完全に粉砕されており、そのまま放置してきた。
「テン・タレント内じゃ絶対に壊れなかったアイテムだったんだがな・・・」
モンスターの攻撃を受けようが、魔法で吹き飛ばそうが、壊れなかったのはゲームの仕様と言うことだ。
どうにもその辺の『ゲームの仕様』と『現実の影響』の差異を理解しなければならない。
例えば【俊足】が衝撃波を生み出してしまうなら、最早それは移動補助スキルじゃなくて範囲攻撃スキルとして運用するしかなくなる。
「しかも威力は災害レベルだ、ふふはははっ。やべぇ笑うしかねぇ」
もしも本気で攻撃スキルなんぞ使おうものなら、どうなってしまうのか分かった物ではない。
それらを道すがら試したくて、少女から素直に距離を取ったのだ。
結果発表。・・・全滅、異常いや、以上。
色々と試してみたが、ほぼ全ての移動や攻撃スキルで災害レベルの被害が出た。
【魔法使い】の初期攻撃スキル【魔力矢】ですら巨岩を貫通。属性追加版になる【火矢】だと爆砕した。
「最弱の単体攻撃魔法だった筈なんだが・・・」
その威力は攻城魔法としても十分過ぎるほどだ。中位の【火焔球】だと地形が変わりそうだったので、試すことすらできなかった。・・・やはり“神の使い”に10倍の能力と強請ったのはやり過ぎだったか?
ステータスを開く。
目の前の空間に投影される形で表現されるウィンドウは、どこか非現実的な印象が強い。少なくも自然的ではないよな。
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【名前】レイニーゴ
【種族】ヒューム
【性別】男
【年齢】16才
【善性】047
【健康】通常
【位階】***
【称号】***
【職業】戦士100レベル
軽戦士100レベル
~
【装備】
見習いの鉄剣
見習いの鉄盾
トラベルハット
トラベルベスト
トラベルグローブ
トラベルパンツ
トラベルブーツ
若草のマント
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町娘を助けたからだろうか、【善性】が46から47へ1ポイント増えていた。
もう少し詳細が見れないかな?
能力値とかも見てみたいんだが。
と指でツンツンと触れてみると、表示が拡張され現れた。
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【能力値】
器用 ********
敏捷 ********
知力 ********
筋力 ********
耐久 ********
精神 ********
生命 ********
魔法 ********
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・・・文字化けしてやがる。ポンコツめ。
ん?
何だ??
この違和感は???
ああ、そうか!
「何で8桁も表示が有るのに文字化けしてるんだ!?」
8桁あると言うことは千万単位までは表示できるはずなのだ。
そして通常、この手の文字化けは、表示桁数よりも実数の方が大きくなった場合に発生する。
取り敢えず一番数値の大きくなる生命(HP)で考察する。
『テン・タレント』では初期レベルのキャラクター、つまり0レベルキャラはHPが『100』だ。
これは前キャラ共通の普遍的な仕様である。
そして、1レベル上昇ごとに5%増しに増えて行き、上限の冒険者レベル100で初期値の約131.5倍に、つまり100レベルキャラのHPの最低値が『13,150』になる計算で、これを基準値とも言う。
そして俺ことDavid025は、職業を複数個取りあさった結果、HP増加系のパッシブスキルや、HP増強アイテムなどを駆使して、HPを基準値のおよそ32倍にまで強化した。単純計算で『420,800』まだ6桁だ。
そして“神の使い”に頼んで、10倍にして貰ったはずだ。
つまり能力値を単純に10倍にしたのであればHPは『4,208,000』で7桁。ステータスの8桁枠には収まる。
文字化けするのに理由が無い。
何故だ?
不意に“神の使い”の最後の言葉が脳裏に過った。
転生直前のタイミングだったため、意識がかなり遠のいていたので、すっかり忘れていた。
確かあいつは・・・。
『・・・10倍・・・個別操作は面・・・冒険者レベルを・・・世界の管理システムが自動で調整して・・・能力値とかも自動で上昇する・・・問題ない』
と言っていたような気がする。
問題大ありだ馬鹿野郎!
面倒がって、訂正箇所を一カ所に、冒険者レベルを10倍にしやがったのか?
「・・・いかん。気持ち悪くなって来た」
冒険者レベルの上限が100から1,000に引き上げられた場合どうなるか?
慌てて、電卓アプリを起動させ――従来のネットゲームは電卓などを傍らに置いて計算できたが、没入型ではそれが出来ない為に、ゲーム内で使える補助機能として搭載されていた――叩く。冒険者レベルが1,000になった場合・・・。
冒険者レベルが100の場合。初期値『100』×レベル補正倍率『1.05』のレベル『100』乗=基準値『13,150』。
これが、
冒険者レベルが1,000の場合。初期値『100』×レベル補正倍率『1.05』のレベル『1,000』乗に成る訳で。
基準値は『1,546,318,920,731,927,238,984』(小数点以下斬り捨て)になる。
何桁?
22桁? 桁も読めねーよ!
そりゃ文字化けもするさ! どちくしょう!!
つまりスキルが殆どヤバ過ぎて使えないのは、性能や威力の基準になる能力値が高過ぎるせいか!
・・・終わった。何か色々終わった気がする。
「俺より強い生物居ないんじゃねーのこれ?」
『テン・タレント』の魔王とかでもHPは億単位だった筈だぞ?
資産を100Pプルくらい持っているが、それだって18桁でHPよりも少ない。
どーすんのさこれ?
・・・・・・・・・まあ、好意的に受け取ってそう簡単に死なないからいいか。
・・・・・・即死攻撃さえなければだが。
・・・ほんと、どうしよう。
「取り敢えず・・・人里云々よりも力の使い方を覚えないと・・・だな」
うっかり加減をミスって握手したら、相手の手を握りつぶす可能性が高いからな。
幸いにも通常生活を送るだけなら問題ないことは分かっている。
例えば、卵を割らずに持つ方法だ。
加減の分からない子供なら割ってしまうかもしれないが、加減を覚えた人間は割ることは無い。早ければ小学生ならよっぽど大丈夫だろうし、大人でも・・・握力自慢のスポーツ選手とかでも割らずに持つことは可能だ。
それは“これ以上力を籠めれば殻が割れる”と言う加減を学習しているからである。したがって俺の場合、生身の時の力加減の感覚のままで居れば、普通に生活は可能だ。
ただし問題があるとすれば、熱いお茶を手に溢した時のような反射時や、恐怖からうっかり力み過ぎた場合など、恐らく常人の上限を遥か下方に見下ろすレベルの力が零れ出る。さきの野盗だってもう少し恐怖心を押さえられれば、あのような惨事にはならなかっただろうし、少女も刺される前に助け出せたはずだ。
そしてもう一つ、ステータスが8桁越えのバケモノ状態だが、それが完全な状態で反映されていないと言うことだ。
試したことだが【俊足】を使わなくても、ただ早くダッシュするイメージで踏み出せば、音速を超えることが出来た。つまりスキル効果に頼らず、素の能力値だけで突破は可能なのだ。違いがあるとすれば、真っ裸になったこと。・・・服が衝撃に耐えられずズル向けた。恐らくスキルは魔法的な力が作用して自身を護っていること。そして、物理的な上限が存在し、効果としてはほぼ同じ所まで可能だと言うことだ。
魔力を巧みに使い、自身の身体・・・主に衣服を護る事が出来れば、俊足が無くても完全に同じ効果が得られるはずだということ。
「ここらへんも要検証ってところか。反復練習で感覚を掴むしかないな・・・でないと、町に入ることが怖い」
思わずぼやきも零れると言うものだ。
今のままではうっかり殺人者どころか、うっかり国すら滅ぼしかねない。街中を全速ダッシュを百本やるだけで、多分人間の住める環境ではなくなる。
ぐぅ・・・っ。
・・・こんな状況でも腹の虫は鳴るんだな。
取り敢えず塩ラーメンでも食うか。
【悲報】推定HP基準値 15垓4631京8920兆7319億2723万8984P