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転生特典が邪魔で責務が全うできません  作者: 比良平
第五章 仮宿と勇者
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24 経験の差

「よし! 次!」

「次は連続できます! 素早く1体を仕留めないと追い詰められますよ!」

「わかったわ。任せて!」


 3人は景気よく竜牙兵を粉砕したせいか、より力強く勝利への道筋というモノを強固にしていく。

 自信を宿し「負けてたまるか」という思いが「勝つ!」という思いに変化していく。


 それにしても・・・おかしい。なぜ男魔族はルヴィオたちの戦法に乗る?

 折角の戦力差を生かさず、竜牙兵を逐次投入という形になり、連携が巧く機能しつつあるルヴィオ達が僅かに勝機を掴んでいる。


 なぜ戦闘に参加させない竜牙兵を作り、待機させている?

 それじゃ盾にしかならんぞ?


(・・・あ。俺が居るからか)


 俺が平然とつっ立っているから、男魔族は俺に対して警戒を怠ることが出来ず、召喚した竜牙兵を自身の護衛というか“対レイニーゴ用の戦力”として温存せざるを得ないのか。


 なるほど、エーベ氏が言っていたことは、これか。


 俺が居るだけで、ルヴィオ達に全ての戦力を差し向けることが出来なくなっているんだ。“対レイニーゴ用の戦力”を最大に確保しようとして“対ルヴィオ達用の戦力”をケチって小出しにした結果か。

 となると、恐らくスペック上では竜牙兵1体で3人を上回る強さがあると判断してのことかもしれないな。それを3人は、今までの戦闘経験と連携によって覆したということだろう。


 この憶測に至ってしまえば、確かに男魔族は俺を警戒するため、召喚した6体の竜牙兵の内2体を自身の護衛というか、俺に対する盾として役割を固定していると察してしまえた。

 いっそ防御を捨てて、ルヴィオ達に全力を向ければ勝ち得たかもしれないのに、常識の範囲で考えれば俺は魔力切れでもう役に立たない筈なのに。万が一にまだ俺が余力を残しているかもしれないという疑心暗鬼に駆られ、思い切りの悪さが裏目に出て、ルヴィオ達には竜牙兵の逐次投入という形で戦力をすり減らしてしまう、各個撃破という憂き目にあっている。

 まあしかし、俺に余力があるというのは事実なわけで、その読みは当たっている。ルヴィオ達に総攻撃をかけないのは、かなりの慎重派なのだろうと読み取れた。


(男魔族が研究バカで、戦闘経験が少なかったのが幸いした結果だろうな)


 2体目の竜牙兵は、3対1の乱戦になりエーベ氏が鉄弓の弦を巻き付け動きを封じて、2人の剣でボコボコに骨を砕かれていき、魔力が尽きたのだろう崩壊して消えた。

 これも俺が勘違いしていたことだが“剣”と言われてどのような武器を想像するだろうか。

 日本人では恐らく打刀や太刀という所謂“日本刀”のイメージが強く“よく切れるデカい刃物”という印象ではないだろうか。俺自身もそうだったが、この世界に来て、中古品とは言え冒険者の“剣”を見て愕然としてしまった。

 そもそも刀身が鋳造で、鍛造で作られる日本刀とは製造方法からして違うため切れ味の意味合いが違うのだ。

 この世界の剣は・・・クサビのようなもので、刃が当たった部分を2つに押し分けていくようなイメージで斬れる・・・というより“裂ける”といった方が適当だった。

 同じ紙を切るにしてもカッターナイフと、ペーパーナイフくらい差があった。

 剃刀のような繊細な刃で無いため、多少乱雑に扱ったところで剣がダメになることもない。


(・・・まあ、刃物以前に、角ばった鉄の棒で思いっきり殴打されれば、人間の骨なんて簡単に砕けるよな)


 少し股座に悪寒を感じたところで、注意を戦場へ戻す。

 単純に戦闘経験がないため、効果的な戦術を知らないのだろうか?

 俺だって、知っている戦術はテン・タレント時代の物でしかなく、それがどこまで現実世界で通用するかは分からないが、男魔族の戦術は巧く機能していないように見える。


 これなら勝利は確実だろう。


 男魔族は未だに俺を警戒して戦力を分散させているため、ルヴィオ達を一気に倒せずにおり、逆にルヴィオ達は時間こそかかってはいるものの確実に竜牙兵を撃破し、男魔族を討つために距離を詰めている。


 男魔族の戦法は、戦闘時間を長引かせるための手段にしかならず、決して効果的とは言えない。

 戦闘時間を長引かされても、ルヴィオ達は息を切らせることもなく着実に仕留めている。

 勝利は時間の問題だ。


(しまった! 男魔族の目的はルヴィオ達を倒すのではなく、支配することなのでは?)


 “女を強制的に支配下に置く禁呪”の運用として、最初に取り出したランタン以外の手段がある可能性はないのだろうか。

 自前であのランタン型の魔道具を作成したのであれば、別の形で行使できる可能性は捨てきれない。即効性が無いとか、高コストで効率が悪いとかの理由で、初手では使わなかったが代替手段というか予備として機能する手段があるのかもしれない。

 よくよく観察してみれば、口早に何か呪文のようなものを唱えている。あれがもし、淫魔メパトですら警戒した女を支配する呪文であるのなら、召喚した竜牙兵の目的は時間稼ぎだけでいい。


 ルヴィオ達の侵攻速度では到底間に合いそうもないと判断し、俺は狩猟で使っていた弓をストレージから取り出すと、そのまま矢を番え、男魔族目掛け放つ。

 矢は盾にされている2体の竜牙兵の合間を縫って飛翔し、ためらいもなく男魔族の肩に食い込んだ。


「うぎゃ! あ? ああぁぁぁああぁぁっ!」


 悲鳴が上がる。

 これで呪文は途切れたが・・・間に合ったか?


 呪文を中断させれば、発動しないというのがセオリーなんのだが、今回の場合はどうなのだろうか。

 男魔族は痛みを堪えながら、肩に突き刺さった矢を抜こうとして諦めた。簡単に抜けるものではなく、触れるだけでも強烈な痛みが走るので諦めたように見えた。


「降参してくれると助かるんだが?」

「ふっ! ふざけるな! にっ人間にただの平民風情に降参などできるものか!」


 俺が降参を薦めたことで、男魔族の自尊心を傷つけ意固地にしてしまったようだ。

 俺の前に立塞がる2体の竜牙兵が体を寄せ合い、盾としての機能を強める努力をする。

 そして、男魔族がまた呪文のようなものを唱えだした。

 俺はすかさず矢を番え、男魔族を射抜く。

 あっさりと竜牙兵の隙間を縫い、矢は膝を貫いた。

 そしてそのまま連射し、2体の竜牙兵の眉間を貫き破壊しておく。


「降参してくれると助かるんだが?」

「ふっ! ふひーーーっ! ふっふっ! ざっけ!」


 痛みで正常な判断能力を失っているようだが、俺としては痛みから恐慌状態にでも陥ってくれた方が・・・いや、あまり追い詰めて自爆されても厄介だな。


 できれば、淫魔すら支配する力と、性転換する技術について聞きたいんだ。


 そもそもだが、今回の件で淫魔メパトに対抗する手段ないし、嫌がらせをする手段が手に入ると良いと考えていた。再会を望まない相手とあっさり再会したせいで、こういう現状だ。今はまだ許容範囲、人間の冒険者的な行動の範囲内に収まっているが、そこを逸脱するような注文を受けた時に、拒否や交渉するための材料は必要だ。

 勇者ルヴィオ達も生来の性別の方が何かと行動し易いだろうし、この男魔族が性転換する技術を有していたという事実は、他の存在が性転換に関する技術を持っている可能性を引き上げる裏付けであり、可能であれば対抗策なんかも講じたい。


「降参してくれればこれ以上の攻撃を止めるし、何なら矢傷を治療してやる」

「ぐっ・・・くう! 吾輩に・・・虜囚の、辱めを・・・甘んじろと?」


 後はついでに色々喋ってくれるとありがたい。

 俺はゆっくりと男魔族に近付きながら、最下級になるがポーションと包帯を取り出し、手当の意思がある事を表現する。

 最下級とはいえポーションによるHP回復は、どう見ても痛み慣れをしていない男魔族を懐柔するには我ながら良い餌だと思うんだが。


「皆の仇! 取らせて貰うぞ!」


 辺りをつんざく宣誓が成され、俺が意識を男魔族から外すと、全ての竜牙兵を打倒したルヴィオ達が駆け寄ってきた。

 その先頭を行くのは、騎士カレン。

 中古の剣を腰だめに構え、頭を低く屈め全力で疾駆してきた。


 ひえっ!


 別に先端恐怖症ではないと思うが・・・いや、そんなものとは関係なく、鬼気迫る顔で迫られれば腰が引ける。

 ズシンとした衝撃と共に、男魔族と騎士カレンは折り重なり、転がっていった。

 その転がっていった先で、ゆらりと幽鬼の様に立ち上がった騎士カレンが、目を見開いて吠える。


「怨敵討ち取ったりっ!」


 騎士カレンの剣は男魔族の薄い胸板を貫き、あっさりと根元まで食い込んだ。

 その柄を強引にねじり、刀身に絡みつく肉を捩じ切るようにして、男魔族を蹴り飛ばし剣を引きに抜く。

 俺は咄嗟に、男魔族のステータスを確認したが、HPは穴の開いた風船から空気が漏れるような勢いで減少し、0になった。


 あ、死んだ。殺しちまったぞ、こいつ。まだ何も情報を引き出していないのに。


 だがそれも致し方ないことなのかもしれない。

 勇者ルヴィオや騎士カレンからすれば、恋人や友人、同僚といった一緒に旅をした近しい人を殺された上に、自身の性別を変えられてしまったのだ。隙あらば、その無念を晴らすためならば、多少の無茶も押し通す気概があったのだろう。

 対して俺はと言えば、立場上逆らえない様な上司にゴミ捨てを押し付けられ、夜中にぶつくさ言いながら処理していたようなものだ。


 怨念の強度が違う。


 だからこそ、待ち伏せされた執念深さも理解していたつもりだったし、要望を拒否した後の面倒な追及を逃れるためにも同行を承諾したのだが、こうも上手く事が運ばないのは当人の温度差のせいなのだろうか。

 情報が引き出せない事への不満はあるが、仕方がない。

 殺してしまった以上、生き返らせることはできないのだ。

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