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転生特典が邪魔で責務が全うできません  作者: 比良平
第五章 仮宿と勇者
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11 お前は誰だ?

 俺がこのローランの街で家を借りてまで逗留している一番の目的は、この先、旅の負担に耐えられるようにノイルさんとルセに“シェアグラフィスの杯”と呼ばれる魔道具による加護を施すということになる。今後遭遇する命を危険に晒す可能性と危険性を軽減するため、外科手術による人体改造という見方もあるし、もう少し軽く予防接種のようなものという見方もできる。

 施さなければ彼女らが負傷や疾病にかかる確率は上がり、致死率が上昇してしまうことになり得る。旅の安全を考慮するのであれば、しないという選択肢はない。

 どのみち彼女らを、四六時中監視して常に保護できる体制が維持できない以上、ある程度のリスクはどこかで背負わなければならない。


 だったらできるだけ腕のいい術師を見つけて、最良の環境でシェアグラフィスの杯を授けてもらいたいと思うことは、親心的な感情だろう。


 そのために冒険者ギルドに赴き情報を入手して、施術が可能な魔導士を訪ねて行っては、その人柄などを探っていた。

 経験豊富そうな老齢な魔導士でも獣人への施術は未経験であるため断られたり、人当たりのよさそうな魔導士でも下等な獣人の施術などお断りだと拒否されたりと、当人たちに聞かせたくない言葉をかけられる場合もあったので、俺一人で選考していて良かったと思えてしまった。


 既に良さそうな魔導士の目星は付けていたが、もう少しリサーチしておこうと思い冒険者ギルドへ足を向けたのだ。

 最適な魔導士を漏らしていては悔やまれるからな。

 俺がギルドの戸を潜ると、すでに顔を見知った受付が苦笑いを浮かべて挨拶をしてくれる。


「いらっしゃい、レイニーゴさん。まだ魔導士をお探しですか?」


 幸か不幸か、ローランで俺の担当についてくれたのは二十歳の年若い女性だった。

 未婚の上美しい顔立ちと落ち着いた立ち居振る舞いに品があって、実年齢以上に大人びて見える。その反面、そろそろ結婚をしないと行き遅れそうだと婚期の心配をしている愚痴を聞いてしまったことがあった。彼女なら引く手数多な様な気がしないでもないのだが、仕事の兼ね合いなどで恋人を作れないでいるようだった。

 彼女に憧れている冒険者は多いようだが、まあ、そんな奴らは彼女の婿候補には入っていないようだ。なにせ収入に問題のある奴ばかり、マナー知らずどころか常識知らずも多く、粗野で薄給な上に金遣いの荒い冒険者など、この街で定職を持って堅実に生きている女性の結婚相手が務まるとは思えない。


「はい。できることはしておきたいので・・・」

「アニエルカですよレイニーゴさん。レイニーゴさん私の名前、まだ覚えてくれていないのですね? 折角担当になったのですから、お互い名前くらいはしっかり憶えておきましょうよ」


 明るい色の茶髪をひっつめて、キャリアウーマン的な雰囲気なのに子供っぽくむくれる様は、なかなか可愛らしいく素敵な表情だとも思うし、この笑顔を自分だけの物にしたいと思う男共が居ることも納得できる。

 だからまあ、焦って早まるよりはじっくり見定めれば良い男性に巡り合うこともあるだろうと思えるのだ。懇意にしてくれる女性の不幸を願うほど、俺は歪んだ性癖を持ち合わせていない。


 俺が最初に冒険者ギルドでシェアグラフィスの杯に詳しい人を紹介して欲しいと注文を付けたら、彼女が俺の担当に推されたのだ。年若い女性の受付にシェアグラフィスの杯について根掘り葉掘り聞くのはなかなか気恥ずかしく逃げ出したい気持にさせられた経験だったが、その程度の羞恥は二人の身の安全と釣り合うものではないと切り捨てた。

 そして彼女・・・アニエルカさんが推薦された理由は、彼女はこの街の生まれの上に8年前(12歳時)に冒険者デビューして4年(16歳時)で限界を感じて引退した元冒険者、つまり彼女自身がシェアグラフィスの杯に対してそれなりの精通していたためだ。


「すいません。そんなに余裕が無い物で・・・」

「大変な時期なのですよね・・・頑張ってくださいねレイニーゴさん」


 これは当然嘘になる。

 名前を憶えていない訳ではないが、今の俺からすれば所詮このローランの街は通過点に過ぎず必要以上に仲良くなるメリットがないばかりか、周りの男性冒険者でアニエルカさんに好意を持っている連中から喧嘩を売られる危険性を孕んでおり、正直そんなデメリットに係わりあう精神的な余裕を持ち合わせていないのだ。

 そこでノイルさんとルセの施術が最優先されるため余裕がないと断っているつもりなのだが、「大変なのね」と笑み掛けられるのは少し話の通じない理不尽さを感じる。俺の余裕のなさを曲解しているような気はするんだよな。


「もう有名な魔導士さんは大体紹介したので、これ以上となると隠している方を探すしかなくなると思うの」


 ということらしい。

 アニエルカさんもこの街全体の全てを知っているわけではないので、その知識にも幾つかの抜けが生じるのは当たり前だ。そしてギルド自体も街の規模からして本部と幾つかの支部が存在し、俺がお世話になっているここはローラン西支部と言ったところだろう。そして他の支部にも掛け合って貰った結果の情報なので、これ以上を探し出そうと思えば、地道に足で稼ぐしかないということになる。

 そして能力を隠している魔導士と聞くと『伝説級の力を持つが厭世な性格でギルドには報告や登録をしていない人物』というのがゲームでの定番だが、現実的に考えてその可能性は低い。


 それだけの人が隠れているのを運良く見つけられる気がしないのだ。

 それならば偏屈だが腕は確かという人物の方が探す価値がある。


 冒険者ギルドからすれば明らかに人格に問題のある魔導士は、ギルド自身の信用の失墜につながるので紹介しないだろうし、そうでない魔導士は単に腕が未熟だから無名でギルドが正確に把握していないという可能性が高い。いわゆる“モグリ”という連中しか残っていないことになる。

 足で地道に探し出した魔導士には思い入れが深くなるため贔屓になるだろうが、それと実力が釣り合うかはまた別の問題だ。


「そうですか、今までありがとうございます。アニエルカさんが教えて下さった魔導士の方の中で決めさせて貰おうと思います」

「はい、頑張ってくださいねレイニーゴさん」


 得られた候補の中の、どの魔導士を選ぶのが一番良いのかと考える。

 技術というものは実際見た訳でも比べた訳でもないので、今一判断できない。施術量の大小は本人の能力や資本、ギルドからの信用度などによって変化するから、多ければいいというわけでもない。

 次は成功率という話になるが、これも微妙であったりする。施術自体の成功率はほぼ100%であり誰を選んでもそこそこの結果を出してもらえるのだ。魔道具シェアグラフィスの杯の品質と、魔導士の人格くらいが最重要事項と言えるだろうか。

 魔道具作成のレシピや施術の術式なんかを知れれば、手製の魔道具を作成して施術することは不可能ではないと考えている。


 その目論見通り、俺に出来ればベストなんだが・・・。


 信用できない他人よりも俺自身が行えば、少なくとも全ての責任を背負うことができる。

 テン・タレントにおける【生産職】は種族や性別による制限があるもの以外は網羅しているし、【魔法職】の内で俺が取得していないのは【呪術系】と【死霊系】であるが、これらは悪役っぽいイメージがある【職業】だったので取得を後回しにしていたのだが、シェアグラフィスの杯との関係は薄そうなのでホッとしているところだ。


 だが、俺が行った方がレベル的にも能力値的にも良い結果が出ると思うが、練習もなしに知人で人体実験する訳にもいかないし、気軽に練習できる環境でもないので、結局は、少なくとも初回はこの世界の魔導士に頼ることになる。


 施術現場を見学させて貰えば、魔道具作成レシピや施術式を盗めるのではないかと画策していると、冒険者ギルドに新たな来客が訪れた。ちょうど室内からでは逆光になっているために顔は良く見えないが、客人の輪郭から女性だということは把握できた。

 一瞬、何か急用があってキュユ達が呼びに来た可能性を考えるが、身長や体形的に違うようだと分かった。


 何だキュユ達じゃないなら、俺には関係のない人たちか。


 そう判断して、再びどうやってシェアグラフィスの杯の秘密を知ることができるか考えだすことにした。


「ああっ!!」


 一人の少女が叫び声を上げ、駆けだしたのが分かった。


「レイちゃ~~~~ん!! 会いたかったわ~~~~っ!!」


 そう言ってドンと力任せにタックル・・・いや腰のあたりに抱き着かれた。


「やっぱりあたしたちって運命で結ばれているのね~~~~っ! ぉぉぃ、ぉぃぉぃ・・・」


 そのままの体制で咽び泣かれても困るのだが・・・。

 お前は誰だ?


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