01 昇格試験
今更ながら、ゲームっぽい世界に転生して・・・と言う話です。
一風変わった内容にはなるような気がしなくも無かったりで、気に入って貰えれば幸いです。
剣の聖域。
そう呼ばれている、禁足地に俺はいた。
吹きすさぶ風が、乾燥した砂を舞い上げ心まで荒涼とさせるようだ・・・などと、少しくらい詩的な気分にさせてくれる緊張感が漂っている。
ほぼ新円に近い石造りの舞台で、直径は100メートルほどだろう。舞台の外縁には、巨石が牙のように突き出していた。
――やっぱ、良い雰囲気だな。
そこに足を踏み入れると、舞台の中心辺りにぼんやりと人影が立ち上がった。
禁足地と言っても、人の侵入を拒む禁忌の地と言ったような大仰なものではなく、人跡未踏の秘境と言った風合いの土地だ。特別な許可を得ないと入れないと言うだけで、普通に人の往来はある。険しい以外に形容すべき点が無い山の中腹にある、ちょっとした広場だ。そこで剣の腕を競い合うことになる。
違う、認めさせるために、思いっきりぶつける為に来た。
職業【軽戦士Lv99】の俺が、最大レベルである【軽戦士Lv100】になる為の、昇格クエストを受けたためだ。
立ち上った人影は人型となり、その造形をハッキリさせて行く。
軽戦士という職業を取得して以来、散々稽古・・・と言うか昇格クエストのたびに戦うことになった【剣の師】だ。
仮想現実を駆使した没入型のMMORPGである『テン・タレント』と言うタイトルが、今俺を夢中にさせているゲームだ。
まあ、最近はこれしかやってないが・・・。それはいい。
このゲームは職業と言うものを好きに取得して、それを伸ばすことでキャラクターを成長させることが出来るシステムだった。
剣の師が、木剣を取り構える。
俺もそれに倣い、支給品の木剣を構える。
ぞっとするような殺気・・・いや剣気を叩き付けられる。
こればっかりは慣れないな・・・。
テン・タレントは没入型であるため、ゲーム中は俺の身体、本来の人間としての肉体は全く動かせない状況になっている代わりに、ゲーム内での感触がリアルに感じ取れるように作られていた。その為にこの専用のハード・・・つまりゲーム機が発売された当初は「どんなにゲームに没頭しても視力が悪くならない」とかいう謳い文句で、保護者を篭絡するキャッチコピーが出たほどだ。
この剣気などは五感に直接信号が届くため、無視することも成れることも出来なかった。
不意に試験は始まり、一気に間合いを詰め一合。
ガツンと重い手応えが、身体を押し返す。
力負けしている訳ではないが、このゲームのレベル補正は侮れない。
攻撃スキルなどは上位者に確実に競り負けるように設定されているし、能力値も1レベル上がるごとに前レベル時より約5%づつ上昇していく。つまり【軽戦士Lv100】は【軽戦士Lv99×1.05】と等しいのだ。
そして武器や防具は、訓練用の物が支給される為に、その性能に因るパワーアップは望めない。
剣の師はイベントクエスト専用の対戦キャラになるため、特別に調整され挑戦者の倍近いステータスを誇る。結論、【軽戦士Lv99】が真正面から挑んだのでは、この昇格クエストは絶対に勝てない難易度で作られていた。
剣の師が一瞬溜めるような仕草をする。
【軽戦士】は名前からして貧弱そうなイメージがあるが、実際は基本職【戦士】の派生職業で、攻撃特化職になる。重い防具と盾を捨て、足で敵を翻弄して攻撃あるのみと言う、いささか頭の悪い職だったりする。
だから、攻撃は一つ一つがとても速く、重い。
直感でそれを軽戦士の最上級攻撃スキルである【生過セプテンデキム】であると当たりを付け、同じスキルを発動させる。
超高速で放たれる、死に至る17連斬。
同等のスキルをぶつければ相殺が可能なので、それを狙って放つ。
予想通りと言うか、システム通り16撃目までを打ち消したが、最後の17撃目だけは食らってしまう。技量の差・・・スキルのレベル差で必ず競り負ける仕様によるダメージだ。
因みに17連撃を通常の攻撃でも迎撃して相殺が可能だが、とてもじゃないが人間に再現可能な速度の連続攻撃ではないので「理論上は可能である」とだけ言われているものに過ぎない。攻撃スキルの補正無しで迎撃しようとすれば、剣の軌道に、一撃の重さ、交差のタイミングなど寸分の狂いも許されないためだ。
たまたま偶然運良く、一撃を無効化で来たと言う事例を聞いたことが有る程度で、そう言う奇跡のような成功例が有ったから、可能であると論理上認められたものだった。
確か【生過セプテンデキム】の威力は攻略サイトの情報だと、一撃でHPの1割から2割持っていかれるらしいので、最低でも17割のダメージ、最大で34割のダメージを食らう計算になり、17連撃の8連撃以上無効化できないと確実に死ぬため、即死攻撃と名高かったりする。
だが俺のHPの減少は0.5%に満たない。
もちろんこれには種がある。
単純に俺のHPが只の【軽戦士Lv99】の32倍ほどあるからだ。
これは別にチートしている訳ではなく、オフィシャルのソロ攻略方法の基本戦法だった。
そもそも俺がこのテン・タレントを始めた時に、最初に選んだ職業は【弓士】だ。正直、モンスターがリアルになり過ぎて、剣を担いで突っ込むと言う行為に、恐怖を感じたからに他ならない。
生来ビビリ体質なせいもあり、至近距離で対峙する勇気が無かったのだ。
幾らゲームとは言え、襲い掛かって来る野犬に剣一本で向かうとか、武器を振り回す人間型の妖魔ゴブリンに対峙するとか、現実世界で喧嘩もろくにしたことの無い俺には、敷居が高すぎた。
それで直接対峙する恐怖から少しでも距離を取るために、遠距離射撃戦闘職の基本である【弓士】を選択したんだ。
だが、これもゲームを進めて行くうちに直ぐに行き詰った。
友人が多くパーティーとかを常時組んでいられる人間ではなかったので、【弓士】の苦手な距離で戦おうとする敵モンスターやそもそも飛び道具や弓矢が効きにくい敵モンスターを倒せなくなった。
そこで【弓士】と並行する形で近距離格闘戦闘職である【打闘家】を取得。これにより距離を詰められた時の対処がある程度可能になった。
テン・タレントはこうやって複数の職業を取ることによって、キャラクターの戦闘方法や育成方針を決めて行くゲームだった。
物理攻撃が効きにくい相手と戦うために、魔法戦闘職を取ったり、基礎体力向上のため【軽戦士】も含む近距離武器戦闘職を取ったりもした。長所を伸ばし、短所を潰すことで、確実にレベルアップを繰り返してきた。
ある程度レベルが上がると別の問題が発生した。武器屋で売っている“店売り”の装備では満足できなくなったのだ。
生産職を専門でやっているプレイヤーも居たが、生憎と知り合いにはおらず、作成依頼を受けるプレイヤーに発注するとボッタクリかと思えるほど、高額な代金を請求された。それを回避するためには、自分で拵えるしかなかった。
弓を作る【木工職人】を取ったが、上質な木を用意できないので自前で取りに行くため必要になり【樵】を取って、矢の強化つまり鏃に使う金属を良質な物をするために【鍛冶屋】を取り、材料を集めるために【炭鉱夫】を取りと、関連の有る生産職も上げる必要になった。
ソロプレイヤーじゃなければここまでしなくてもいいんだけどね。
その後も【弓士】がメインではあったが、上級職や派生職全7種あった遠距離射撃戦闘職はコンプリートしている。
結果として上限である100レベルになった職業は50種を超え、現在はひたすらに自己強化に勤しんでいると言う訳だ。因みにテン・タレントの選択可能な職業は100種を超えている。
俺も結構取った方だが、種族的に取れない職業と、個人的な主義や先入観から神聖系と盗賊系は取っていないし、戦士職でも先に取った魔法職と相性の悪い【重戦士】などは、HPやSTRの底上げ以外では殆ど取る意味がないため、取っていない。
今まで上げたほかの職業の効果は、発動条件が整っているものは発動しているので、その結果がHP32倍と言う数値だった。
そしてここまで強化されていれば、力圧しでもどうにかなるものだ。
剣の師が距離を取る。
普通なら拙い状況だが、今の俺には逆にチャンスとも言える。
急いで距離を詰めればカウンター攻撃、距離を保てば突撃系の攻撃スキルで競り負けると言う二択だが・・・。
【魔法使い】のファイヤーアローをコマンドダイレクト機能を使って、本来必要な詠唱をカット、指輪型の魔法発動体を爪弾くと発動するように設定された魔法を牽制に使う。
【軽戦士】の攻撃範囲外からの攻撃だ。受けるにしろ避けるにしろ耐えるにしろ、隙が出来る。そこへ【打闘家】の移動系補助スキル【俊足】で剣の師の懐へ飛び込み、剣を持っていない方の手で【打闘家】攻撃スキル【パワーナックル】を食らわせる。
剣の師のHPを確実に削って行くために、【パワーナックル】で生み出した隙に、【戦士】の攻撃スキル【スラッシュ】を食らわせ【生過セプテンデキム】に繋げる。これで相殺しようとしても2撃は攻撃が通る計算だ。
悪いがこのコンボは剣の師とは言え【軽戦士】のスキルでは対処できない。
「このまま100レベル貰うぞ!」
今回は前作の反省を踏まえ、投稿間隔を少し変えてみます。




