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異世界視察②


 天海(あまがい)は、自分が視察する異世界と、そこに転生しているカノエ少年と(ひのと)青年について下調べをすることにした。


 カノエ少年が転生直前に言った〝なにかあったら天海さんが僕の世界に来てください〟という言葉が、ありありと思い出される。


 彼がなぜあんなことを言ったのか、自分が行くことになってしまった以上気にならずにはいられないが、今はそれどころではなかった。


 異世界視察と言っても、実際にそこにしばらく滞在しなくてはいけない。


 空に浮かんで、用意されたチェック項目にレ点を入れるだけの簡単な仕事ならばよかった。


 数回ほど経験しているので、なにをどうすれば良いのかを分かっている天海であったが、その仕事は容易ではない。


 一、現状把握

 一、不可侵を脅かす者の特定

 一、その者の調査

 一、秩序の回復

 一、ただし、介入・実行は処罰対象、座視を原則とす


 つまり、本来では起こるはずのないことが起こっていた場合、その原因となる魂を特定し、理由と経緯を追って報告しろ。

 ただ、実際にそれを自分で排除したり、その〝世界〟自体の在り方が変わるようなことをしたり、手を出したらだめ。

 ということだ。



 今回の視察は、以前から事件として認識されていた、〝無差別異世界召喚〟についてようやく調査する気になったというところだろう。


 他の世界の魂を召喚しながら、みすみす葬り去るような真似を、いつまでもさせてはいられない。でも、結局その世界のあれこれに手は出せないから、今どうなってるのか見てきてね。

 などという、問題を解決したいのかそのままにしたいのかよく分からない仕事に、他の課である自分が駆り出されること自体どうかしている。


 天海は、断り切れなかった自分にも腹が立ち、普段は絶対に飲まないブラックコーヒーを仰いだ。


 そして、しばらく逡巡し、異世界資料の、転生者についての頁をめくる手を止めた。


 自分の調査目的が〝無差別異世界召喚〟についてなら、カノエ少年らがどのように転生してようが無関係なはずだ。


 天海はそう自分に言い聞かせ、それならば彼らの情報は必要ない。と、手元の資料を閉じた。



「資料、読み終わりましたぁ?」


 気の抜けた声が天海に向けられる。


 追加のつもりなのか、淹れたてのコーヒー片手にやってきたのは、輪廻転生課の天道リンネだった。


 彼女のおかげで異世界視察を任されてしまったといっても過言ではない天海は、有り余る怒りを抑えつつ、普段通り至極冷たい声色で彼女の持ち込んだコーヒーにお礼を言った。


「天海さん、すみませんでした。まさかこんなことになるとは思っていなくて。ほら、天海さん仏頂面で訪問者の方々からいつも誤解されるじゃないですか。冷血漢とか能面役所犬とか言われていて。あれ? そこまでは言われてないですね。はい。それで、えっと、そうです、だから、少年が懐いたのが意外というか、いえ、当然だと思いますよ、天海さん優しいし」


 一気に早口で言われ、さすがの天海も呆れかえって仕方がない、という風に眉間の皺を深くする。


 それを真っすぐ見つめながら、天道は尚も続ける。


「だからですね、天海さんは青少年から慕われる素晴らしい職員なんですよ! ということをアピールというか、事実をきちんと上の方々にも伝えておきたかったので。余計なことをしたとは思いますが、嘘偽りはないですから」


 言い終えて満足したのか、天道は天海の様子を伺うように微苦笑した。


 天海は、天道がそこまで考えていたことに正直に驚いていた。

 

 天道はバリバリ仕事をこなすタイプではないが、気が利き人をよく見ている人物で、可憐な容姿も相まって職員からは人気がある。


 悪い気はしないものの、やはり実害が被るということもあって複雑な心境だった。


 怒る気力はとうに失せている。


 天海はぶっきらぼうにならないように「わかった」とだけ言う。


 すると、許されたことに安堵した天道は満面の笑みで安堵の表情を作ると、彼の腕に自分のそれを絡めた。


 強制的に座っていた椅子から立ち上がった天海をひっぱる天道は、なぜかどこか楽しそうに見える。


「私、異世界に出立する職員みるの初めてかも。さ、行きましょうね」


 ここは怒っていい場面だよな。

 そう思いつつ、天海も決心はついているので、自らの腕に絡まる温もりをそのまま享受した。


「いざ! 異世界!!」


 他人事を楽しむ天道に連れられ、彼は本日何度目か分からない溜息をつく代わりに「これはしたり」とつぶやいた。






次は、カノエ少年たちの転生先がはっきりします。天海さんに頑張ってもらいましょう。

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