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異世界視察①


「いやです」


 天海(あまがい)テンセイは不平不満を顔には出さずに、だが断固として拒否する意志をはっきり持って、そう即答した。


「え~、でも天ちゃん、何度か行ったことあるでしょ、もう一回くらいいいじゃない」


 天海を〝天ちゃん〟と呼ぶ人物は、お願い、と手を合わせて片目をつぶった。

 全然可愛くないおじさんのウインクを見せられ、天海はもう一度「無理です」と断りを入れた。


 えー! と言いながら天海の体を揺する男は、天海の同僚であり〝管理・視察課〟の西方リクドウだ。


 彼は良く喋り大げさにリアクションをするため、無感情を装い面倒ごとを嫌う天海にとっては天敵のような相手なのだろう。


 いよいよしつこいので、天海は絶対零度の視線を向ける。


 西方はそんな冷ややかな目には気づかず、遂には伝家の宝刀かのようにある書類を取り出したのだ。

 もちろん、よく分からないBGMつきで。


「ちゃらら~ん! 能面天ちゃんが美少年に絆されたときの書類~!」


「は?」


 嬉々として数枚綴じられたそれをめくると、天海が提出した覚えのない用紙を見つけた。


「それがなんだって言うんです? 普通に処理して、きちんと報告書として提出しているはずですが」


 というか、もうすでに倉庫に入っているはずのものを持ち出してきたのか、相変わらず瞬発力だけは有能だな。


 同僚に向けられたフランクな舌打ちをスルーし、西方は天海に見覚えのない紙を見せた。


「なんだ、これ」


「天ちゃん素が出てるね! あ、これは、天童さんが追加報告してくれた文書なんだけど、ほら、ここ」


 そう彼が指さした箇所をみて、天海は頭を抱えた。


「《カノエ少年が転生間際、有事の際は是非天海さんに自分の世界に来てほしいと依頼していました》って、おや、その反応だと身に覚えがあるようじゃないの」


「天童はどこです?」


 天海は輪廻転生課に視線を巡らす。

 どうやら自席にはいないようだ。

 

「天ちゃん無表情怖すぎ。とにかく、そういうことだから。人少ないし、助けると思って、ね!」


 天海は西方の書類を奪おうとしたが、ひょいとかわされてしまう。


「助ける? わたしの仕事は異世界に滞りなく転生を促すことであって、訪問して現状把握するのは、あなた方の仕事ですよね」


 天海は冷静に言っているつもりだったが、明らかに怒り心頭に発する一歩手前だった。

 なにをそんなにムキになることがあろうかと、西方は苦笑した。


「お気に入りの少年のお願いじゃないか」


 だから余計嫌なんじゃないか。

 

 天海は心の中で西方に悪態をつく。


 少年のことはよく覚えている。一緒に転生を承認した青年のことも。


 だからこそ、あの時感じた不安のようなものが再来し、纏わりついて離れない感覚に襲われるのだ。

 

 彼は俺を覚えているだろうと言った。

 本当にそうだろうか? あり得ないに決まっているのに、なぜこんなにも恐怖のような不快感が思考に霧をかけるのだろう。


 西方は、自分の世界に入り込んでしまった天海を覗き込み、一瞬だけ眉間を顰めた。

 けれど、すぐいつも通りにへらへらとした明るい笑顔を作ると、天海の肩にぽんっと軽く手を置いた。


「天ちゃん、もう決定事項だから。お願いね、異世界視察」


 天海は西方を睨みつけると、その怒気に全く動揺しない彼の笑顔に表情を歪める。

 それから観念したように小さく息を吐くと、ゆっくり天を仰いだ。



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