訪問者①
〝無許可転生だめ、絶対!!〟
天界創造日本支部・異世界転生課にでかでかと貼られたポスターは、やけにチープな出来だ。
元は派手な黄色を背景に真っ赤な文字色で自己主張が激しかったそれも、今や色褪せて剥がれかけている。
「……剥がれ落ちそうだ」
そうなって初めてその存在に気づいたように、出勤してきた彼、異世界転生課所属・天海テンセイは頬を掻いた。
まだ誰も来ていないし、第一暇なので、彼はセロハンタープ片手に修繕に向かうことにした。
気怠げにデスクの引き出しをごそごそとやり、ふっとポスターに視線を向けると、先ほどまでいなかった人物がいじーっとそれを見つめていたのだ。
今日はいやに早いな。
そう思いながらも、訪問者はいつも突然なので、別段動揺せずそこに向かう。
「転生って、役所の手続きが必要なんですね」
知りませんでした。と丁寧に話しかけてきたその人物は、どこにでもいる普通の少年だった。
おそらく12、3歳だろう。少年の未だ声変わりのない高めの声を聞きながら、緩慢な動きでテープを引き出しつつ答える。
「そうですね。知らなくて当然です。ここでの記憶はいっさい残らないことになっていますので」
天海の事務的な答えと、真剣にポスターを貼り直す姿に、少年は少しだけ笑った。
そうしてまた静かにポスターに引き寄せられた目は、下方の小さな黒い文字に止まる。
〝正式な異世界転生には手続きが必要です。詳しくは異世界転生課まで〟と書かれていた。
少年はその文字と、修繕を終え満足そうな職員らしきスーツ姿の男を見上げて首を捻った。
「異世界転生、できますか」
「はい。条件さえ揃えば」
またもや事務的に言われ、なるほどこれがお役所仕事か、なんて妙に納得して、少年は微笑んだ。
天海は子どもが苦手だった。笑顔を向けられ内心たじろぐも、平静を装って少年を受付に促す。
「さて、では手続きに入りましょうか。こちらへ」
くるりと向きを変えた彼に倣い少年も体を反転させると、言われるがまま付き添った。
すると、なにか思い出したように足を止めた天海は、驚いて急停止した少年を見下ろして聞いた。
「前世の記憶は引継ぎしますか?」
まるでゲームのコンティニューを催促されているみたいだ、なんて思いながら、少年は大きく頷いた。
「はい、やりたいことが、あるので」
天海は少年の純粋な瞳に、いよいよバツが悪いようなモヤモヤしたような落ち着かない気持ちになった。
頭の中でぶんぶんと纏わりついた不安を霧散させると、それを悟られないように「じゃあ、書類が1枚増えるな」などと独り言をして見せた。
少年がおとなしく椅子に座るのを確認して、簡素な事務書類の入った引き出しから3枚の書類を抜き取る。
簡単に説明して、書類を書いてもらう頃には、文字通り降って沸いたように続々と職員が姿を現していた。
訪問者もちらほら現れ始め、今日も煩くなるなぁ、と思考を巡らせた次の瞬間、隣の輪廻転生課から悲痛な叫びが響いてきた。
「俺は! 最強異能持ち絶対条件でケモ耳美少女ハーレム大前提の異世界に行きたいんだって~~!!!」
また厄介なのが来たみたいだ。