おやすみ。
今日も、何もしないまま日が暮れてしまった。
生命維持に必要なこと以外は何もしていない。
ああ、いつからこんな生活になってしまったか。
……そもそも時間の概念がないぼくに「いつ」なんて言葉は使いようもないけれど。
まず今日が何月何日かすら分からないんだ。
外の景色すら忘れてしまった。
ぼくが知ってるのは、綺麗なぼくの部屋の景色だけ。
さて、今日こそ布団から出ようと思って何日経っただろう。
でももう夜になってしまった。
夜だから寝なければいけない。
ぼくは布団から手を伸ばし、半分くらい水の入ったペットボトルと、二粒の錠剤を手に取る。
これを飲めばぼくの一日は終わる。
そしてまた明日が始まる。
明日こそは、布団から出よう。
明日こそは、何かをしよう。
明日こそは、何かを変えよう。
……。
…………。
………………。
……変わる?
明日になったら、何か変わる?
何が変わる?
どうやって変わる?
なんで、『明日に変わる?』
じゃあ今日と明日の違いって何なんだろう。
……違い、ないよね。
じゃあ……きっと、明日もこうして過ごすのかな。
明後日も、こうして過ごすのかな。
ぼくの手の中で、錠剤が少しずつ柔らかくなっていく。
ぼくの体温で、錠剤が少しずつ溶けていく。
今手の中にある錠剤を飲めば……ぼくの今日は終わる。
次に目が覚めたらぼくの明日が始まっている。
でもそれは、明日であって今日でもある。
きっと明日のぼくは、またずっと布団にこもって時間を浪費する。
そして多分、またこの錠剤を飲んで明日を終わらせて、明後日を呼ぶ。
今日と明日と変わらない、明後日を。
……ああ、なんだ。そういうことだったのか。
そりゃ、いつまでたっても変われないわけだ。
ふふ、なんだか馬鹿らしくなってきちゃったな。
ぼくは今まで何をしていたんだろう。
『明日になったら変われる』なんて、どうして思ってしまったんだろう。
ああ、でももういいや。
とにかく、ぼくは変われない。
今日変われないぼくは、明日も変わらない。
今日布団から出ないぼくは、明日も出られない。
今日何もできなかったぼくは、明日も何もできない。
ぼくは溶けかけた錠剤がくっついた手をティッシュで拭いた。
思い切って布団を蹴った。
少し寒かったけど、関係ない。
ぼくはそのまま起き上がった。いつぶりだろう。
そして机の前に座った。備え付けられた引き出しを引いた。
その中から一つの小瓶を出してその栓を開けた。
おはよう。
おやすみ。