『愛娘の未来』
――人間が二種類の人間に分けられる。
死に方を選べる人間と選べない人間だ。
それを意識的に選べるのか、無意識に選んでしまっているのかの二つだ。
分かりやすい言い方をすれば、事故的でないか自己であるかのどちらかである。
「……はぁ、はぁ……」
その二つの関係性は、自主的であるか間接的であるかだ。
自主的であれば自殺などがあるし、間接的であれば交通事故などが一般的だろう。
だがそれは傍から見れば、自殺なのか他殺なのかは状況証拠では分からない部分もある。
だからこそ証拠は必要になるし、周囲の状況にも左右されてしまう。
「――!」
そんな事を考えながら、薄暗い通路を進むと奥の部屋へと辿り着いた。
扉から明りが漏れていて、誰かが居る気配が確かに感じられる。
だがその奥に居る人物については、誰よりも知っていると自負している。
「あら、おかえりなさい。随分とズタボロになったものね」
「あぁ、こうなるとは思わなかったよ」
彼女の瞳に映る自分自身の姿を見ると、確かにボロボロだし衰弱している様子だ。
こうなるとも思わなかったのも確かにそうだが、実際に倒されたという事も認めたくない。
まだこちらは死んでいないのだから、敗北ではないのだ。生き恥という状態でしかない。
「これからどうするのかしら?私も思う所はあるのですけどね、身を隠すのも悪くは無いと思いますわよ」
「……足を洗うっていうのも不思議と悪くない。けれど良いのかい?彼女はキミを恨むかもしれない。もし依頼が来れば、容赦無くキミは殺されてしまうのではないかな?」
「……そうねぇ。その時はその時かしらね。それでも私は見たいんですよ」
「何を?」
彼女は小さく笑みを浮かべる。
視線の先にはモニターに映る少女たちが映っており、ゆっくりと出口へ向かって行く。
その様子を眺める彼女の視線には、何か温かい空気が込められているような気がした。
「――私の子が、霧華が未来を行く道を。彼女が何を見て、何を感じて、何を思って、何を成すのかを見たいの。勝手に拾った命だけれど、これでも思い入れがあるのよ?」
「道具として扱って来た癖にかい?」
「仕事と愛情はまた別よ。あれはバランスを取る為に必要な事だったわ。それに……」
「それに……何だい?」
彼女はまた小さく笑みを浮かべると、モニターに手を伸ばした。
周囲を警戒しながら歩く少女を眺めながら、彼女は目を細めて言うのであった――。
「自分の娘だと思ったあの子が、成長した姿を想像するのは親の性分じゃないかしら」
「……」
「また、会えるかしら。あの子に」
「また会えると思うよ。次は対面する形になると思うけどね」




