『途絶えた足音』
レンと対峙した際、正面突破をした霧華はマリアを連れ出した。
壁に包まれた通路の中を奥へと進み、彼女たちは空き室を見つけて身を潜めた。
ボロボロとなっているマリアの身体を見つめ、霧華は目を細めつつ口を開く。
「……傷は痛む?マリア」
「私は大丈夫です、お姉さま。お姉さまこそ、傷は大丈夫ですか?」
「私も平気。この程度は傷の内には入らないから」
傷の内には入らないという霧華だったが、その言葉を聞いたマリアは目を丸くする。
それもそのはずだ。霧華の身体に付いている傷は、レンと対峙した際に受けた傷は浅くない。
大量出血とまではいかないにしても、それでも出血している様子は目視出来る。
――ビリッ。
「お姉さま、この布を巻いてください」
マリアは自分のメイド服のスカートを力尽くで破り差し出す。
バンダナのサイズに近いその布を手に取り、仕方無いと言わんばかりに霧華は腕に巻く。
メイド服のスカートが短くなっているが、それでも全てが破られた訳では無い。
片足だけが見え隠れする程度で、逆に歩きやすくなったと言えるだろう。
「これで良い?」
「はい、大丈夫だと思います。本当は消毒もして欲しいですけど……」
「……」
応急手当をし終えた霧華は、こちらを覗き込むマリアの顔を眺める。
そんな彼女の視線を不思議に思い、マリアは首を傾げて問い掛けた。
「どうしました?お姉さま?」
今彼女たちが居るのは、通路の途中にあった小さな部屋。
壁に囲まれている部屋であり、先程まで霧華自身が居た部屋と同じ作りだ。
もし敵に追われれば、そこから逃げるにはまた戦わなければならない。
そうなった場合、戦うか逃げるかの二択しか無くなってしまう結果しか見えない。
いや、恐らく戦うしか選択肢が選べない状況となるのは明白だ。
「マリア、呼吸をゆっくりにして」
「お姉さま……?」
小さな呼吸にしてという指示を出されたマリアは、その指示の意味を理解出来なかった。
だがしかし、次に耳に入ってきた情報からその意味を悟る事が出来た彼女なのである。
――カツン、カツン、カツン……。
聞こえて来たのは足音。
そして何かを引き摺る金属音が混ざった音が耳に入る。
マリアはその瞬間、ハッとした様子で口を両手で塞いだ。
「……」
「っ……」
ナイフをゆっくりと構え始めた霧華は、扉の向こう側へと視線を向ける。
ただし殺気をあえて抑えた状態にして、ここには誰も居ないと悟らせようとする方針にした。
最小限の存在感を曝け出す事によって、ネズミやそれ以外の小動物と察知させる行為でもある。
「……すぅ……はぁ……」
「……」
そんな行動を取った霧華の元へ、徐々に近付く人影は壁にカランと金属をぶつけた。
それによって響き渡った金属音の数分後、やがて扉の向こう側から足音が聞こえなくなった――。




