『正面突破』
「はぁ、はぁ……」
義手の調子が悪いのか、それとも自分が慣れていないのか。
あるいはその両方か。片腕の違和感はが未だに取れない状態が続く。
そんな中で、霧華は暗い通路を奥へ奥へと進んでいた。
「(護身用のナイフがあったって事は、マリアが何処かに居るはず。合流出来れば、何か分かるかもしれない)」
そう考える霧華は、徐々に通路の奥へと進んで行く。
不自由な片腕をカバーしながら、敵と遭遇して戦うのは不利である。
そう思っている霧華が今、最も遭遇したくないのは主人ではなく少年だ。
「……」
人間は悪い方向へと思考を働かせると、その方向へと運命の歯車が動き出す。
それは予知と勘違いしてしまう程、悪い予感というのは当たる可能性が極めて高い。
その可能性が高い事は、どうやら霧華自身も感じてしまったらしい。
「やぁ、遅かったね。霧華」
「……っ(よりにもよって、会いたくない相手に会った)」
「キミがあまりにも遅いから、玩具がもう駄目になっちゃう寸前だったじゃないか」
「――!」
少年の足元、そこに視線が動いた霧華は目を見開いた。
それもそのはずだ。何故なら、そこにはボロボロのマリアの姿があったのだから。
擦り傷が数ヶ所、切り傷や火傷を含めると指の数では足りない程の傷跡だ。
それを見た霧華は、いつもの冷静を欠いた様子で足を前に出した。
「マリアに何をしたの?」
「マリア・スカーレットにはボクの玩具になってもらってたんだ。キミが来るのが遅いから、もう少しで死んじゃう所だったけどね」
「……っ」
「恐いなぁ。そんなに睨まなくてもちゃんと返してあげるよ。土産はそうだなぁ……彼女の真っ赤な薔薇を添えて返すとしよう!」
そう言いながら、起き上がらせる少年は笑みを浮かべる。
髪の毛を引っ張られた状態で、ボロボロのマリアの瞳が動いて霧華を捉える。
そしてマリアは、掠れた声で霧華に言うのであった。
「……おねえ、さま……」
「――っ!」
霧華の事を呼ぶマリアの声は、霧華の中にあった何かを弾けさせた。
周囲には散らばった拷問道具のような物。そして少し距離の開いた彼との位置。
あらゆる情報を脳内で整理した結果、霧華はスッと動き出して言った。
――行きなさい、霧華。貴女は私であり、私は貴女。二人で一人なのだから、私が出来る事を貴女が出来ない道理は無いわ。
「(床に落ちてる道具を使うにも、距離が開き過ぎてる。ボクに攻撃をしようものなら、彼女を犠牲にしなければならない。お手並み拝見と行こうかな)」
「……すぅ……はぁ……――フッ!」
深呼吸をした霧華は、開いた距離を詰めて彼に詰め寄る。
マリアを盾に使おうとした彼だったが、それよりも早く動く彼女に翻弄された。
そこで彼は目を見開いた。彼女、霧華が放ったのは掌底。
最もマリアを傷付けない選択肢であり、彼が予測していなかった答えだった。
「マリアは、返してもらう」
「ぐはっ」




