『薄暗い通路の先で』
――ポチャン……ポチャン……。
水の滴る音が聞こえる。
ゆっくりと開かれる視界は、微かに霞んだ世界となっている。
頬に当たる床は、酷く冷たく感じる。
「……」
起きて周囲を観察し、やがて自分が何故ここに居るのかを悟る。
視界に映る全ての道具、密閉された空間に腕に付いた縄の痕。
その全ての情報から、徐々に意識が覚醒していくのが理解出来た。
「……拷問、どうして?」
記憶が混乱しているのか、それとも覚えていないのか。
あるいはその両方なのかは分からないが、頭痛の中に記憶が朧気だがある。
それは自分が懲罰という形で、拷問を受けていたという記憶だった。
「……私の、腕」
そう呟きながら、自分の腕の違和感を探る。
手首に縄の痕があるが、拘束は既に解かれている。
違和感があるにしろ、動かせる事には不満は無い。
霞んだ視界がクリアになりつつある為、ゆっくりと自分が置かれている状況を把握する。
「……拷問部屋で一人?拷問してた、人は何処に?」
そんな疑問を言ったが、誰からも返答が来るとは無い。
人の気配も周囲から無い様子を見ると、ここには本当に自分しか居ない。
そう思わざるを得ない状況の中で、部屋の中からゆっくりと外へと出た。
両手両足の自由はある為、状況を確認すると同時にこの場所からの脱出である。
「右、左、どっちに行こう?」
ズキズキと痛む頭痛を我慢し、壁伝いで薄暗い通路を進んで行く。
自分の置かれている状況は理解出来たが、それでも現状は打つ手が無い。
片腕の違和感がある以上、迂闊な行動を取ってしまうのは危険だ。
「……」
壁伝いをしながら歩く事、数分。
壁にはユラユラと揺れる蝋燭の灯りが見え、道行く先を照らしてくれる。
分かれ道などが有りそうな雰囲気だが、警戒を怠る訳にはいかない。
「血の臭い……」
やがて分かれ道を見つけた瞬間、鼻を擽る異臭が漂っている。
空気の流れがあるという事は、その方向に出口があるという事なのだろう。
だがしかし、異臭がするという事は危険性があるのは確かだろう。
そう思った矢先、自分の腰を探っても目的の物は見つからなかった。
「ナイフが、無い?」
当然だろう。拷問を受けていたのだから、武器は取り上げられたのだ。
武器を持ったまま拷問を受けるなど、聞いた事が無い話である。
そんな事を思いながら、壁に付いていた蝋燭を手に持って歩を進めるのであった。
「これって、武器?」
また進んだ先で見つけたのは、短いサバイバルナイフだった。
護身用と呼べる大きさのナイフを見た瞬間、記憶の中にあった名前を呟くのであった――。
「これは、マリアの……」




