『真夜中の出会い』
「はぁ、はぁ、はぁ……」
行く当てなんかない。
だけど、走らずには居られない。止まる訳にはいかない。
止まってはいけない……。
今足を止めてしまったら、雑念に押し潰されてしまうから――。
薄暗い森の中から、勢い良く出た瞬間に目を瞑る。
視界を覆うほどの光に襲われて、目を開ける事が難しいからだ。
眩しいと思える光は、少女にとっての終着駅でもあった。
「そんなに急いで、何処へ行くの?」
「……っ!?だ、だれ?」
咄嗟に受けた声に、少女は動揺したように問い掛ける。
振り返った先には、黒いドレスで身を包んだ少女が立っていた。
黒色で身を包んだその姿は、ゴシックチックに染まっている様子だ。
いやもしかしたら終着駅ではなく、寧ろ始発駅だったのかもしれない……。
「珍しいね。目の色、違うんだね」
「あ、えっ、と……きゃっ!」
目を見ようと覗き込む彼女から、条件反射で離れようとする少女。
だが下がろうとした瞬間、自分の踵で躓いてしまう。しかし――
「……大丈夫?」
「は、はい」
倒れる直前で、彼女に支えられてしまった。
抱き抱えてくれる彼女の顔が、全体的に良く見えるようになる。
落ち着いている人だ……そう少女は思う。
思うけれど、彼女と年齢的差は殆ど無いという勘が働く。
「面白い物は見れたし、私はそろそろ家に帰る。……??」
帰ろうとした彼女のドレスに手を伸ばし、少女は人差し指と親指でスカートを摘んだ。
それを見た彼女は、首を傾げて問い掛ける。
「なに?スカートの下は気になるの?パンツしか履いてないから、期待には答えられないよ?」
「ち、違うっ、違い、ます!」
「(ジョークだったんだけど、真に受けられるとは思わなかった)――じゃあ何?私、今から帰るんだけど」
「……っ」
彼女に問い掛けに、少女は黙って俯いてしまう。
空腹を感じたまま、当てもなく一日を過ごせるか不安だ。
そもそも蓄えも何もない少女にとって、このいつまで続くか分からない状況を打破するのは難しい。
ドレスを引っ張られたまま、彼女を溜息を吐いて少女に尋ねた。
「……一緒に来たいの?だったら来れば?」
「え?」
少女は反応に戸惑った。その戸惑っている間に、彼女はスタスタと歩を進める。
慌てて追いかける少女の様子を気配で察知し、後ろを見ずに彼女は口を開いた。
「……霧華」
「え?」
「私の名前。名前が無いと不便でしょ?あなたは何ていうの?」
「――マリ、と言います」
「マリ……うん。分かった」
これがマリと霧華の出会い。
そしてマリにとっての、最初で最期の憧れになるキッカケであった――。