『蛇に睨まれた蛙』
ビルの屋上で、目の前で倒れていく。
ただバランスを崩しただけなら良いが、それでもその倒れ方は違った。
銃声が聞こえ、微かに赤い液体が宙を舞っている。
その視界に映る全てがスローモーションになり、私の鼓動が激しく脈を打つ。
時間が遅く感じるのにもかかわらず、その鼓動は大きく全身を叩いて来る。
「っ……!」
「……」
「お、……お姉さまっ……お姉さまっ!」
拘束が解けたばかりの腕を伸ばし、倒れる彼女の身体を支えるように抱き締める。
だがピクリとも動く事も無く、ただ呼吸が止まってしまったかのように呼吸音も聞こえない。
雨が晴れたばかりの事もあるから、身体の冷える速度も尋常ではない。
「安心しなよ。その程度で死ぬような柔な奴なら、ジェシカが拾ったりしてないよ」
「ぐっ……よくも、よくもお姉さまを撃ちましたねっ」
「それは撃つとも。さっきの彼女は、衝動に駆られ過ぎていた。それはまるで人が変わったかのようにね。それはお互いに確認出来たはずだけど?違うのかい?」
「っ……」
確かに、先程までの彼女は言動も動きも違うものだった。
素早く、鋭く、威圧的な攻撃方法も含まれていた時もあった。
殺気が込められている事もあり、彼女が放った全ての攻撃には威圧があった。
「その状態を維持したまま、屋敷に連れて行く訳にはいかないからね。回収するなら眠らせないと、ね」
「お姉さまを珍獣扱いですか。随分と良いご身分なのですね、貴方は」
「はははは、珍獣?狂獣の間違いだよ、それは。霧華が珍獣なら、珍獣に該当するのはキミだろうね。まぁ薬を作って治療するのはキミだし、勝手に着いて来ると良い。ジェシカも、キミが居ても構わないはずだからね」
「……実は毒薬を作り、お姉さまを殺せという命令を致しませんよね?」
「さぁ。それはジェシカ次第さ。ただ指示を従う暗殺者が、他の事に気を取られる訳にはいかないだろう?どんな命令であれ、情如きで現を抜かして殺せない。なんていうヘマはしないしね」
「っ……!?(この殺気は、何?寒い?全身が凍りついたような、首元にナイフを突き付けられているような感覚はっ)」
そんな感覚を感じながらも、私は少し考えてから彼に着いて行く。
背後を常に取れている安心感というのは、人によってあるのにもかかわらず何も感じない。
何も感じる事は出来ず、何も考える事も出来ない。
彼に一矢報いようと思ったが、今の私では到底敵う相手ではない。
私は感じたばかりの寒気に怯えながら、彼の背中に着いて行くのであった――。




