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【完結】奴隷少女は、笑わない  作者: 三城谷
第六章【血に染まる少女】
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『覚醒』

 ナイフが飛んで来た。

それを私は、瞬時に掴み取って手を翻した。

微かに指に切り傷が出来たものの、不思議と痛みは感じない。

それどころか、私の思考はとてもクリアとなっている。


 「……何をしたっ!」


 目の前でそう叫んでいる彼の肩には、私が返したナイフが刺さっている。

そのナイフを抜きながら、彼は私を真っ直ぐに見据えている。

状況から察するに、彼にとって知らない技をしたと思われているのかもしれない。

だがしかし、私は特別何かをした訳では無い。


 「……ふふふ」

 「っ!?」


 そう、何もしていない。

ただ、いつも通りにしただけだ。


 ――目の前に立っている敵を排除する為。


 それだけの理由があれば、私は戦える。

相手に容赦する事なく、一切の躊躇なく殺せる。


 「お、お姉さま……?」

 「マリア、大人しくしてて。すぐに終わらせてあげるから」

 「……っ(いつものお姉さまじゃない。あのレイフォードと名乗っていたお姉さまとも違う。この寒気は……一体)」


 縛られたまま、私の事を真っ直ぐに見るマリア。

メイド服の上から縛られているから、窮屈な服の上にさらに窮屈そうだ。

だが良く見れば見る程、彼女には外傷と呼べる外傷が全く無い。

本当に私を陥れたかったのなら、彼女に傷の一つや二つ与えてもおかしくない。

寧ろ自然な行動だと思えるのだが、何故彼はそれをしなかったのか。


 「……何もしていない。ただナイフを投げ返しただけだよ、レン」

 「予備動作が無いように見えたが、それが可能なのか?お前」

 「予備動作っていうのは、次の行動に移る為の体勢準備。でもそれをするのなら、私にとっては愚の骨頂だよ?だってそうでしょ。――」

 「っ!?」


 そう言いながら、私は彼との距離を予備動作無しに詰める。

持っていたナイフを先に投げ、回避した彼の体勢が崩れたところで目の前に現れる。

神出鬼没のように見えるだけで、ただの相手から私への視線を外させただけ。

そして、人間の視界の死角である斜め下からの攻撃。


 「ぐっ……」

 「どうしたの、レン。さっきまで、私を殺す気満々だったのに……本気を出させたのだから、もう少し楽しませてよ」

 「この、やろうっ!!」


 不利な体勢から、無理に繰り出した蹴り上げ。

その足を掴み取って、私は彼の身体を振り回して投げる。

投げられた彼は、地面に足を付いた瞬間に受身を取って体勢を立て直す。


 「はぁ、はぁ、はぁ……お前、本当に同一人物かよ」

 「……ふふふ。何を言ってるの?ずっと私は私だよ」


 私がそう言った時、空が鳴き始めた。

やがてポタポタと冷たい水が降り始め、私たちの身体を叩き始める。

灰色から雷雲へと変わった空から、ピカッと光る一閃が発生した瞬間だった。


 「……ぐっ」

 「さぁ、始めよう。私たちの殺し合いを」


 彼の瞳には、笑みを浮かべた私が映っていたのであった。

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