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【完結】奴隷少女は、笑わない  作者: 三城谷
第六章【血に染まる少女】
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『返るナイフ』

 自分の足元に溜まっていく赤い水。

それを見つめる霧華は、ユラユラと身体を左右に揺らす。


 「……!」


 そして、精神状態が不安定となっていく。

ユラユラと緩やかだったバランスが、グラグラとそれを崩していく。

やがて精神がボロボロと崩れ、奈落の底へと堕ちていく。


 「っ、お姉さま……?」

 「――どうした?あまりの痛みにオカシクなったか?」


 黙ったまま、その場から動かない霧華。

そんな霧華を見据えながら、煽るようにしてレンは言った。

その言葉を聞いた瞬間、マリアはギロリとレンを睨み付ける。


 「よくも、よくもお姉さまの腕をっ!」

 「おいおい、お前が吼えるのかよ。自分の状況を忘れるなよ?」


 ナイフを手元で遊ばせながら、レンはそんな事を笑みを浮かべて言った。


 「ふざけるなっ。殺すっ、お姉さまの腕を傷つけたお前なんかっ、殺してやるっ!」

 「まるで狂犬だな。歪んだ愛情は時に人を惑わす。他人を慕ったとしても、必ず上手く行く訳ねぇだろ?たったこれだけの障害が出た程度で、何を取り乱してるんだよ?あぁ?」

 「ぐっ……お姉さま、応急処置か一時撤退を!そのままでは大量出血で死んでしまいます!お姉さまっ」


 縛られた状態で起き上がろうとしながら、マリアは霧華にそう叫んだ。

だが無言のまま佇む彼女には、そんな声が届いている様子には見えなかった。

それどころか、彼女の目はレンから逸らされる事は無かった。


 「……」

 

 痛みもある。

 視界も歪んでいく。

 見える景色が霞んで、レンの姿も見えにくくなっている。


 ……だが、霧華は見据えたまま動こうとしていない。

その様子を疑問に思ったのか、レンは首を傾げながら問い掛ける。


 「おいおい、本当に死んじまったんじゃねぇだろうな?この程度で死ぬとか、有り得ねぇだろ」

 「……」

 「無視か?少しは反応を示して欲しいなぁ?」

 「…………」

 「チッ、興醒めだな。これを投げて終わらせてやるよ。あばよ、霧華」


 レンは肩を竦め、半ば諦めた様子で手元のナイフを投げた。

霧華に向かって真っ直ぐ飛んでいくナイフ。

それはやがて霧華へ到達する。……はずだった。


 ――グサッ!


 「え……?」


 レンは声を漏らした。

それは何故か――疑問に思ったそれを見つめる。

肩に刺さったナイフ。投げたような格好の霧華。

その様子を見て、レンは目を見開いて声を漏らした。


 「――お前、何をした?」

 「……」

 「何をしたっ!」


 答えは簡単で、実に明解な事だ。

だが一歩も動いた様子の無い彼女の姿を見て、レンは睨んだのである。

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