『霧華、負傷す』
「はぁ、はぁ、はぁ……」
壁から飛んで来るナイフ。
上から振って来る毒蛇と毒蜘蛛。
階層を全て丸ごと使用した毒ガス。
上へ上へと階を進む毎、罠のレベルが上がっていく。
「……(この上が、屋上?)」
上がってしまった息を整えながら、霧華は上を見据える。
彼女は、ここまで自分自身がマリアを助けようとするとは予想外だった。
だがしかし、その中で驚いていたのは自分の中にある気持ちである。
「良く、ここまで来たなぁ?今は、霧華って名前なんだっけか?」
「……マリアを返して」
「良いぜ?オレに勝ったらな」
彼はそう言いながら、マリアの横に刺さっていたナイフを抜く。
持ったナイフを逆手に持ち替えながら、ゆっくりと互いに前に出る。
徐々に詰められる距離の中で、彼は言うのであった。
「こうやって話すのは久し振りだな」
「ん、孤児院以来」
「元気だったかよ」
「普通」
「そうか。そいつは良かった」
「……」
「なら、殺し甲斐しか無ぇよな!」
そう言った彼は、姿勢を低くして距離を詰め始めた。
その動作に反応を示す霧華は、目を細めて銃を取り出して構える。
「飛び道具にしちゃ、物騒なモンじゃねぇか」
「っ」
二発の銃弾を放ったが、彼は物怖じせずに銃弾をナイフで弾く。
軽く火花を散らしながら、接近戦へと持ち込んだ彼は格闘を繰り出す。
右から大振りの蹴りを放ち、霧華は腕で顔面をガードした。
「ぐっ……」
「おっと、危ない危ない」
ガードした彼の足を払い、再び銃弾を至近距離で撃ち放つ。
首を傾けつつ、身体のバランスを維持したままバク転をして距離を取る。
着地したと同時に彼は呟き、再びナイフを逆手に持って体勢を低くした。
「飛び道具にご執心なのは良いが、その所為で他がお留守だぜ?」
「しまっ……――っ!?」
蹴り上げが腕に直撃し、銃だけが手元から外れる。
それを確認した彼は腕を引き、溜めに溜めた力を前へと押し出した。
勢い良く撃ち込まれた腕は、霧華の腹部へと直撃した。
「がはっ……!?」
腹部から全身に走る痛みに耐え切れず、思わず胃液と声が口から漏れる。
グラリと体勢を崩した霧華だったが、苦し紛れにナイフを彼へと振り翳す。
「無駄だ。お前と組手をして、負けて来たのはどこの誰だと思ってるんだよ」
「くっ……」
「ふっ!!」
「ぐっ……あぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
今までに無い程の激痛が走り、霧華は出した事の無い悲鳴を出した。
その悲鳴を聞いたマリアは、目を見開いて霧華の腕へと視線が捉える。
そこには逆の関節へと曲げられ、動かせなくなった腕が目に入ったのであった。
「どうだ?霧華。力尽くで骨折させられた痛みの味は」
「……っ」
曲げられなくなった腕を押さえながら、霧華は彼を睨み付けて言った――。
「っ、殺すっ!」




