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【完結】奴隷少女は、笑わない  作者: 三城谷
第六章【血に染まる少女】
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『霧華、負傷す』

 「はぁ、はぁ、はぁ……」


 壁から飛んで来るナイフ。

上から振って来る毒蛇と毒蜘蛛。

階層を全て丸ごと使用した毒ガス。

上へ上へと階を進む毎、罠のレベルが上がっていく。


 「……(この上が、屋上?)」


 上がってしまった息を整えながら、霧華は上を見据える。

彼女は、ここまで自分自身がマリアを助けようとするとは予想外だった。

だがしかし、その中で驚いていたのは自分の中にある気持ちである。


 「良く、ここまで来たなぁ?今は、霧華って名前なんだっけか?」

 「……マリアを返して」

 「良いぜ?オレに勝ったらな」


 彼はそう言いながら、マリアの横に刺さっていたナイフを抜く。

持ったナイフを逆手に持ち替えながら、ゆっくりと互いに前に出る。

徐々に詰められる距離の中で、彼は言うのであった。


 「こうやって話すのは久し振りだな」

 「ん、孤児院以来」

 「元気だったかよ」

 「普通」

 「そうか。そいつは良かった」

 「……」

 「なら、殺し甲斐しか無ぇよな!」


 そう言った彼は、姿勢を低くして距離を詰め始めた。

その動作に反応を示す霧華は、目を細めて銃を取り出して構える。


 「飛び道具にしちゃ、物騒なモンじゃねぇか」

 「っ」


 二発の銃弾を放ったが、彼は物怖じせずに銃弾をナイフで弾く。

軽く火花を散らしながら、接近戦へと持ち込んだ彼は格闘を繰り出す。

右から大振りの蹴りを放ち、霧華は腕で顔面をガードした。


 「ぐっ……」

 「おっと、危ない危ない」


 ガードした彼の足を払い、再び銃弾を至近距離で撃ち放つ。

首を傾けつつ、身体のバランスを維持したままバク転をして距離を取る。

着地したと同時に彼は呟き、再びナイフを逆手に持って体勢を低くした。


 「飛び道具にご執心なのは良いが、その所為で他がお留守だぜ?」

 「しまっ……――っ!?」


 蹴り上げが腕に直撃し、銃だけが手元から外れる。

それを確認した彼は腕を引き、溜めに溜めた力を前へと押し出した。

勢い良く撃ち込まれた腕は、霧華の腹部へと直撃した。

 

 「がはっ……!?」


 腹部から全身に走る痛みに耐え切れず、思わず胃液と声が口から漏れる。

グラリと体勢を崩した霧華だったが、苦し紛れにナイフを彼へと振りかざす。


 「無駄だ。お前と組手をして、負けて来たのはどこの誰だと思ってるんだよ」

 「くっ……」

 「ふっ!!」

 「ぐっ……あぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」


 今までに無い程の激痛が走り、霧華は出した事の無い悲鳴を出した。

その悲鳴を聞いたマリアは、目を見開いて霧華の腕へと視線が捉える。

そこには逆の関節へと曲げられ、動かせなくなった腕が目に入ったのであった。


 「どうだ?霧華。力尽くで骨折させられた痛みの味は」

 「……っ」


 曲げられなくなった腕を押さえながら、霧華は彼を睨み付けて言った――。


 「っ、殺すっ!」

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