プロローグ
カチ、カチ、カチ、カチ……。
時計の針が、一つずつ鼓動する音が室内に響く。
耳障りな音を聞いていると、それとは違う音が外から近寄ってくる。
カツ、カツ……と床のタイルに当たる音。
「……」
息を潜めて、少女はただ身を隠す。
近寄ってくる足音は、やがて少女の居る部屋の前までやってくる。
そして足音は止まり、ノックの音が二回響く。
『旦那様?そろそろお時間です。お車の用意が出来ておりますので、お支度をお願い致します』
「…………」
『――旦那様?』
扉の向こう側で、女性の声のトーンが下がる。
業務内容のような口調から、心配の入った声色へと変化している。
それは徐々に聞けば聞くほど露わになっていく。
『失礼致しますっ旦那様っ!』
扉は勢い良く開き、メイド服で身を包んだ女性は部屋の中へと足を踏み入れた。
その瞬間、女性の鼻に嗅ぎ慣れた匂いを感知する。
それは知っている匂いであり、誰もが嗅げば不快に思うであろう匂いだった。
女性は慌てた様子で部屋を飛び出して、誰かを呼びに行ってその場から離れた。
「…………っ!」
少女は身を隠すの止め、開けっ放しになった扉から走り出る。
まるでその場から逃げるように……。
夜中の森は危険だと知らされていたのにも関わらず、その森を少女は走り続ける。
震えた身体を誤魔化すように、抱き締めるヌイグルミに力が入り込む。
やがて朝となり、少女は行方不明となった。
そして翌日。
少女を探して欲しいという願いを受け、警察が動くと新聞に掲載される事になったのだった。
少女の特徴は二つ。
一つは『大きなウサギのヌイグルミを』持っている事。
そしてもう一つは……『左右の瞳の色が違う』という事だった。