『いざ、廃ビル内へ』
孤児院での記憶は朧気ながら覚えているが、全体的に印象が薄い。
何故なら、覚えていないではなく覚える必要が無いと霧華は思っていたからだ。
だがしかし、レンが現れた事によってその記憶が浮かび上がってきた。
「……そっか。レン、私を殺したいんだ……」
そう呟きながら、霧華は灰色の空の下で足を進める。
孤児院での生活を思い出しながら、霧華は周囲を警戒する。
やがて辿り着いた場所は、誰も居ない薄暗い廃墟だった。
「……ここ、かな?」
霧華は入り口で立ち尽くし、廃墟となっているビルに視線を向ける。
上へ上へと続いてるのだが、建設中だったのか。所々で未完成な部分がある。
霧華は目を細めてから、小さく息を吐いてビルの中へと入る。
「『……やぁ、やっと着いたのか。随分と遅かったじゃないか』」
「っ!?」
全体に響いたような声が、耳の中に入ってくる。
周囲を警戒しながら奥へと進むが、人の気配はしない。
だがその声は、霧華を煽るようにして続けられた。
「『――マリア・スカーレットとオレは屋上に居るけど、途中途中に罠があるから気を付けるんだな』」
「罠……」
彼の事に詳しく無い霧華は、彼がどんな戦い方をするのかを思い出そうとする。
だがしかし、幼少時の組手しか思い出せない事を理解した瞬間に溜息を吐いた。
そして目を細めて、奥へと注意を張り巡らせた。
「……」
罠があると聞いた以上、迂闊な行動を避けなくてはならない。
もし選択を見誤った場合は、それ相応の被害を被る事になるのは間違い無いだろう。
だがそれでも、霧華は警戒しながら奥へと進むしか選択肢は無かった。
「――マリアは、無事?」
霧華は気付けば、そんな事を上に向かって問い掛けていた。
それは自分でも驚いている様子だったが、今はその問いの答えを待つ。
やがてジジ……という音が聞こえると、また周囲からノイズ混じりの声が聞こえて来た。
「『一応、無事ではある。だけど全身を縛っているから、オレが悪戯をしようと思えばしちまうかもな』」
「悪戯?……レンの狙いは私じゃないの?」
「『確かにオレの狙いはお前だけど、オレはお前の歪んだ顔も見てみたいんだよ。どうせならそうだな。遅くなればなる程、こいつの身体の何処かを傷付けるっていうのも有りだな』」
「っ……!」
その言葉を聞いた瞬間、目の前に見えたピアノ線に切断をした。
罠が発動し、霧華を狙ってナイフが数本何処かから放出された。
霧華は逆手に持ったナイフで弾き、先を見据えて階段を目指した。
そんな霧華の動向を覗きながら、ニヤリと口角を上げる少年の姿が居たのであった――。
「霧華の奴、挑発に乗ってるね。どうする?ジェシカ?」
「…………」




