『人質コール』
――家族とは何か。
そんな人生論みたいな考えを抱く。
だがそんな考えを抱いてみても、この心を満たす方法は無い。
今、自分が抱いている感情が何なのか。それさえ分からない。
「……ンンッ!……ッ!!」
降られる心配が無くなったとはいえ、未だに空気が変わる気配は無い。
いずれもう一度降る気配があるのが、その変わる事の無い空気を納得させる。
「お前は少し大人しくしていろ。もう少し時間制限付きで、お前の慕っている『お姉さま』が探してくれるさ」
「ンンッ!!!……ッ!ッ!」
身動きが取れない状態だというのにもかかわらず、縛られている者から睨み付けられる。
睨まれるのには慣れているのだが、どうも理解に苦しむ行為でしかない。
オレがその気になれば、いつでもお前のような存在は殺せるというのに。
「言う事を聞いておいた方が賢明だ。大事なお姉さまに再会出来ないまま、お前は命を落とす事になるぞ?」
少し刃物を見せれば、この年の人間はすぐに大人しくなる。
今までも脅迫する時には、こういう風に相手の状況に合わせた物を用意する。
それは拷問する必要が出来た事にも備え、様々な道具が日頃から持ち歩いている。
だから脅迫にも、拷問にも困る事はまず無い。だがオレは、困惑しているらしい。
「ッ……ンン!!」
「はぁ……どうすれば大人しくなるんだ?この命知らずは」
本当ならば、人質なんて取る必要は無い。
だがこの日本で場所を作る為には、どうしても隔離する場所を確保する必要があった。
その為、誘い出す為にはこの方法しか思い付かないというのが結論だった。
だがこれでは、集中力が削がれて本末転倒という始末だ。
我ながら情けない結果を生んでしまっているが、彼女は何をしている。
さっさと仲間なら助けに来たらどうだ、というのが本音である。
「お前、お姉さまに見捨てられてるんじゃないのか?」
「――っ!?……(うるうる)」
「いやいや、オレに刃物向けられてる時より泣きそうにしてんじゃねぇよ!」
簀巻き状態にされている少女が、泣きそうな表情でジタバタしている。
本来ならば望ましい展開なのだが、どうしてだ。今更な気がするのは気のせいか。
……少女を人質にしたのは、我ながらミスチョイスな気がして来た。
「はぁ……お前、本当にあいつのメイドなのか?あいつのご主人様に仕えてるっていう事なら、なんとなくで理解が出来るんだが?」
「……ぷはっ、私の仕えてるのはお姉さまですわ。それ以上でもそれ以下でもないですわ!」
「じゃあお前を助けに来ないのは、そのメイドを見捨てたという事にはならないのか?」
「…………そ゛ん゛な゛ごどな゛い゛でじゅがら゛」
「泣きながら言うな。非常に汚いから不愉快だ」
「ぐすっ……お姉さまが来なかった時は、その時は容赦なく私を殺しなさい」
顔を少し左右に振ってから、彼女は気を取り直した様子で言った。
コロコロと様子が変化する奴と思ったが、放っていた言葉と表情に正直驚いた。
「愛しいお姉さまとやらに会いたくないのか?」
「今の私が居るのは、お姉さまに必要だと拾われたからです。その私が不要となったのであれば、もう私があの場に居る必要はありません」
「だから死を選ぶと?」
「そうです。それがお姉さまの望みなのでしたら」
オレは溜息混じりに背中を向けて、風が吹く空を眺めながら携帯を取り出した。
着信音が耳元で響く中で、ツーコール目で相手が出た事を確認してから口を開いた――。
「オレだ。お前のメイドは預かってる。日の出までに来なかった場合、オレはそのメイドを甚振ってから殺す。精々、必死に探せ。――夜はまだ続きそうだな」




