『誰も居ない部屋で』
プルルルルル……。
鳴り響く電話のベルが聞こえ、少年は溜息を吐いた。
仕方なくという様子で立ち上がり、その電話を手に取る。
「……もしもし」
『……』
耳に当てて呟いたが、電話越しに物音が聞こえない。
だが電話越しに人の気配はあっても、何も聞こえない状態だった。
少年は呆れた様子で嘆息し、腰を下ろして言葉を続けた。
「何か用なのか?あいつの居場所なら突き止めたぜ」
『……会えたのか』
「会えたは会えたな。だが名付けされてるし、本当に奴隷になってるな。あれは」
『孤児院に居た時からあまり変わらない状態だな。まぁ、元気にやっているようなら安心した』
「あんたが会いに行けば良いだろ。何でオレに行かせたんだ?」
『私が行けば刺激するだけだろう。下手に刺激するよりも、お前が行った方が得策だろう?』
「オレが行った方が逆効果だと思うんだけどな。……まぁ、あんたよりは上手くやれる自信はある」
電話越しに笑みを浮かべているのか、小さく笑って電話越しの人物は言った。
『――確かにお前は数々の修羅場を越えたのだから、自信はあるだろうな。だがお前には本来、その知識は必要の無かった事なのだがな。わざわざ私に教えを請うとは、全く珍しい子供だ』
「……」
電話越しに言われた事は、自分でも自覚しているのだろう。
少年は目を細めながら、奥の部屋へと視線を送る。
「悪いけど、オレは今取り込み中なんだ。情報を得たいのならあいつの主人にでも直接聞けば良い。あいつを育てた親代わりのあんたとなら、あいつの主人も会う機会を作るかもしれないぜ?」
『……私にそのつもりは無い。取り込み中ならば仕方が無い。また電話を掛けるとしよう』
「……」
もう掛けてくるなと思いながら、少年は電話を切った。
溜息混じりに奥の部屋へと向かい、目を細めて足元へと視線を送る。
その足元には、手首を後ろで縛られて転がっている少女の姿があった。
「寝たフリか?随分と余裕だな」
「……」
「無視か。まぁ気絶しているフリはフリで良いけどよ、どうなっても知らないぜ?」
「……」
少女が起きている事は知っているが、少年は肩を竦めて部屋を出て行った。
キィと錆びた金属音が響き、少年の姿が見えなくなった瞬間に少女は目を開く。
目を開いた少女は周囲に視線を送り、グッと唇を噛んで悔しさを噛み締めていた。
誰も居ない部屋の中で、少女はただ一人取り残された状態で呟くのであった――。
「……お姉さま、マリアは死ぬかもしれないです。……っ」




