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【完結】奴隷少女は、笑わない  作者: 三城谷
第六章【血に染まる少女】
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『専属メイド』

 雨が窓を叩く音が響く部屋。

 時計の針の音が響く部屋。

 自分の鼓動だけが響く部屋。


 そのそれぞれに違う音は、自分自身がどんな状況かを説明してしまう。

説明された挙句、自分が置かれている状態までも証明されてしまう。


 「……お姉さま」


 ただ一人で呟いた言葉は、空虚に響いて自分の耳へと返ってくる。

誰も返事する事もなく、違う誰かが反応する様子も気配も感じない。

ただ一人。この部屋の中でただ一人であり、今たった独りだという事なのだろう。


 「……どこに行かれたのですか、お姉さま」

 「……」


 そんな孤独感に包まれていた中で、付近から人の気配を感じた。

誰かが近付いてくる感覚が、誰かがこちらを見る感覚が襲ってくる。

もうどうでも良い。普段ならば侵入者など許さなかったが、今はそれがどうでも良い。


 「へぇ、随分と片付いてたと思ったんだけどな。ここ数日で、ここまで散らかすか」 

 「……だれ?」

 「……へぇ、覇気は無くてもナイフは構える元気はあるのかよ。変わってる奴だ」

 「このナイフには即効性の毒が塗ってある。少しでも掠ったら即効性で御陀仏」

 「へぇ」


 忠告のつもりもないし、警告しているつもりもない。

ただ何か理由を付けないと、今の自分は動けないと分かっている。

それ程に自分の身体が、動く事自体を拒んでいる。


 「安心しろ。オレはお前を殺すつもりは無い」

 「……では、何故?」

 「簡単な話だ。あいつに一番近い奴が誰か、それを探った結果だ。喜べよ。お前はオレの玩具に選ばれた。光栄に思えよメイド」

 「……玩具?私が、貴方の?」

 「あぁそうだ。どうせ仕えていた主人が居なくなって、途方に無い空虚感に包まれてるんだろ?ならその空虚感をオレが埋めてやるって話だ。感謝してオレの為に働け、メイド」

 「……」


 持っていたナイフに反射する自分の顔は、あの人と同じ無表情に近い。

確かにいつもの自分よりも、空虚感に包まれているらしい。

だがしかし、それでも自分が彼に仕えるという話はまた別な話でしかない。

そう。あくまで自分は……――。


 「――……ます」

 「んあ?何だ、良く聞こえねぇぞ。――ッ!?」


 ヒュンと風を斬る音が聞こえ、その直後にダンと壁に何かが当たる音が部屋中に響く。

目の前には目を見開いた少年が居て、自分の手元から離れたそれが壁に突き刺さっている。

そんな様子を無意識下で行動にした瞬間、自分がした事の意味を知って笑みを浮かべた。


 「お断りします。あくまで私は、霧華お姉さまの専属メイドですから」

 「……惜しいな。この手際なら、面白い玩具になったのにな。……残念だ」

 「私もです。出会い方が違えば、貴方はお姉さまと仲良くなれたというのに」


 小さく交わされた会話の後、少女の意識は現実から遠ざかった。


 「……おねえ、さま……」

 「仲良く、だ?オレは、あいつと仲良くなんてなれねぇよ」

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