『専属メイド』
雨が窓を叩く音が響く部屋。
時計の針の音が響く部屋。
自分の鼓動だけが響く部屋。
そのそれぞれに違う音は、自分自身がどんな状況かを説明してしまう。
説明された挙句、自分が置かれている状態までも証明されてしまう。
「……お姉さま」
ただ一人で呟いた言葉は、空虚に響いて自分の耳へと返ってくる。
誰も返事する事もなく、違う誰かが反応する様子も気配も感じない。
ただ一人。この部屋の中でただ一人であり、今たった独りだという事なのだろう。
「……どこに行かれたのですか、お姉さま」
「……」
そんな孤独感に包まれていた中で、付近から人の気配を感じた。
誰かが近付いてくる感覚が、誰かがこちらを見る感覚が襲ってくる。
もうどうでも良い。普段ならば侵入者など許さなかったが、今はそれがどうでも良い。
「へぇ、随分と片付いてたと思ったんだけどな。ここ数日で、ここまで散らかすか」
「……だれ?」
「……へぇ、覇気は無くてもナイフは構える元気はあるのかよ。変わってる奴だ」
「このナイフには即効性の毒が塗ってある。少しでも掠ったら即効性で御陀仏」
「へぇ」
忠告のつもりもないし、警告しているつもりもない。
ただ何か理由を付けないと、今の自分は動けないと分かっている。
それ程に自分の身体が、動く事自体を拒んでいる。
「安心しろ。オレはお前を殺すつもりは無い」
「……では、何故?」
「簡単な話だ。あいつに一番近い奴が誰か、それを探った結果だ。喜べよ。お前はオレの玩具に選ばれた。光栄に思えよメイド」
「……玩具?私が、貴方の?」
「あぁそうだ。どうせ仕えていた主人が居なくなって、途方に無い空虚感に包まれてるんだろ?ならその空虚感をオレが埋めてやるって話だ。感謝してオレの為に働け、メイド」
「……」
持っていたナイフに反射する自分の顔は、あの人と同じ無表情に近い。
確かにいつもの自分よりも、空虚感に包まれているらしい。
だがしかし、それでも自分が彼に仕えるという話はまた別な話でしかない。
そう。あくまで自分は……――。
「――……ます」
「んあ?何だ、良く聞こえねぇぞ。――ッ!?」
ヒュンと風を斬る音が聞こえ、その直後にダンと壁に何かが当たる音が部屋中に響く。
目の前には目を見開いた少年が居て、自分の手元から離れたそれが壁に突き刺さっている。
そんな様子を無意識下で行動にした瞬間、自分がした事の意味を知って笑みを浮かべた。
「お断りします。あくまで私は、霧華お姉さまの専属メイドですから」
「……惜しいな。この手際なら、面白い玩具になったのにな。……残念だ」
「私もです。出会い方が違えば、貴方はお姉さまと仲良くなれたというのに」
小さく交わされた会話の後、少女の意識は現実から遠ざかった。
「……おねえ、さま……」
「仲良く、だ?オレは、あいつと仲良くなんてなれねぇよ」




